―15/「強くなる」ということ―
GW連続投下三日目。お話に出ているそれぞれの人物が「強さ」について考えます。
Side:リュミエール
本来あたしたちがここに来たわけは、ここ、アムドゥスキアス近辺の森の異変を解決しましょう!っていう依頼でした。
聞いた限りだと、一か月前からこの森に住んでいたはずのモンスターたちがその姿を減らして、更には残ったモンスターたちもまるで何かに怯えるように逃げていくのだとか。
不審に思ったランクCあたりの冒険者たちが森に入ってきたのですが、その冒険者たちからの連絡も一向に届きません。それもそのはずでした。だって、その冒険者の一人が無残に殺されているのを、行商人の人たちが見てしまったのですから。
あたしが到着するころにはその正体が何なのかわかりました。Aランクモンスターである「ビックベア」が、群れを作っていたのです。あたしはそんなの見たことすらないですし、お姉ちゃんもそんなことはあり得ない、なんて愚痴を漏らしていたような記憶がありました。
そんな風にアムドゥスキアス内に到着しようとした時、あたしたちは見てしまったんです。
大人になっても幼い、なんていわれるあたしよりさらに少し小さな少年が、黒い大きな翼を広げ、空から降り立ってきました。
少年はニコ、と名乗りました。
名前に載っていない様な小さな田舎で育った、なんて言っていますけど、ここの近辺から三日かけて移動できる距離には村なんて無かったような気がするんです。
だから、あたしは疑いました。それも、思いっきりです。
それが間違いだって気づいたのは、そう時間が立たずにニコが姿を消した時でした。
双子魔術師という名前で有名になる前、あたしはその体躯の幼さとか弱さで、良く野蛮な男たちにそーゆーことを求められたりとかされたのです。今ここにいる二人のように、あたしが誰なのかも知らずに襲い掛かってくる馬鹿もいるんですけどね。
でも、言わせてください。お姉ちゃんはニコのことをよくわからない奇天烈な人、なんて言ってましたけど、ニコははっきり言って、とびっきりの馬鹿だと思うんです。
まさか、お姉ちゃんに戦いを挑んでくるなんて、思いませんでしたよ。
馬鹿は馬鹿でも、とても強い馬鹿でした。
1対3。それもあの大男二人をいとも簡単に負かした上で、お姉ちゃんを戦意喪失させたくらいに、強い、というよりはあり得ない人でした。
本来、光魔法と闇魔法を同時に取得できるわけがない。そんなお約束を簡単に破って見せたのです。
でも、お姉ちゃんとあたしの前からごめんね、といって消えてしまうような優しい馬鹿でもありました。
お姉ちゃんは暗殺ギルドにも入っていて、なんでもできますが、あたしに「人を殺す」なんてそんな真似はできないと思います。でも、暗殺ギルドは「人を守る」という観点でも常に人を募集してきています。人を守る為ならば、あたしは人を殺してもしょうがないのかな、と時々思います。それに、本来だったらあたしがちゃんとネメアの魔術師として何でも依頼をこなさなければいけないのです。今迄それは全部お姉ちゃんがやってくれました。
だから今回は私が動いたのです。一緒に、探そうって。
すぐに、というわけではありませんが、その日の夜に見つかったということはある意味運が良かったなんて思っていいのでしょう。
あたしはなんでか知らないけど感情を抑えきれず、抱き着いてしまいました。ニコはすごく困っていたような気がします。
少年は何故か近くで起きた事件という事件に絡んでくる運でもあるのでしょうか。
今まで硬直していた事件が動き出し、直ぐに大規模な集団暗殺の命令が下されました。こういう時はいつも、あたしは常にお姉ちゃんと一緒にいることにしています。
今回はニコを守る役目の人が来るまで、ニコと一緒にいる予定でした。ほんの一日、依頼を実行する日を除けば。
デメテルさんから指示を受けてお姉ちゃんと一緒に街を歩いているときも、相変わらず少年は事件現場に首を突っ込みます。
光魔法と闇魔法を合わせたごく小さな球をピン、と弾いてあたかも誰かの爆発テロを予知して獣人の女の子を守るなんて芸当はあたしにはできる勇気すらありません。
血まみれ、傷だらけになってでもその少女にコンタクトを取ることって中々できないことですよ?
