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Vermilion~ヴァンパイア+インキュバスでチートな少年(仮)~  作者: にゃさぎ
第一章 美の街と、『双子魔術師』と、白虎の少女
14/21

―14/VSビックベア―

人間の体格を大きく超えたそれは、低く唸るような声を以って僕を威嚇してきた。一言でいうならば熊、それもヒグマの類であろうか。


「……っ!」


二足歩行で立つ熊に思わず足がすくむ。


落ち着け、熊に出会った時の対処法。死んだふりは絶対に駄目だ、喰われる。


かといっていきなり逃走してはいけない。相手は普通の人間より早く行動できる。風魔法で飛んで逃げるのも手だが、そこで別の熊がいたとしたら上手く避け切れるのだろうか?


それに、自らの力を知る絶好の機会だ、ここは一人の男として戦わねば。気づかれないように後ろに下がりつつ熊の動向を見る。依然として低く唸り声を上げたまま、鋭い眼光で僕を見つめてきている。


緊迫した状況。こちらが動けば向こうもきっと動くだろう。向こうが動いたならば、こちらも反撃すればいいのだ。


試合の瞬間はいきなり訪れた、熊が四足歩行になったと思った次の瞬間にもう僕の目の前に襲ってくるのだ。


「わぅっ!?」


咄嗟に横に避けるが熊の右手が腹に掠り、あらぬ方向に吹っ飛ばされる。力においては厄介なほど強い。


こっちがパワーで押してくるならば。昨日買った鎖短剣の搦め手は、あくまでも対人間に効果を期待させるものだ。


ならばスピードで勝負しようじゃないか!


昨日習った話だと、全身をその魔法で満たすようなイメージを作れば、自然とその魔法の恩恵を受けることになる。これの応用が武器や体の一部に魔法を纏わせて能力を上昇させる「魔力気波」と呼ぶ技らしい。流石にこれを我流で取得したことにはゴードンも驚いたようだが、それでもまだ序の口だ。


「全ての風を司りし風魔よ……我が身体の鎧、疾風の化身となれ!」


そう言いながら風を全身に纏わせる。今までにない力の感覚だ。勿論この台詞も自らが考えたオリジナルの台詞だが、詠唱自体が自らが魔法でしたいことをイメージしながら言うものであるため、寧ろこういう台詞を言った方が効果は期待できるのだ。


そうしている間にも熊が僕の方に襲ってくるのだが、風魔法の力なのか自然と避けて、打撃を放つこともできる。


「爆炎に包まれし炎神イフリートよ……我が右手に力を宿し、一度きりの爆破で敵を美しく散らせ!」


熊の攻撃を避けつつ、自分の右手に炎と爆発の合成魔法をかける。正直、こんなことを言っていられるのは粗方自分に余裕があるときなのだが。因みに、使い慣れた呪文でも無詠唱より何か技を付けていった方が心なしか威力も上がるらしい。


止めとして放っただろう両手振り下ろしを華麗なバックステップで避けた。再び体制を整える一瞬の隙を見計らって、相手の顔をめがけて渾身の一撃を放つ!


「っらぁ!」


自分の右手が千切れそうなほどの衝撃だ。


だがそれがいい。熊の鼻を中心に小規模の爆発が起こる。そのまま後方に大きく宙返りし、間を取る。さて、熊はこの攻撃を耐えたのか……?爆発後の煙から……右目に怪我を負いつつ尚鋭い眼光を放つ熊が見えた。


「まだ生きていたか……あの大男二人より骨があるじゃねえか」


風魔法の補助がなくとも避けれるくらいに動きも鈍く、命中精度も下がっているが、それでも振られた左手が木をへし折るほどのパワーは残っている。


「グルルル……」


大男二人とは天地の差が見えるほどに強い。だが、それがいい。


「爆炎に包まれし炎神イフリートよ……我が右手に力を!」


まだ風魔法の感覚が抜ける気配はない。さっきと同じ感覚をイメージし、再び右手に炎と爆発の合成魔法をかける。ただ、今度は今まで1:1であった魔法の比率を爆発魔法を弱めにして反動を抑え込んでおこう。


「俺が相手だ!」


今度は隙を伺わなくてもよい、ぎりぎりまで接近し、ボディーブローをかけるようにして腹部に殴り込む。が、それは熊の右手によって抑えられた。


「っ……!?」


一瞬の焦りが隙を生み出したのか、お返しと言わんばかりに零距離で左手が飛んでくる。


「くはっ!!」


まともに食らってしまいまた吹っ飛ばされたが、それでも風魔法を全身にかけたお陰で衝撃は和らいだようだ。


「やってくれるじゃないの……!」


腹部に強烈な痛みが残るが、このままふっとばされて終わりというわけにもいかない。


炎爆弾旋風(ファイアボム・ストーム)!」


身体中にかかった魔力を集めて作った球を足元狙って発射。避けられるのは想定内だ、何故なら着弾した後に効果を寄せているから。


爆発音と同時に火を纏った風の刃が放射状に広がり、猛烈なスピードで辺りを壊していく。流石にこれは熊も気づかなかっただろう。そのまま何度も刺され、遂には毛皮を残して倒れていった。


思わず口角が上がる。この感じがたまらない。本を読むようなおとなしい性格であっても男である、こういう戦闘をしているときはテンションも自然と上がってくる。そしてまだ戦える、といった一種のランナーズハイともいえる快感。本を読んでいる姿や女性陣にたじろぐ姿とはまた違って見えるだろう、自然と一人称も「俺」に変わってくるほど熱い戦いを心から楽しんでいた。


無論、魔力のコントロールができてない以上、幾ら突出した魔力が存在しても操り切れていないのかそれ程の威力は出ていない。




だが、その楽しみもやがて、恐怖に変わる。




「グルァアアアアアアアアアア!」


大熊の群れに囲まれた。しかもリーダー格の一匹は黒く、明らかに他の熊より大きい。その群れも全部で20匹ほどだ。


「……っまずい、逃げられない!!」


皆炎爆弾旋風(ファイアボム・ストーム)の攻撃が当たったのか、それなりのダメージを受けている。だが、それが仇となって僕の目の前で激昂状態になっていたのだ。


しかも僕が使っている魔法は皆実体を持たない魔法ばかりである。それで壁を作っても、時間稼ぎにすらならない。


いや、上空に向かえば逃げながら遊撃もできるが、それすら叶わない状況だ。上空には僕に気づいていないが、かなり強敵であろう魔物グリフォンが群れでとおっている。


それでも、生きるために足掻くさ。


「風琴よ、我が周りに嵐を!」


多重に風の刃が展開され、それが大きくなって自らの盾に変わる。その間にダメージを受けたところを回復しよう、としたのだが。


どうやらここに集まった熊はさっきのより桁違いに強い。ほとんどのダメージを受けず数匹の熊が無風地帯にやってきた。回復はぎりぎり間に合い、避ける余裕も出てきたものの、これだけの群れ相手に攻撃は自然と掠っていく。


それに、さっきまでの一連で初日より顕著な疲れが襲ってきた。魔法使いにとって致命的な問題、MPの枯渇だ。推測するに10000以上あっただろうMPもその殆どを使い果たしそうな感覚だ。というか、早く自分のHPとMPくらい自動で見れるようになりたい。欲を言えば相手のHPもだ。


疲れが出れば当然隙もできやすいわけで。


バランスを崩して避けざるを得ない状況で、黒い熊の一撃が、来る。最早避けられそうもないのか。




耳を塞がなければいけないほどの巨大な爆発音が、聞こえた。

※訂正コーナー

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