5.実験-ヴァイアード-
久しぶりの更新、初の作者出現でございます。その内設定集とかも投稿した方がいいですかね…?
四月。ブロサの花が咲き誇り、桃色の花弁が風に乗って舞い踊る暖かな季節。僕たちは学年が3年生に上がり、CASアリエンタ支部では、新規入学生に対する入学式が執り行われていた。
「新入生か…」
隣に座る、第04小隊長が呟く。その声に、僕も思わず後ろを振り向きそうになった。僕の後ろにいるはずのハルトと沙紀も、去年はあの中にいたのだ。そうか、もうすぐ第05小隊設立から1年がたつんだ。そして、僕たちが入学してからは2年。入学当初は50人近くいた同級生のアクターたちも今では約半分の24人しか残ってない。いなくなった残り半数のうち殆どは戦死してしまった。新2年生も僕たちの代よりはまだ犠牲が少ないが、戦死者を出してしまっている。新入生の内、アクターは43名。できる事なら、誰にもいなくなってほしくはないけど、それはきっとかなわないのだろう。これは、戦争なんだ。しかも、相手はどれだけの戦力を保持しているのか分からない未知の怪物。戦死者は、僕たちCAS軍生徒だけでなく、正規のGDF軍人の間でももっと増えると思う…。けど――
『新入生起立、退場!』
司会進行役の教官が命じるのと同時に、新入生はその指示に従って退場を始める。僕たち在校生はそれを拍手で見送り、CASアリエンタ支部の入学式はその幕を下ろした。
――だけど、総合的な戦死者を0にはできないとしても、せめてもう二度と、僕の目の前で僕の手の届く範囲の人は守りたい。いや、守って見せる。何があっても、絶対に…。
「ヴァイアードの開発中止?」
入学式の後、遼姉に呼び出された先で言われた言葉を、僕は思わずおうむ返しに訊ね返した。
「ああ、そうだ。正確には、PLキャノンを装備したヴァイアードの、だがな」
PLキャノン。ブースターと高火力兵器の複合武器として運用可能な装備だったはずだけど、一体どうして…。
「PLキャノンは優秀な武装として開発されたと記憶しているのですが…」
「ああ、火力は言わずもがな、機動力も底上げできる。まともに運用できれば、優秀な兵装となる予定だった」
遼姉の何か含みのある言い方に僕は眉をしかめた。まるでまともに運用できないとでも言いたげな様子だ。
「それはいったい…」
「簡単な話だ。まともに使えないんだよ、一人では」
遼姉の話をまとめるとこうだ。先日、一機のみ起動テストのために試作されたヴァイアードのテストがあったらしい。各種項目を順調にクリアしたヴァイアードはそのまま行けば正式にデータ収集用に残り二機が開発されるはずだった。けど、最大の目玉であるPLキャノンBELCAの起動テストに移った際にアクターが倒れてしまったらしい。何でも、ブースター状態から武器状態に移行する途中で機体制御やその他もろもろの情報がICSを通してアクターに逆流。結果として搭乗者の脳が情報を処理しきれずに気を失ったのだそうだ。
「では、PLキャノンはもう実質封印ですか?」
「いや、どうやら情報の逆流は機体の総合制御とPLキャノンの制御を同時に行った場合にのみに発生するらしい。そこで、急遽ヴァイアードを複座型に改修し、機体制御と火器管制を行うものを分けてPLキャノンの起動実験を行うことになった。行うことになったんだが…」
PLキャノンの起動実験か。僕にそれを話すってことはつまり…。
「05小隊にその起動実験を行えという事ですか」
「…ああ。複座型の機体は搭乗者の思考相性が重要になる。貴様の隊の篠宮沙紀、ハルト=グレイドールなら幼馴染であるし、過去に複座型機体の起動実験で好成績を修めている。すまんが頼まれてくれるか」
頼まれてくれるかも何も、上官の命令だしあの二人が適任だというのはわかる。断る理由は見つからない。
「了解しました。第05AF小隊、PLキャノン起動実験任務を受領いたします」
