―4/美と音楽の都市アムドゥスキアス―
新章開始。ここから少し文字数が少なくなります。
そして暫く説明回になりそうな予感。
僕は隼のように空を飛んでいる、というのはパイロットがとても速い航空機に乗った時に使う比喩なのかもしれないのだが、今は本当に僕が空を飛んでいる。上空から見つめるとまだ遠いが、森の海の中にポツンと茶色の陸地が見えてきた。
あの騒動から3時間ほど経つ。無論、一人部屋宣言のおかげで後々の面倒事が増えたような気がするが今はそういう場合ではないだろう。
遠く遠くと逃げているのだが、それにしても僕に蝙蝠みたいな翼が生えて飛べるとは。しかも風魔法で羽を纏っているためか移動速度はかなり早い、気を付けていないとコントロールがきかなくなるほどだ。
それでも、この空の移動は気持ちがいい。あっという間に目的地に着きそうだ。
風魔法の一つで待機をコントロールし、上手く制御して速度を止めると、そのままぱたんと羽をしまい着地する。
周りにいくつか驚いている人たちがいるのだが特に気にする様子もない。
「しかし参ったな、このままだとまた事故を起こしてしまう」
僕は周りの人々を見渡すと、そのまま苦笑しながら「こういう人種なんです」と伝えた。
聞いた話だと関門は特にないらしい、でかでかと「ようこそ美と音楽の都市アムドゥスキアスへ」と看板に書かれているその後ろの新しい世界に、僕は歩んでいった。
ここ、美と音楽の都市アムドゥスキアスはその名の通り、ヨーロッパ風の街並みであちらこちらから音楽が流れている。
周辺は全て森に囲まれているため、もっぱらこの都市の移動方法は何日もかかる馬車か、金が多大にかかる飛空艇のどちらかしかない。
ただ、そのような気風から十年前までは亜人たちもよく住む穏やかな街だったようだ。
僕の一連の様子を見た大半の人はどうやら亜人が来たという認識だけをして街に入っていったが、魔術師二人組はどうやら僕のことが気になるらしくさっきからちらちらと見ている。
「あ、亜人さん……ですか?」
「亜人ならこの街に入らないほうが身のため」
白ローブの魔術師はおっかなびっくり様子をうかがい、黒ローブの魔術師は短く忠告した。
そういえば今の黒い蝙蝠の翼を普通の人が見ると亜人に見えるのか。
「んー、僕は一応人間だよ、それにさっきのは能力だし、ほら」
僕は背中を見せて翼が生えていないことを確認させた。とはいえ異能な力を持ってる今、僕が人間だという事実は一昨日までの出来事かもしれない。今回の翼も、寄生の能力のもう一つの作用とか、もう一個隠れた能力で実はっていうことがあり得る。この二人と戦う羽目にならないといいのだが。
「でも……さっきの翼は明らかにヴァンパイアみたいでしたよ?」
「……人間、ということにして。案内する」
「お姉ちゃんいいの!?」
黒ローブが何かを悟ったらしく、こちらに手招きする。
どうやら今の会話だと姉妹のようだが、黒ローブと白ローブの意味は如何に。それはともかく、
「ん、お願いしてもいいかな?ここ来るの初めてだし、何せ田舎者だからこういうシステムって結構疎いんだよね」
ここの土地勘も金銭もないのが事実だ。おまけにこの世界のいろいろな規則などもまだ知らない。警戒は解くつもりはないが、とりあえずついていくしかないのも事実だ。
「私はチェム・ネメア。この子が妹のリュミエール・ネメア。宜しく」
「ニコ・ヴァ―ミリオンです、短い間ですけど宜しくお願いします」
ぺこり、と頭を下げると黒ローブ改めチェムが差し出した手を掴んで握手する。そんな中でもいまいち状況を把握しきれない白ローブことリュミエールであった。
ところで、剣と魔法ひしめく異世界で法や秩序があるか、という疑問、考えたことはあるだろうか。
