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―2/能力―

※R-15描写あり注意

 



「ねえ、あたしの指を…………舐めてくれるかな?」


「はぁ!?」


 桜花のミステリアスな言動にと狼狽える僕を横目に、さながら強いるように傷の部分を僕の口元にあてがう。一歩でも間違えば舌が触れそうなほどの距離だった。


「ちょ、ちょっと待て桜花、さっきから様子が…………」


「いいから桜花のいうこと聞いて?」


 ここまでの桜花に特徴的ないたずらっぽい笑みすら見当たらない。


 血が僕の唇にそっと入ってきた。仕方なく僕は傷痕をなぞるようにして舐めとる。薄らと笑みをこぼしながら桜花が僕の髪をなでる。


「ん、もういいかな」


 最初こそ拒む気持ちはあったが、余程夢中になっていたのだろう。銀糸が桜花の人差し指と僕の唇の間にできた。午後の太陽の光で反射しているのか、とてもきらきらして綺麗に見える。


「桜花、一体何を…………」


 ふと我に返り、僕は思わず赤面をする。


 照れ隠しと本の興味でいつも見ていなかった顔も、改めて見つめると、吸い込まれそうな桜色の瞳をしている。


「ニコ、生徒手帳見て」


 危ない、もう少しでも見つめていたらこっちが見惚れてしまうところだった。


 さっきまでの事を隠して忘れるかのように生徒手帳を見ると、空白部分に二つの名前と説明が示されていた。




≪寄生:Lv1≫

 対象の血又は   によって相手の能力を恒久的に得ることができる。能力のレベルは相手の血の量または     によって決まる。

 この能力には次の制約がある。

 ①対象は「知能」を持った生物であり、Lvが高くなるほど低い知能を持った生物の能力を得ることができる。

 ②同じ相手に同じ方法で能力を得ることはできない。

 ③既に保有されている能力を持っている場合、レベルは今ある能力にプラスされる。

 ④

≪光魔法:Lv1≫

 光に関する魔法を操ることができる。レベルが上昇すると魔法の質が上がり消費MPが下がる。




「…………えっと、!?」


 完璧にチート能力ですありがとうございました。




 冷静に考えるとこの能力を血吸いの場合に使えるのは一人につき一回までという制約がある。これは早いところ遠くの町に行く必要がありそうだ。


 後は、あまりにも不自然な空白。


 血の他にもう一つの入手方法があること、4番目の制約がわからないことだろう。


 それにしても能力が寄生とはかなり気持ちが悪い。もっと他の名前があるだろう?ところで、


「ねえ、寄生の説明に空白部分があるんだけどわかる?」


 既に人差し指の怪我を防ぎ、レベルが上がったと喜ぶ桜花ならもしかしたらわかるかもしれないのだが、


「4番目の制約事項はわからないけど、吸血の他の方法なら知ってるよ。けど、ね…………」


 それっきり桜花は顔を赤面させ、「みんな心配してるから戻ろ」と言って手を引っ張っていった。




 長い階段の正体は増設した部分で、学校部分と合体した寄宿舎であった。地下も完成しており男女別の大浴場と食堂があった。


 今、僕は食堂で無料に支給された食べ物を一人で食べ終わり、1階に新たにできたドクター・エヴァンの部屋に向かっている。


 既に桜花の能力は光魔法の他に回復魔法ともう一つあり、今のところこの学校でも少ない3つの能力持ちになっている。


 その他にも最低一つはどういう形であれスキルが存在するはずだが、僕だけスキルが存在しないと噂されているため呼び出しを食らったわけだ。


 尚、普通複数のスキルを鍛えることは難しいので何かの特化になりやすいが、魔法と杖以外の武器を使える魔法剣士という職業もあるので最終的な戦力としてどちらがいいかは自由。


 最も最初から武器スキルが与えられた人たちもいるが。


「失礼します」


 時刻は六時。エヴァンが全員に説明した「理」では、ここは時刻表示や曜日もほぼ同じであり、人間(正式には人族)や獣人が使う言語も日本語らしい。


 僕は無機質な扉をノックして部屋に入る。ドクターの名を名乗っているからか、部屋は診察室のそれにかなり近い。


 ドクター・エヴァンはやや長めの銀髪にメガネ、痩せこけた体で年は60近い典型的な医者だったが、「よくきてくれたね」という声はその風貌にとても似あいそうにないほどの高めのハスキーボイスだ。