「そうか…。実験は学外第三演習場にて行う。実験開始は本日1700だ。1600に移送ヘリを出す。実験に参加する篠宮、グレイドール、両アクターは移送ヘリにて移動。紅葉は万が一に備え、イスタシュパッツで出撃しヘリの護衛に当たれ」
「はっ!」
遼姉改め、木嶋教官の指示に敬礼で応える。現在時刻は14:37。沙紀とハルトに声を掛けて自分自身の準備を行うのに十分な時間がある。
遼姉に失礼しますと声を掛けた後、僕は二人に連絡を取るべく携帯端末を制服のポケットから取り出して、地下格納施設へのエレベーターへ向けて歩き出した。
『複座型の機体、久しぶりですし楽しみです! ハルト、私の邪魔するんじゃねーですよ』
『邪魔って…。沙紀ちゃん、楽しみなのはわかるけどこれは一応実験なんだからね?』
地下第05格納庫。白く塗られたイスタシュパッツのコックピットの中で僕は通信機越しに後輩二人の会話を聞いていた。
久々の複座型の実験という事で興奮する沙紀をなだめるハルトは大変そうだ。
「二人とも、そろそろ時間だ。一旦通信を切るよ。向こうに着くまで少し時間があるし今のうちに体を休めておいてね」
『はーい!』
『了解です…』
元気に返事をする沙紀と、もうすでに疲れているハルト。僕は護衛任務集中という名目のもと、沙紀の相手をハルトに丸投げして二人との通信を切る。
『ふふ、紅葉君も鬼ですね。後輩君に面倒事を丸投げするなんて』
ハルト達と変わるように通信をつなげてきたのは、オペレーター科の3年生、山井桜さんだ。
「鬼って…。あれは、後輩が成長するために、仕方なく仕事を譲ったんだよ」
『ふふ、そういうことにしておきましょうか』
僕の回答に、そう言って笑った後、山井さんはすぐに真面目な顔に意識を切り替える。
『今、グレイドール、篠宮両名を乗せたヘリが離陸しました。護衛任務のため、紅葉機の起動シークエンスを開始します』
「了解」
山井さんにひとこと返し、僕は待機状態だった機体の各種システムを立ち上げていく。
「火器管制システム、ICS共に正常に起動。GPS、マップ情報更新。機体各部異常なし」
『イスタシュパッツ紅葉機、正常起動を確認。発進シークエンスに移行』
山井さんの声と同時に、機体の足元にライトの明りで光の道ができる。その道の先にあるのは、機体運搬用の上昇コンベアだ。僕は、山井さんの指示に従って機体をコンベアに乗せる。イスタシュパッツがコンベアに載ると、間髪入れずにコンベアは上昇を開始する。コンベアが上りきった先は学内演習場のドームの中だ。僕がコンベアから降りると、直ぐに機体の待機位置が示された。僕は、黙ってその位置まで機体を移動させる。
『イスタシュパッツ待機位置への移動を確認。カタパルトシステムエンゲージ』
その声がコックピット内に響くのと同時に、演習場の天井と地面が割れた。鋼鉄のふたに覆われていた空が姿を現し、地面からは天に向かう橋がせり上がる。その橋の根本、ちょうどイスタシュパッツの目の前に現れたAFの足が入るくらいのくぼみに、機体の両足を入れる。
『イスタシュパッツ、カタパルトとのリンクを確認』
その一言から少し間を置き、山井さんは再び口を開いた。
『進路クリア。発進準備完了、イスタシュパッツ紅葉機発進どうぞ』
「了解。イスタシュパッツ、紅葉透、護衛任務の為出撃します」
山井さんからの合図で、僕はフットペダルを踏み込む。機体に接続されたカタパルトシステムがそれを感知して作動。リニア式のカタパルトは鋼鉄の塊であるイスタシュパッツをいとも簡単に空中へと放り投げた。
イメージ。機体の角度を調整、上昇。
フットペダルを踏み込むと、僕の思考を読み取ったICSが機体各部のブースターの噴出口を調整し、炎が噴き出した。
「山井さん、ヘリの現在位置は?」
『南西800mです』
「了解」
報告に返事を返して、イスタシュパッツを南西の方向に向ける。そして前進をイメージ。僕のイメージをトレースして機体が動き出す。まずはヘリに追いつかなきゃね。