この世界の正式名称「ソロモン」はその中心国バアル含む72の国々からなっており、法や秩序もバアルを中心として主に殺人などが起こった時の制裁方法などを記す「ビブリア」を制定した。ただ、実際には各国の特色、更には各ギルドの気風もあるために、その法律を守り制裁する場所としない場所があるのは言うまでもない。更に殺人などの事件はとてもややこしく、事実ドクター・エヴァンが言っている殺人に関する無罪放免の条件(正当防衛による殺人、相手側が明らかにわかる違法行為をしたために抹殺指令が裏ギルドで出た時の殺人、自分の意思が能力の副作用で明らかにないと断定できる場合の殺人)もその条件を断定できるまでの取引等々、かなり面倒な作業になっている。そのため多くの国は相手のいざこざによって起こった殺人なども、その国に影響を与えない限りは関与しないという場合も多く、特にベリトやべリアルは常に騙し合いが行われる国柄なのでそれが顕著だ、という。
話は変わるが、ソロモンという世界の名とバアルという国名、72という数字は、「ソロモン72柱」が関係しているのではないかと思う。
流石に全員の名前とどういう能力を持っているかは思い出せない。だが、本の知識の中で一部の悪魔の能力はわかるため、もし「ソロモン72柱に出てくる悪魔の名前が国の名前」という法則が成り立つのならば、この先僕が行くべき場所、というのは大体分かってきた。
「そういえば、ニコさんが使ってた魔法って風魔法ですよね?」
「そうだけど……?」
唐突なリュミエールからの質問に思わずきょとり、と首を傾げていたのだが、
「わ、私は光魔法と回復魔法は使えるんですけど、ネメア家の魔術師としてはちょっと弱くて……お姉ちゃんは闇魔法使いなんです、氷魔法も使えるんですけどね」
リュミエールはその後も魔法について話してくれた。そもそも魔法は元々選ばれた人しか使えない術であり、その良し悪しも最終的にはレベルではないという。
ついでにチェムとリュミエールが今はネメア家に従えないただの旅人だということも教えてくれたのだが、これはネメア家が光魔法のエキスパートだということに由来するらしい。
リュミエールはさっき自身でいった通り魔術師としての力が弱く、チェムはネメア家と対立しかねない闇魔法使いだ。容易にその後の展開は想像つくが触れないでおこう。
さて、魔法は基礎・派生・合成・特殊の四つに分かれている。
基礎魔法というのは派生魔法やその他の魔法のベースとなる魔法で、これは後述する魔術師ギルドの制定火魔法、水魔法、風魔法、光魔法、闇魔法の五つであるが、大抵の魔術師はこれに土魔法を含めて六つ、或いは土魔法と電撃魔法を含めて七つのどちらかである。
次に派生魔法と合成魔法についてだが、大半の場合この二つに相違はないと言われている。
合成魔法は基礎魔法や派生魔法を合わせて使う技術で、派生魔法はその技術を一般化した魔法が殆どだという。ただし派生魔法は基礎魔法からそのまま派生するものもあり、その例として回復魔法や氷魔法などがある。
そして最後にどの魔法の定義にも属さない特殊魔法があるが、その魔法の持ち主もほとんどいないため謎に包まれていることが多い。
勿論魔法同士の相性というものもある。例えば火魔法と水魔法は共に相性が悪く相殺する関係にある、など。
ところで、光魔法と闇魔法が相殺の関係にあるのだが、相殺した後はどうなるのだろうかという疑問が浮かんだ。
普通お互いが相殺しきれる量火と水はその後水蒸気となってならば火が消えるが要するに魔力版質量保存の法則が存在したら、相殺した後の魔力はどうなるのだろうか。
これにリュミエールが気づいたのか、さっきから「これに気が付いたら私たち二人が強い理由も自ずと分かるんですけどね」といたずらっぽく微笑みかける。
そんな話をしていると、ふととある光景が目についた。
悪徳にまみれた豚のような貴族と、チェーン付きの首輪で繋がれている白い耳と尻尾が生えている女が大通りを歩いている。
如何にも貴族と飼われた奴隷という、ブラックな異世界ではよくあり得る光景だ。
やがてその貴族が大通りから外れた道に入り、女が嫌々壁に手をついている部分まで確認したところで、
「ニコ、行くよ」
チェムとリュミエールに両手を引っ張られる羽目になった。
※訂正コーナー
字の感覚を大幅に修正