―10/暗殺ギルド加入へ―
一日目終了だよ!
ところで話の展開が早いといわれたのだが……まずいのかなあ?
「ところで、ロズは魔術師ギルド所属の中で唯一闇魔法と光魔法が同時に使える人ですが、どうも彼女は先天的に使えるというわけではないようでしてね、魔術師が彼女を見かけた途端に賢者でもたちまち魔法が一生使えなくなる、そこから魔術師いびりという渾名がついたそうです」
どうやら魔術師たちが怯えるロズは、一方で僕を含めても二人しか確認していない闇魔法と光魔法を両方使える人物らしい。
しかしこれと魔術が一生使えなくなる能力の関与性が分からずブラックリストに載せたくても載せることができない状況にあり、その結果最近になって様々な悪事に裏から手をまわしている様子だ。
「あの…僕、ロズの能力が何なのか大体分かりますよ、僕が似たような能力を持っているので、その代わりこの情報は暗殺ギルド内でもあまりばらさないでください」
こうして僕は、念に念を重ねたうえで寄生についての説明を始めた。店長たちの意見が揃って「チート能力だ」と呆れたことは目に見えるくらいに想起していた事実である。
「と、恐らくロズの能力は『魔法やスキルを奪う術』ではないのかな、と思うんですが…」
僕の説明と予測は意外にも誰も考え付かなかった案らしいが、そうした場合ロズが介入してマリウス家の次男が獣人を売る理由も少し説明できる。ただ、そんな中でどの獣人の能力が欲しいのかが分からないと唸るメンバー一同。
「ニコ…そういえば獣人の女の子を見て何かが見えたって言ってたけどあれは何」
チェムがさっきから気になっていたらしい質問を僕に投げかけるのだが、僕が出す答えは誰かを動かす力があるようだ。
「…雷神っていうスキル…分かる?」
「…白虎族のスキル!?」
この世界の亜人の定義は「人族以外の種族で人型をしており、尚且つ粗方の知能を備えて理性により本能を制御していること」である。
ということは、一口に亜人とはいえ様々な人種がいる上、中には理性があるものと理性を無くしてモンスター化したものもある。
当然あちら側の世界でいう犬や猫などをモチーフした獣人も数多くいるが、中には希少種と呼ばれるレアな能力を持っている亜人がおり、それを飼い馴らすのが一流貴族のたしなみとしているところも多くある。まあ、その場合は同時に暗殺ギルドの保護対象にその種族ごと乗っている可能性が高いが。
現に僕の証言から一流スパイによるロズの尾行やマリウス家の次男のブラックリスト申請の手続きが加速するなど、どうやら暗殺ギルドそのものを巻き込んだ事態に発展しそうな勢いだ。
「呆れたぜ、まさか白虎族の少女が誘拐された事件とつながっているとは」
一連の事件は大体こういう感じである。
今から二ヶ月前ほど前、にここから北にある山のふもとに住む白虎族の少女が突然何者かに誘拐された。その後誘拐事件の犯人が分かったであろう白虎族がマリウス家の次男宅に襲ってきたが長男とその部下の兵が加勢に入り状況が不利になる。
獣人嫌いが激しい長男はこの時戦場にいた白虎族を複数人殺害、しかも一部の配下がそのまま深追いしてふもとに住む白虎族の集落を発見、そのままマリウス家が裏で開発した兵器で住人ごと吹き飛ばした。
この事件で一度この都市の暗殺ギルドが集団暗殺に踏み切るものの、アムドゥスキアス国王とマリウス家の次男がそろって兵を出したおかげで撤退せざるを得なくなり、この事件は暗殺ギルドではめったに見ない「手を出せない状態」に陥ったようだ。
ただ、アムドゥスキアス国王に関してはこの後に暗殺ギルドの名誉本部ギルド長が面談し、「従わないと首を切られる」と証言を残したこともあるため、一時的にアムドゥスキアス国王の保護対象レベルを上げ、暗殺ギルドに全面協力をすることで事なきことを得る。
が、問題は次男。ブラックリストに載るほどの悪事をしていないことを言いように使い、一連の事件に関与したの長男の盾として利用したのである。
長男は、既にブラックリストに載っているが長男の家の警備が厳しいうえに、いざ長男だけを集団で暗殺しようにも次男とその部下の兵が集まると今度は暗殺ギルド自体がビブリアによって裁かれてしまう。
それでも生き残った白虎族の証言で関与したのがマリウス家の次男の部下だと判明したらしいが、そもそも次男が所有している亜人は奴隷市場で買った亜人奴隷を含めると数が多すぎる上、その大半が脱走したところを亜人嫌いの長男が殺すという悪循環が生まれている。
と、様々な理由から難航していた調査だが、今回の証言は一気にマリウス家の次男と魔術師いびりのロズが邪魔できない状況を作り上げることも可能になるのだ。
「とにかく、久しぶりに集団暗殺ができるってのか、腕が鳴るぜ」
そう言ったのは『ブレーダーズ』のリーダーことゴードンである。
それに賛同するように『ブレーダーズ』のメンバーと『双子魔術師』も頷いた。