僕がヘリに追いつき、護衛を始めて約30分。眼下の荒野にぽつんと一つ、灰色の建物が見えてきた。僕がその建物を見て安堵のため息を吐くのとほぼ同時に、すでに山井さんとの交信を切った通信機が着信を告げた。
『接近中の輸送ヘリ並びにAF。こちらCASアリエンタ支部第三演習施設ドライ。貴殿らの所属と目的を明らかにされたし』
『CASアリエンタ支部整備科3年、坂井です。本日の実験に参加する05AF小隊アクター二名を連れてきました。AFは護衛機でアクターは同じく05小隊の紅葉です』
演習場からの通信に答えたのは、05小隊のAF整備主任、CASアリエンタ支部整備科3年の坂井悠太だ。今回は僕がイスタシュパッツで護衛するので、演習場でその整備を行うという名目のもと数名の整備科生徒と一緒にヘリに乗り込んでいる。
『…確認した、05小隊の坂井特別整備主任だな。話は聞いている、今日はよろしく頼む』
『こちらこそ、よろしくお願いいたします』
管制官と坂井の会話が終ると、ヘリは徐々に高度を下げ始める。僕は、周囲を警戒しつつドライへ降下するヘリを見守る。
無事にヘリが施設内のヘリポートに着地するのを見届けて、僕は機体をヘリポート横のAF発着場へと下した。そのまま機体に片膝立ちの姿勢を取らせて、昇降ワイヤーを使ってコックピットからおりる。
「よ、アカヤン。護衛ご苦労さん」
コックピットから降りた僕をそうやって出迎えたのは金髪坊主の整備長、坂井だ。差し出されたスポーツドリンクのペットボトルを受けとりながら、それに応える。
「ありがとう、道中なにもなくてよかったよ」
「まったくだ。あの虫どもが襲ってきやがったらどうしようかと思ったぜ」
坂井の言う虫ども、というのはコンクエスタの俗称みたいなものだ。
コンクエスタには大きく分けて2種類のものがいる。クイーンとソルジャーの二種だ。それぞれ、クイーンは三種、ソルジャーは四種の物がいる。クイーンはワーム級、マンティス級、ビートル級と呼ばれる大型種。ソルジャーはフライ級、バタフライ級、ホーネット級、シザース級と呼ばれる小中型の四種。
これは各コンクエスタの姿がそれぞれ名前の元となった虫に似ていることから名づけられたんだ。だから、コンクエスタは一部では虫と呼ばれることもある。
「そういえば、ハルト達は?」
「ああ、アイツらなら直接ドライの演習場に行ったぜい。アカヤンと俺はモニタールームで教官たちと実験の様子を見る手はずになってる。行くか?」
坂井に聞かれ、僕は首を縦に振る。それを見た坂井も一度頷いてから後ろで待機していた他の整備科の生徒にイスタシュパッツの整備を指示する。
その後、じゃあ行こうという坂井の言葉で僕たちは歩き出す。道中ではこの実験が成功するかどうか、成功したなら複座型の新型が二人に与えられるのかなどを二人で話した。
もしも、二人に新型が与えられたなら、僕の機体がイスタシュパッツのままでは戦力的な不安が出てくる気がする。イスタシュパッツ自体、二年前の機体だ。改修を重ねてだましだまし使ってきたけど、そろそろ性能的にも辛いと思っていた時期だし、共通二号機のコルトイーグルの受領申請をだそうか…。
「コルトイーグルかー。そいつもいいかもしれねえが、もうちっと待った方がいいかもしれねえぜアカヤン」
コルトイーグルの受領申請の話を話題に出すと、坂井はそう言ってから理由を話し始めた。
「ヴェルロッドの実戦データと他の量産機のデータから、うちの研究所のお偉いさん方が新型のアリエンタ製量産機を作るって話が整備士連中の間で噂んなってんだ」
なるほど、この整備長はどうせならアリエンタ製量産機の真偽を確かめたうえで、本当なら噂の新型を受領した方がいいと言いたいらしい。
「わかった、そういう事なら機体の受領申請はもう少し見送るよ」
頼れる我らが整備長にそう返事を返し、話している間に辿り着いたモニタールームの扉をノックする。
「失礼します。第05AF小隊紅葉、及び坂井。ただいま到着いたしました」