「1-Bの人に協力して改めて全学年の人の能力を見たけど、君はどうやら能力を持っていないらしいじゃないか」


「それがどうしたというのですか?」


 僕は興味の無い口調で返答する。そして、正確にいうならば僕の能力があまりにも特異すぎるので言いたくない。




「私の推測だが、君の能力はあまりに特異すぎるから言い表せないのかね?」




 僕は思わず驚き、そしてあえてその表情のまま何をしでかすかわからないと心の中で警戒を重ねた。


「私はただの老人だ、そう警戒しなくてもよい」


 それに気づいたのかエヴァンもにこやかに微笑み、敵意の無いことを示す。


「僕の推測です。貴方の能力は心を読む能力ですか?」


 僕は能力を見破るためにあえて驚いたままの表情を作っていた。


 そしてエヴァンがその心の中を読み当て、言ったとしたら。


「その通りだ。私は心が見えてしまう。君の能力も君が知っている範囲でなら分かるさ。何せ今まで一度もこういう能力を見たことがなくてね。しかし、これはこれは予想外だ」


 それでもエヴァンは驚く様子もなく微笑んで、それから一つ、剣を出してこういった。


「これは本来能力がない人に渡そうと思ったがね。なんかの縁だ、君にあげよう」


 それは凡そ70㎝ほどの弯刀だが、反りがそれ程深いわけではなく、まるで日本刀のようだ。


「これはこっちの世界では珍しいものでね、使えるものこそ多いが大部分の人は装備しても普通の剣のスキルしか使えない。ただ私は生きてきた中でただ一人この剣を別のとして使える人物を見つけてね、これはその時使わないからと一本貰ったんだよ。この異変が起きてから誰かが使うだろうとは思っていたから、なるべく不平等にならないようにしてこれを渡そうとしたんだが、しかしこれはあっちの世界だと日本刀というんだね、日本ってのは君たちがいた世界かい?」


「そうだ」


 僕は受け取った刀を、持っていたロープで腰にくくりつけ、少し試したいんだがと言うと快く受け入れてくれた。確かに他の剣より素早く切れるのだが、僕がついたスキルは≪片手剣≫のスキルのみであった。


「失礼しました」


 ともあれ、これで武器に困ることはないし、恐らく話がこれだけだろうと思ったので僕は足早に去ろうとしたとき、


「ああ、最後に一つ。もし誰かを殺したとして、それは許せないことだけど君のせいじゃないことがある。わからないと思うけどその時は証明してあげるさ。じゃあ、健闘を祈るよ」


 何やら意味深い言葉を言った気がするが、僕はその言葉をまだ知らないでいた。




 時刻は午後八時。


 僕たちが住む寄宿舎の部屋は鍵付きの二人部屋で、シャワールームとトイレが個別にあるホテルの一室に似ていた。


 和室と洋室二つが何故かあるのだが、僕が部屋として選ばれたのは洋室のほうである。


 ベッドルームは二人でも余裕に入れそうなダブルベッドだが、そもそ も1-Bの男子の人数が委員長を除いて奇数。


 委員長は委員長専用の部屋で作戦鍵をしながら過ごすスタンスだ。


 さて、奇数ということは誰かが三人部屋若しくは一人部屋になるのだが、部屋割りを決める会議になった際、「部屋はどこでもいいから一人になりたい」という要望を出した結果あっさりと僕が一人部屋に決まった。


 1-Bではいないが既に元学校の入り口付近で戦闘になり、負傷者も出始める。異世界に飛ばされて訳が分からないこと続きで、いつ死ぬかわからない恐怖は、生徒たちを必然的に「誰でもいいから組みたい」という願望に変わっていったのだろう。


 だが僕はプライベートにまで誰かと関わることがかなり苦手だ。だからこそいつも本を欠かさず持ち運ぶし、集中して話しかける隙を作らせなかった。


 そういえば各部屋に備え付けのシャワールームがあったと思いながら鍵を開ける。だが逆に鍵がかかってしまったようで、もしや戸締りしていないのではと思いながら再度鍵を開けて中に入った。