「事件関与者全員がブラックリストに載るのも時間の問題ですね、恐らく計画の実行は早くても三日後になると思います」
レムレスが大体の期間を予測し、
「私、あの少女助けたいんですっ!」
「そうね、絶対あたしたちで助けるわよ!」
リュミエールとマリアはそれぞれ白虎族の少女を救出しようと躍起になり、
「奇天烈、お前は俺のアジトに泊まっとけ。ここの地下は暗殺ギル
ド直結だからな」
「だめ、ニコはあたしが預かる」
何故か店長とチェムで僕の奪い合いが始まり、双方睨み合いの末にリュミエールが
「それだったら全員でどこかに泊まればいいじゃないですかー」
と綺麗にまとめた。
ブレーダーズは元からここに泊まる予定で、双子魔術師もニコを捕まえ次第空いているホテルに泊まろうとしていた。因みにこのパーティー全員が払う飲み代は特別な事情ということで店長が自腹を切るそうだ。
「がはは、ちょうど全員分空いてるぜ、決まりだな!」
店長が不敵に笑い、今度こそ楽しい宴会が始まった。
「さて、アジトに入るから全員ついてきな。隠蔽!」
時刻は夜中の12時。店長が全員分に隠蔽をかけ、僕を除く暗殺ギルドの必須スキルともいえる忍び足で裏口に移動する。
さて、僕はというと…浮いていた。正確には靴に凹凸が無くなるよう予め細工を施し、風魔法を使って足元の摩擦をなくしている。調整次第では音も殆ど出ず、ゆっくり進めば障害物に当たらずとも重心を移動して方向転換できるので時間を気にせずに移動するには中々楽しい。
まあ実際には急な方向転換はできない、道に凹凸があると上手く進めない、などと弱点もあるのだが、
「ニコ、魔力が漏れてる。見つからないことが重要なスパイ活動に魔法全般は不向き」
チェムに最大の弱点を指摘され、仕方なく魔法を解除するのであった。
店からの地下道を通るとやがて広い場所にたどり着く。
既に討伐知らせを聞いた何人もの人がここにいるらしく店長が入るや否や小さく歓声が起こった。
「ぐはは、聞いた通り数日間激務になるなぁ!その間料理は俺に任せとけ!」
「応!」
暗殺ギルドのメンバーは集団暗殺が決定してから実行するまで、寝て起きてからの激務に備えることを理由にそのグループが抱えているアジトに泊まることが多い。
その間の飯の確保のため、店、特に飲食店を経営する商人ギルドと暗殺ギルド掛持ちの人は結構重宝されるのだ。
「それと、今回の集団暗殺でリーダー格になる奴がこの六人だ、一人ちょっと特殊な奴も交じってるが宜しく頼むぜ!」
そう言った瞬間に騒めきが各所で起こった。
「おいおい、ブレーダーズと双子魔術師はともかくどこの馬の骨か分からない奴を集団暗殺に組み込むのか!?」
「それで失敗したら今度こそ無駄に終わるぞ!」
そのざわつきは、やがて火の粉となって僕に降りかかる。
「俺と勝負して勝ったら認めてやろうか!」
代表と見られるいかつい男が僕の目の前に現れる。双子魔術師と店長が止めようと必死なのだが。
「いいですよ…勝つのは、僕ですけど、ね!」
歯止めがきかず短剣を持って向かってきた男に、一陣の陰る鎌鼬で倒した。慌ててリュミエールが回復魔法を掛け、ゴードンが戦場から男を避難させる様子が窺える。
「…ウソだ!」
それを見て信じられなかったのか、次々と短剣を取り出して攻めてくる集団たち。僕は天井を見上げると、両足に風魔法を纏わせ、跳んで集団がいた方向に着地、そして自分がいたポイントに火魔法を放った。
「けっ、こんなチンケな火…がっ!?」
瞬間、爆発的に燃え盛り、呆気なく集団を巻き込む。
まだまだ!追い打ちをかけようと更に火魔法を放とうとしたときである。
「ふん、何の騒ぎかと思いきや保護対象相手に排除など…暗殺ギルドの恥だ!」
目の前に黒髪の女が現れるとほぼ同時に火が消え、意識が残っている集団も一瞬にして気絶した。
「…すまないね、ここの連中が荒くて。私は暗殺ギルドアムドゥスキアス支部の支部長、デメテルだ。…可愛いな」
自己紹介をしようとした後の発言に引っかかり、
「そ、そんなことない…ですっ」
挨拶の前にふい、と顔をそむけてしまうのである。そんな僕をしばらく見つめたのちに、
「ニコ…か。今の戦いを見ただけで分かるがかなり強いな、推理も中々冴えている。何より可愛いな…暗殺ギルドに加入しないか?」
支部長自らの勧誘である。暗殺ギルドの加入条件は主に軽い人格診断が行われるのみで、このように支部長自らが介入することも珍しくない。また、他の加入条件に入っていることが多い「冒険者ギルドの所属」は、情報収集課に限り条件に入っていないが、それは情報をより多く集めるためにある。
「…いいのでしょうか…?」
「ああ、私が認めたんだ、入るなら歓迎するよ」
デメテルが最高の笑みを漏らす。こうして僕は正式に暗殺ギルドの一員として働くことになった。
※訂正コーナー