扉を開けて敬礼。中にいる人物を確認して一瞬ため息を吐きそうになるのをすんでのところで回避する。
「ああ、来たか」
「おォ! 紅葉クン、よぉく来てくれマシタ! 05小隊のご協力感謝感激デェスヨォおお!」
僕たちを迎えたのは遼姉と変態教授ことヴェルシュタイン教授、助手の斉藤さんの三人だ。いや、PLキャノンの実験だから、ヴェルシュタイン教授がいるのはわかってたけど、それでも実際にいるのを見るとため息を吐きたくなる。この人は苦手だ。
「いえ、新兵器開発は僕たちにとっても必要な事ですので、喜んで協力させていただきます」
務めて笑顔でそういうと、横で坂井がアカヤンの猫かぶりーと小声で茶化してくるので肘で小突いておく。
それから、しばらく今回の実験について改めて簡単に説明を受け、僕は坂井と雑談をしていると、実験開始予定時間の17時が近づき、斉藤さんが声を上げる。
「皆さん、そろそろ時間です」
「おォ! もう時間ですか! アクターのみなさんッ、準備はぁイイーデスかァっ!」
斉藤さんの言葉を受けて、飛びつくように教授がマイクに向けて話しかけると、モニターに沙紀とハルトが映る。
『第05小隊、グレイドール、篠宮両名実験用AFに搭乗完了。いつでも行けます』
通信機越しにハルトが返事を返し、教授は満足そうにうなずく。
「そぉれではッ! 実ぃ験開っ始デス!」
テンションがメーターを振り切った教授の合図に合わせて、斉藤さんがコンソールを叩く。モニターが演習場の様子を映し出し、そこにある一機の銀色のAFを映し出した。
装甲の厚いボディに左腕のガトリングガン。装甲が銀色なのはまだ塗装がなされていないからだ。GAA-X02 ヴァイアード、アリエンタ製試作機二号機の姿がそこにはあった。
モニターに映るヴァイアードは一度屈伸をするように膝を曲げると、それを伸ばす勢いで空中へと跳躍。そのままブースターを吹かせてさらに空高くへと飛翔する。その速度は、重装甲に身を包んでいるとは思えない程速く、僕の使っている高機動カスタムのイスタシュパッツに勝るとも劣らない速度で空中を走る。
「速いね。とても重装甲型の機体とは思えない」
「そらそうさね。背中のBELCAは高威力エネルギー砲であると同時にヴェルロッドの背部ブースターと比べても遜色ない高性能ブースターだからな」
僕の口を突いて出た率直な感想に、隣に立つ坂井がノータイムでそう返してくる。いや、BELCAのカタログスペックは知っているし、なんとなく予想もしていたけど、実際に見るやはり驚きは隠せない。
「そぉれでハ! マズは、複座システムに問題がなぁいかの! チェエックをおっこないマァスヨ!!」
『了解』
『いつでも来やがれです!』
モニターに映る沙紀とハルトの両名がそう返事をするのを確認し、教授に代わって遼姉が斉藤さんに指示を飛ばす。
「ターゲットクレイ、三枚射出」
「ターゲットスリー、射出します」
遼姉の指示で斉藤さんがコンソールを操作すると、ヴァイアードの周辺に砲台のようなものが現れ、そこから射撃訓練用の疑似ターゲットである粘土でできた円盤が飛び出した。その数は3つ。まずは小手調べという事なのだろう。
『兵装ガトリングガン、ターゲットロック完了』
『了解です!』
FCSと火器選択を担当するハルトが伝えるのと同時に、沙紀がトリガーを引いたのだろう。ハルトの声が聞こえたと思ったら、ヴァイアードが左腕を振り上げ、そこに装備されたガトリングガンが無数の弾丸を吐きだした。射出された三枚のターゲットクレイはその弾丸の雨に食いちぎられ、穴だらけの姿となって地面に落ちた。
「続けてターゲット7枚、射出」
「ターゲットセブン、射出します」
ターゲットが破壊されるとすぐに、遼姉は指示を出す。それに応えて、斉藤さんはコンソールを叩き、画面の中のヴァイアードに向かってターゲットクレイが殺到する。ヴァイアードは少し後方に下がりながら、両肩に装備されたミサイルポッドを展開。片方に付き3発。計6発の誘導弾がクレイターゲットを一枚ずつ破壊するが、射出されたターゲットは7枚、まだ一枚残っている。