それなのにニコは不満そうでした。
確かに、お姉ちゃんの言う通り、魔力のコントロールがとても甘いっていう部分を差し引いてもニコはとても強いんです。でも、ニコはそれを良しとしなかった。それどころか、更に強くなるようにゴードンさんも交えて実戦を行うような人でした。確かに大事ですよ、その気持ち。
ただ。だからと言ってビックベアの大群を纏めて相手にしようなんて無茶をする人間はいないでしょう?
流石にそれは無かったようです、ただ生き延びるために広範囲魔法を使っていただけでした。
あたしたちだって、保護対象としてニコを失わせるわけには行きませんし、そうじゃなくてもこんな大群に囲まれたか弱い(?)少年を助け出すのは当然のことです。
その考えも、方針も、いつもお姉ちゃんと一緒でした。相手が誰だろうと、お姉ちゃんと一緒に倒すという考えは変わりません。
「「コンフュージョン・クロノス!!」」
双子魔術師という異名は、その決意の表れでもありますし、強さの一つだと思います。
「お姉ちゃん」
儚く散ったリーダー格の黒い熊と、その部下だろう熊たち。そのアイテムドロップをゴードンさんに拾っている間に、あたしはお姉ちゃんに向けて決意します。
「あたし、強くなるよ」
でも、チェムはあたしがそういう度にこう返してくるのです。
「リュミ……リュミは今のままでも強い。これ以上強くなって、何の意味がある?」
その答えに詰まってしまったら、折角の宣言だって意味のないものに変わってしまいます。だから、
あたしは生まれて初めて、お姉ちゃんと喧嘩をしました。
「強くなったところで何の意味がないっていうことは絶対にない!」
「意味があっても、その使い方が分からなきゃ強くなったことにはならない」
「あたしは人を守るために強くなるんです、そのためなら」
「リュミ、その強さはその守る人も傷つけるかもしれない。だから、求めすぎるのはダメ」
違う、言葉じゃ言い表せないけど絶対に違う!
「強いものを守れずに守っている人が死ぬよりは、絶対に意味はあると思います!」
「それが世界を滅ぼす力であっても?」
二の句が継げなくなりそうな言葉でも、何とか理性的に返して、絶対に……
そう思ったあたしと真っ向から否定するお姉ちゃんに向かって、マリアはとんでもない言葉を言ったのです。
「二人とも、その根底にあるのってもしかしてニコじゃないかな……?」
今度こそ、あたしたちは何も言えなくなりました。マリアがお話を続けます。
「チェムは恐らく、光魔法と闇魔法を同時に使える人の存在を見たから危惧している。でも、敵が日々強くなっていくことを想定して焦ったリュミエールは強くならなきゃ、と空回りしている。確かに、あなたたちが証明した通り、強力な光魔法と闇魔法を相殺したら、それだけで人が住めなくなるほどの魔力が地上に溢れ出ることになる、でも、リュミエールの言う通り。常に二人一緒にいるとも限らないから、たとえ一人でも守り抜くための強さは無いといけないのよ」
その様子を見ていたゴードンも続けて。
「強くなりゃいいってもんでもないけど、お前たちが必ず望めば必然的に強くなるさ。で、これからお前らは何のために強くなりたい?」
あたしがお姉ちゃんと旅をする、って決めた理由はただ一つ。
お姉ちゃんはネメア家として対立せざるを得ない闇。無表情で、目的のためなら人を殺す覚悟もある人です。
そんなお姉ちゃんの旅を、双子の妹というだけで続けているわけではありません。
「……お姉ちゃんが一人になって寂しがらないために、あたしはお姉ちゃんのために強くなる」
「……双子魔術師として、あたしの強さは見せた。だから今度は、リュミを一人にさせないために強くなる」
強さにもいろいろあると思います、でもその根底になっているものの大抵は「誰かのため」じゃないかな、と思ったりするんです。
※訂正コーナー