―8/ブレーダーズ―
ステータスとかそういうのを考えるのが逐一めんどくさい←
ちなみにMPにCOUNTER STOPと出ていますが、むしろニュアンスとしてはオーバーフローに近い感じ。10000以上MPがある人なんて見たことがなかったのでしょう。
街の特色なのか裏路地に入っても夕日が美しい。腕時計で午後5時を指しているが、今日はとても長い一日だったなと思いため息をつく。桜花は無事なのか、そう思いながらギルドカードをみるとさらっととんでもないことが書かれていた。
<NAME:ニコ・ヴァ―ミリオン>
ランク:B2
二つ名:奇天烈
ステータス
Lv:1
(生命力)HPT:450
(魔法使用値)MPT:COUNTER STOP
(攻撃力)ATK:28
(守備力)DEF:24
(魔力)WIS:1628
(魔法防御力)MEN:18
(速さ)SPD:42
(器用さ)DEX:18
……ランクがF10から一気に上がった、これには自分も唖然とした表情を隠せない。そして二つ名の奇天烈もよくわからない。
そしてステータスを見ると改めて異常さが分かる。Lv1ですよね?魔力が既に4桁に達している上に魔法使用値がカンストってどういうことでしょう?
そんな僕だがどうやら身長の低さと童顔も相まって弱い少年と見られているらしい。
さっきも裏路地を通った荒くれから金銭を要求されたが返り討ちにした。そしてそれを見ていた暗殺ギルドの人に勧誘されたが、今は少し事情があって、と断った。
この地形は、円状の敷地に5つの大通り(中心にある城から東西南北に広がる大通りと外側の円にそって広がる大通り)があり、そこから複雑に路地が広がっている。
そのため今どの大通りからも外れた位置にある裏路地に迷い込んだのだが、この通りはこっちでいうバーや居酒屋が多いのかこの時間からぽつぽつと兵士や戦士が店に入ってくる。
当然ここら辺の通りは荒くれ者たちの住処でもあるためさっきのように脅されることも多いが、兵士や戦士たちは襲ってはいけないという認識があるため、専ら狙いは観光客のようだ。
さて、裏路地のとある居酒屋風の店に入る男女ペアの旅人三人が何やら話をしているようだ。
「おいおい、つい最近魔術師いびりのロズがこの街に入ったってよ」
「どうやら裏の取引を始めたようだね」
「あたしはマリウス家の次男のところに飼ってる獣人を引き払うって聞いたけど?」
「あのデブか…ん、普通ならあいつ反対しねぇか?」
「長男が関与してたとしても、何か怪しい」
「しっかし白昼から堂々と裏路地でねぇ、あたしも驚いたよ」
僕はここに来たばかりなのでマリウス家のことはほとんど知らないのだが、三人が聞いた発言で完全に思い出した。
如何にも悪徳にまみれた豚のような貴族と、チェーン付きの首輪で繋がれている白い耳と尻尾が生えている女の光景、スキルが見えて驚愕する前に見えたその女の表情は、助けてほしいというような感じだった。
多分それとほぼ同じ時期にそのうちの一人が僕の存在に気づく。
「ねぇ…さっきから思ってたけどこんなところに少年が無傷でいるってあり得ると思うかしら?」
「…訳ありのだね、って…リーダー…」
僧侶風の男が止めに入るも叶わず、リーダーと呼ばれたごつい男が僕に話しかけてきた。
「おいチビ…俺と酒飲まねぇか?」
…この人、(現実世界だと)未成年に酒を進めている馬鹿だ。
「まだ16ですし、それにお金持ってませんから!」
僕はなるべく丁寧に断ってそのまま逃げようとしたのだが、朝からなにも食べてない僕の腹の虫は正直だったようだ。
「くすす。ねぇ、見たところキミはなにか情報を持っているように見えるんだよね。あたしたちと一緒に行かない?お金はちゃんとあたしが払ってあげるから!」
目の前にいた女戦士の猛アピールに押され結局ついていくことになった。
…やっぱり女の押しにはとことん弱いようだ。
「いらっしゃい旅人さ…おお、『ブレーダーズ』の連中か、久しぶりじゃねぇか!元気にしていたか?」
店に入るなり驚いたのだが、軽い挨拶をしてきたのは蜥蜴を擬人化したような人だった。
「あら店長さんお久しぶりね、今日は4人でお願いしてくれるかしら?」
女剣士も澄ました表情で店長と呼ばれた蜥蜴の獣人に向かって挨拶を返す。すると店長は僕の様子をまじまじと見つめていた。
「へぇ、あんたが今日いきなり有名になった『奇天烈』か、俺は名前を言わねぇ主義だが、気軽に店長って呼んでくれよな」