ミサイルの爆発煙でよく見えないが、残った一枚のターゲットクレイはまっすぐヴァイアードのいた位置めがけて飛んでいくように見える。ハルトがロックし忘れたのだろうかと一瞬思うが、そんな疑問はすぐに消し飛ぶ。
煙の中から閃光が瞬いた。その正体は、ヴァイアード右手のライフルによるマズルフラッシュ。放たれた一発の弾丸はターゲットクレイの中心をきれいに貫き、勢いを失った円盤は重力に従って地面へと落ちた。
「ターゲットクレイ全ての破壊を確認。ヴァイアード、複座システム正常に動作。機体負荷正常値で安定、搭乗者への以上負荷も確認されません」
「ふむ。ヴァルシュタイン主任、複座システムに問題がないようならPLキャノン起動実験に移りたいが、よろしいか?」
斉藤さんの報告を聞いた遼姉が教授に訪ねる。教授は満面の笑みを浮かべて(もっとも、ぐるぐるメガネのせいで目は見えないのだけれど)頷いた。
「もぉっちろんデス! さぁっ、ハァやっくはっじめましょオオォおおウ!」
相変わらずのハイテンション。きっとあのぐるぐる丸眼鏡の奥では瞳がきっらきら輝いてるに違いない。
「よし。グレイドール、篠宮、聞こえるな。これより、PLキャノン起動実験に移る」
『『了解!』』
遼姉の言葉に二人が頷き、斉藤さんがコンソールを叩く。
「PLキャノン用ターゲット起動」
斉藤さんの言葉と共に、モニターに現れたのは分厚い金属でできた壁。モニターに映るヴァイアードと比較してみると、それが10mは優に超える厚さを持っていることがわかる。通常の兵装じゃ、どうあがいても単体火力で貫けるものではない。
「なにあれ」
「聞いてなかったのか? PLキャノン用のターゲットだってよ」
「いや、聞いてたけど、分厚くない?」
「あー。オリジナルのビーム兵器ならあんなものおもちゃだぜい?」
横で平然と言ってのける整備長を驚きの目で見やると、モニターからハルトの声が響いてくる。
『ターゲットロック、兵装BELCA。ブースターモード解除、キャノンモードへ移行』
その声に、あわてて視線をモニターに戻す。
モニターに映るヴァイアードには変化が起こっていた。それまで背部の追加ブースターとして機能していたBELCAからは炎が消え、今は通常ブースターのみで滞空している。
炎の消えたBELCAはその砲口を機体後部ではなく前面へと向け、ヴァイアードの両脇から砲身を突き出していた。
「BELCA発射」
『発射ぁ!』
遼姉の合図に沙紀が応え、BELCAの砲口が白く染まった。そう感じた瞬間、その光は某直的な熱量の塊となって鉄壁を貫いた。鉄壁をやすやすと貫通したプラズマ弾は演習場の地面さえもえぐり、膨大な量の土煙がモニターを覆う。
「なん…」
「ははっ、こいつぁすげえや。ホントに、威力だけならオリジナル顔負けだな」
PLキャノンBELCAのその馬鹿げた威力に絶句する僕とは対照的に、坂井は笑って口笛でも吹きそうな雰囲気でそう口にした。
「BELCA発射確認。搭乗アクター両名、心拍数、血圧等変化なし。実験は成功です!」
「おお! ぉおお! オォオオォおおおエェェエエエッッックセレント!!! すんばらしぃ! 篠宮クン、グレイドールクン! よぉくやってくれマシタ!! おっ二人には、そのヴァイアードを専用機に改造してプッレゼントしちゃいマスヨォオオ!!!」
テンション覚め止まらぬままの教授の言葉も耳に入らない程度には、僕は放心していたみたいだ。あとで坂井に聞いた話によると、誰も教授を止めようとせず、ツッコミ役不在のまま教授が通信機であちこちに連絡を取り、ハルトと沙紀の搭乗する複座型イージスフレーム”ヴァイアードII”の政策が決定してしまったらしい。
…果てしなく不安だ。これは、新型機の話が出たら何が何でも受領申請を出さなきゃな….