出会い
「ここかな・・・。」
太陽も海に沈み、空が墨に染まり始めた頃、ユウリは目的地である都内の一軒家を見つけた。土地代の高い東京には似つかわしくない大きな家で、ピンクがかった茶色の壁に黒い屋根だ。恐らく二階建てだろう、その2階からはカーテンの隙間から明かりが洩れており、誰か人がいる事を示している。
この家は書類にある情報と違いはない。それが分かったユウリは目的の人物のプロフィールを確認した。
河内大和 20才 男 身長182cm 現在「本宮小夜子」とお付き合い中 順調
大まかな情報をさらう。写真を見る限り、嫌に冷たい瞳が気になるが、それを差し引いても顔は整っており、所謂イケメンと称されるだけの美貌であることは間違いない。ユウリは確認が終わると、それを鞄へと仕舞い、羽根を駆使して明かりの洩れる部屋へと近づいた。ユウリは窓にはりつくとどうにかして中を見ようとすると、窓の上部にカーテンの掛かっていない隙間を見つけた。しめた!とばかりにユウリはその隙間から中を覗きこんだ。
・・・
「今日、御両親いないんでしょ?泊っちゃおうかなあ?」
シックなベッドに腰掛けている大和の左隣で、彼に体を預けている小夜子が甘えるような口調でそう言った。緩く巻かれた長い茶髪がさらり、と揺れた。その言葉を聞いた大和は薄い前髪で隠れた小夜子の額に、デコピンを食らわせた。
「いたっ!」
「アホか、お前が帰って来なかったら両親が心配するだろ。」
「えー?連絡すれば大丈夫だよ。」
小夜子は白い頬をぷくりと膨らませた。その様子を見て、大和は小さく溜息を吐くと、突き出された小夜子の唇に自分の唇を軽く合わせると、ぽんぽんと頭を撫でた。
「別にいつ来ても構わないって言ってるんだよ。」
「・・・えへへ。」
大和は無表情のままにそう言うが、この男の表情筋が固い事をよく分かっているようで、小夜子はぷい、と顔を背けた大和をぽかん、と見つめた後、少し照れたように笑った、その後、部屋にある文字盤のないシンプルな時計を見て、小夜子は立ちあがった。
「今日はそろそろ帰ろうかな。」
「・・・、見送る。」
トントントン、と静かな足取りで階段を下り、小夜子はキャメル色のミュールに足を通す。床にコンコンとつま先をぶつけ、足に馴染ませた。
「じゃあまたね。」
「おう。」
ガチャン、と扉が閉じるのと同時に、大和は小夜子に向けて上げていた手で、そのまま眼元を覆って大きく溜息を吐いた。踵を返し、自分の部屋へと戻る。トントン、とスリッパと階段のぶつかる音が静かな家に木霊した。
ガチャリ、と大和がドアを開けると、鼻につく甘い匂いが大和の鼻腔を刺激した。思わず、香水臭え、と呟いて、ベランダに面した窓のカーテンを思い切り開いた。シャッという音と共に部屋の明かりが外へと洩れる。そのまま窓を開けるつもりだった大和の目に、不思議な生き物が目に入った。