 確認の為に委員長であるシュウが部屋を見回ることはあるが、その時刻は十時。


 今の時刻は八時な上に、誰もいない時の戸締りはしっかりする人だからこんなところに誰かがいる筈はないのである。


 そんな僕の部屋に、シャワーの叩きつける音が聞こえてくる。


 靴とかが1足増えたわけではないのに何故入ったのか、そんな謎はふわりとたなびくカーテンが教えてくれる。そういえば窓の戸締り確認を忘れていたな、と自分でも苦笑しつつ一応貴重品が盗まれてはいないか確認する。幸いここから消えたようなものはないし、そもそもここの世界のお金が向こうの世界のお金と違うと伝えられたので奪う意味のあるものは無い筈だが。




 とにかく出たタイミングで速攻委員長に報告してやると思った瞬間。






「お帰りニコ」

 よもや桜花が、バスタオル一枚でシャワールームから出たなんて想像しなかった。






「よ、よ、よし色々言いたいことがあるがとりあえずなんでお前がここにいるというかシャワールーム使いたいだけだったら理由を言って女友達に貸してもらえ後早く着替えろけしからん!」


 僕はそっぽを向きいえる限りの早口言葉で桜花に要件を伝えるとそのまま部屋を出ていこうとしたのだが、それを聞かない桜花はそのまま抱きついてきた。


「シュウに頼まれたんだよ。そのためにあたしがやらなきゃいけなくなったの。恥ずかしいんだよ?」


「し、るか、てか離せ濡れるだろ」

 僕は必死に抵抗するが、何故か桜花のほうが抱き着く力が強かった。更に追い打ちをかけるように、


「いいこと教えてあげる。あたしはね、人の能力が見えるの。ニコの能力は吸血で能力を得るの。でもね、吸血の他に空白があったでしょ?それはね…………秘め事なの」


 恥ずかしいなどと言っていた桜花ではなく、いつも通り耳元でくすり、と微笑みながら体をくっつけてくる。


「秘め事だよ?セ「ちょ、ストップ!」」


 想像しただけで赤面してしまうほどの事態である。これ以上言わせないとばかりに口を塞ぐ。


「ふふ、かわいいー…………大丈夫だよ、優しくしてあげる」


 その手をぎゅっと握って、そのまま僕のベッドに倒れこむ。照らす光が余計に白い肌と大きめの谷間が直に見えてしまい、思わず目を瞑ってしまった。


「かーわーいーいー」


 唇に違和感を感じて思わず目を見開いた瞬間、僕の至近零距離に桜花がいる。不覚にもちぅ、と唇を重ねられた。









 その後も覚えていないこともないのだが、そもそもこういうことを言うのがあまりにも恥ずかしすぎる。まあ結局桜花に押すに押されて最後まで「して」しまったのだが。


 眠りから覚め、朝日が一糸纏わない桜花の身体を照らす。改めて見つめてみると、少し黄味がかかった白い肌に凹凸がそこそこある身体は正直とても綺麗だった。


 ぎゅぅ、と抱きしめると微かに桜の香りがして、あったかい温もりがある。


 どうやら桜花も目覚めたらしく、おはよ、と声をかけるとそのまま髪を梳いてくれた。


 こういう時間はできればずっと続いてほしかったのだが、今日からレクチャーも始まってくる。それに、桜花が言った通り昨日の出来事は空白の一つを埋めるための仕事でもあるから、これから二度と訪れない朝なのだろうな、と心の中で思った。


「でも、あたしはうれしいよ。ニコの…………初めてを奪えて」


 桜花は今まで見せたことのない笑顔で、僕の頬に唇を重ねていった。




≪光魔法:Lv3≫

 光に関する魔法を操ることができる。レベルが上昇するとより高度な魔法が使えるほか、魔法の質が上がり消費MPが下がる。

≪回復魔法:Lv2≫

 治癒に関する魔法を操ることができる。レベルが上昇するとより高度な魔法が使えるほか、魔法の質が上がり消費MPが下がる。

≪賢者の目:Lv2≫

 自分のこのスキルレベルまでの相手が持っているスキルがわかる。一度見たスキルはレベルに関わらずわかる。


チート能力判明+初夜編(?) こういう描写の線引きって結構気を使うような。


※訂正コーナー

字の感覚を大幅に修正。

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