―11/ぶらりアムドゥスキアスの旅(?)―
間違って予約分当日更新しちゃったよ!どうするよ!
※書置きがまだ残ってるのでしばらくいいペースで投稿できそうです。
「ニコ。まず道具を揃えに行く」
逃走してから二日目の朝を迎えた。
三日後に控えるメンバー発表を前にメンバー全員が文字通り殺気立っている。それを気にしたチェムとリュミエールが気分転換にこの街を案内しようという話は朝食の時にデメテルも交えて話をした。
何より一番の問題として、ここから先色々と旅をするのに服や武器、そして回復道具など生活用品と装備が足りないのだ。
「いらっしゃい、アムドゥスキアス特性饅頭はいかがかい、12個入りで鉄貨13枚だよ!」
「ここにある宝石、今ならどれでも金貨1枚サー!」
「ここのスープ美味しくていつも買っちゃうんだよねー」
どうやらリュミエールがこの地方特有のスープを三人分買ってきたようだ。試しに少し飲んでみるが、野菜ベースの出汁に少量のスパイスがきいていてとても美味しい。
「美味しいでしょっ?」
「うん、とっても」
「……良かった」
いつの間にかチェムもほんの少し笑みを漏らしている。こうして日が高く昇り始める中、朝市でにぎわっている大通りを三人でゆっくり歩く。朝市ならではの露店もある中、チェムがとある場所を見つけて歩き出した。
「いらっしゃい。……おや、チェムさんではないかね?杖の使い心地はどうじゃ?」
「……良好」
「そうかい、それは良かった。この商売やってて一番喜べることだねぇ」
どうやらここにあるのは魔導書や杖などの魔道具を取り扱う店のようだ。店頭で杖を持ち漆黒のローブを羽織る老婆とチェムが談笑している。
その間薬局のような露店にふらりと立ち寄って、Lv1万能薬やLv3回復ポーション、Lv4魔力回復速度上昇ポーションを買う。この内魔力回復速度ポーションが銀貨1枚と結構高いのだが、継続して魔法を使う僕のスタイルでは相性が良いこと、五段階あるポーションレベルのうち二番目に高いLv4であったことを考えるとかなりいい商品だったので、5つストックしようと思い切って購入した。おかげで現在は金貨1枚、銀貨5枚とその他こまごましたもの、と少し考えて購入しなければならなくなった。
「ん……ニコ頑張ってるから冒険者鞄あげる」
僕の買い物がちょうど終わったところに、さっきの露店で買っただろう冒険者鞄を手渡す。ポーチ型で意外と容量が小さいのか、と思いつつ中身を空けるとそこには異次元の空間とつながっていた。
「……大抵のことで困らないくらいは収納できる。重さも殆どない」
僕のプレゼント用の冒険者鞄と一緒に、チェムは何やら三つほど透明な宝石を買っている。そのうちの一個はネックレスとして既につけているようだ。
「チェムさん…似合ってますよ」
金髪を風になびかせるリュミエールとは対照的に外出するときはいつもフードをかぶるチェムだが、そのネックレスを付けた時に一瞬銀色の髪が見えた。
その髪と顔によく合うほどに透明な色をしたネックレスが太陽の光を反射して虹色に輝く。
「……違う、これは、ちゃんと意味があるの」
いつも通り端的に言い表すがそれでも、言葉に若干の照れ隠しが見えるのが手に取るようにわかる。
「……チェムさん、照れ屋さんなんだ」
僕は大通りであることを忘れて、チェムの華奢な手をきゅっと握ってしまった。
「っ……!?」
一瞬だけ驚くも、空いた右手でフードを深くかぶり直しそっぽを向くチェム。
だが、つないだ手を振りほどくようなことはせず、寧ろ指を手に絡ませて少し強めに握ってくる。
周りを見渡せばまるで僕らがそういう関係に見えるのではないか、と思うと途端に自分も赤面してしまう。
「…三人仲良しですっ」
僕の空いた手を、同じく指と指を絡ませてにこり、と微笑む。
リュミエールの手は柔らかくて、思わず強めに握り返してしまうほどだった。それをフード越しから見ていたチェムがぽつりと、
「…私も…ぎゅって握られたい」
と言ってくる。両手に少しだけ力を込めてきゅって握ると、チェムは少し満足そうにしている素振りを見せたが、
「チェムも随分とおませさんになったものじゃな?」
一連の様子を露店の老婆が見ていたらしい。意味のありそうな笑みを浮かべ、三人とも手を放してそれぞれ照れ隠しする。
「良い良い、若い子は元気でよいのぅ」
「それより、さっきから妙な武器置いているんだけど、これ…」
杖や本などが置いてある武具コーナーに一つ、明らかに異質な武器を見つけた。
「ああ、それかの?どっかの冒険者がお宝で見つけてな、これを買い取ってくれというから買ってみたものの……興味を示す人はいたが買う人は未だにいないのぅ?」
見た目は大凡50Cmほどの短剣。
「んー、確かにこの店で短剣を買うくらいならばオーダーメイド品で丈夫なものを選びますしね……」
「ためしにちょっと触ってみてもいいかな?」
「んむ、構わんよ」
その短剣の柄を持ったとき、変に重心が後ろに行く感じがした。
「ん、これ本当に短剣なのか?明らかに柄頭の部分が重すぎて持とうにも持ちづらい……!」
それはやはりただの短剣ではなかった。柄頭の錘が一気に下に落ち、それに引っ張られるように……とても柄に収まりきらないだろう鎖が一気に引き出される。その長さは大凡3メートルほどはあるだろう。
「……なるほど、鎖鎌ならぬ、鎖短剣か……戻れ」
そう命じながら柄を持つと、途端に鎖が柄に収まり、柄頭の錘と短剣の柄が合体した。
「……ほう、アーティファクト物を簡単に操れるとは、主も中々の実力のようじゃな?」
「双子魔術師さんほどではないです」
御世辞をいう老婆に向けてにこりと微笑みながら謙遜する。無論この武器は金貨1枚と銀貨5枚を払って購入した。買い手がつかなかったこともあるためにアーティファクト品としてはかなり安い部類に入るが、それでも出費は結構いたかったりする。
「大分買い物した……防具類と服がまだだけど」
出発してから僅か1時間ほどで金貨3枚を殆ど使い切るあたり、僕の金銭感覚は割と鈍っているようだ。
「少し、休憩しますか」
美の町ならではの一際大きな噴水を見つけ、手をつないだまま南大通と外周の大通りを結ぶ噴水広場に向かって歩き出す。
しかし、そこに人だまりと何やら言い争う声が聞こえた。
「うるせぇ、とっとと俺に従えばいいんだよ!」
「っ…こんなところで…」
「つべこべ言うんじゃねぇよ!俺様の計らいでわざわざ外に出してもらってんだ!」
ま た あ の デ ブ か よ !
※訂正コーナー