「はい、宜しくお願いします、」
そういうと握手を求める店長に応えるように差し出された手を握った。
「店長、おまかせ4人分で頼む、あと俺に生ビール」
そんな行動も無視してごつい体格のリーダーが勝手に注文している。いつも通りだなと苦笑気味に笑う店長と仲間たち。
「そういえば紹介がまだだったなチビ。俺は『剛腕』のゴードンだ、『ブレーダーズ』のリーダーを務めてる。んで、こっちの優男が『水面の指揮者』のレムレス、こっちの女剣士が『爆剣』のマリアだ」
「えっと、『奇天烈』のヴァ―ミリオンです」
覚束ない挨拶をする僕に対してそう気負うなと肩を叩くゴードン、そして彼に付き添うようにカウンター席に座る。因みに席順は、左からゴードン、僕、マリア、レムレスの順番だ。
「あの…見た感じ三人とも魔法剣士ですか?」
僕は率直な疑問を投げかけた。賢者の目を発動させるとゴードンのスキルに≪火魔法≫、レムレスのスキルに≪水魔法≫と≪回復魔法≫、そしてマリアのスキルに≪爆発魔法≫が見えた。更に三人とも種類は違うものの皆剣を装備している。
「正解だ。会って間もないのによくわかるなチビ」
ガハハ、と豪快に笑うゴードン。どうやらチビというのは僕の愛称のようで、いつもこんな感じだなと店長も頷く。マリアはさっきから何故か僕を気に入っているらしく、ドリンクのメニュー表を見せて「何がいいかな」と話しかけてくる。
因みにこの世界で定義する「成年」は15歳なので僕の年齢で酒を飲むこと自体特段問題はないそうだ。レムレスはただ僕を訝しげに見ている。まあこれが正しい反応だろう、と心の中で苦笑する。
「成人しているとはいえまだ若いからあんまりアルコール度数がきついのはやめた方がいいわね、店長、この子に度数低めのカクテルを一つ、あとあたしたちはいつもの」
「はいよ」
店長が返事を返すと同時にゴードンが頼んだビールが届いた。
「特に乾杯するようなこともねぇな、飲むぞ」
そのごつい体にあう豪快な飲みであっという間にビールがなくなる。続いてレムレスに白ワインらしきものが置かれると、対照的にゆっくり飲んでいる。やがて静かに一口目を飲み干すと、僕に向かってこんな話をした。
「奇天烈君、君はもしかして『目』持ちなのかい?」
「賢者の目っていうのはありますけど…?」
リュミエール同様ここにいる全員が一瞬驚いたようだが、直ぐに店長が
「珍しいスキルは言わない方がいいぜ、誰か彼かに狙われかねないからな」
とフォローを入れ、ジョッキーのような陽気に茶色の液体が入ったものを僕とマリアに差し出した。どうやらウーロンハイのようだが、飲んでみると烏龍茶に仄かな桃の味がした。
「これこれ、『姑娘』っていうんだけど結構癖になるんだよねー」
マリアも上機嫌にそれを飲む。ゴードンはもう二杯目を飲み干したようだ。と、ここで店長がに、と微笑んで
「さてさて、ちと早いが情報交換と行こうか、いい情報持った客は5%引きだぜ!」
と言った途端にほかの客たちから情報が次々と言葉や紙で寄せられてくる。その中で初代魔王の復活を話す物がいたが、これは店長が既に知っていることだったらしく、今各ギルドで対策を立てていると微笑んで安心しろと言っている。
その他も、特に事件と他愛のない情報はメモしつつ貼り付けるが、申し訳なさそうに「3%引きだな」と言う。中には奇天烈に関する情報をわざわざ出してきた客もいて、「その奇天烈さんが飲みにきてるぜ」と紹介され、場が一際盛り上がった時には結構恥ずかしかったのは言うまでもない。
その後も双子魔術師がこの街に来ているという情報が飛び交うと別の客が「リュミエールの奴奇天烈にべったりだったな」と茶化してきて僕がそれを修正したり、と楽しく酒を飲み明かす客人たちだったが、この状況下レムレスが言った言葉で、たちまち皆が静まりかえった。
「魔術師いびりで有名のロズがこの街にいるらしいが」
中には恐怖に慄く人もいるほどだったのだが、直ぐに店長がフォローをする。
「楽しい話の中でとんでもない爆弾をしかけてきたなレムレス、ただこういう情報交換も旅人たちにとっては大事だ。皆、特に魔術師たちは今日から気を付けるようにな」
と、その時、からんからんと乾いたベルの音を鳴らして何者かが入ってきた。
「いらっしゃい旅人さ…おお、全員運がいいな、『双子魔術師』さんが店に入ったぞ!」
…え?何だって?
※訂正コーナー