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神紅の剣  作者: 栗太
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3.新型‐ヘンタイ‐


「透ー、飯分けてくれー」


 昼前の教養講義の終了と同時に人の貴重な栄養源を要求してくるこいつは、我らがCASアリエンタ支部第01AF中隊長にして、オリジナルAF”グラウコス”のオリジネイター狭霧康太(さぎりこうた)。僕がアリエンタに来てすぐに知り合った自称イケメンの残念な僕の悪友。平日の昼時になると、いつもこうして弁当をタカりに来る。


「なんで僕が、君に弁当を分けなきゃならないのさ」

「そりゃ、お前。俺がお前の中隊の兵士で、俺が弁当持ってきてないからに決まってんだろ」

「いや、意味わかんないし。そもそもなんでいつも持ってこないのさ」


 いつもの様にそう言うと、康太もいつもの様に胸を張って答える。


「俺のみてーにイケメンだと、俺に惚れちまった美人さんが手作り弁当を持ってくるかもしれねーだろ。そん時に俺が弁当持ってたら、その子がかわいそうじゃねぇか」

「ああ、そうかい。で、君に弁当を持ってきてくれた女の子っていままで何人いたんだっけ」

「…どうにも皆奥手らしくてまだ0なんだよなぁ、不思議なことに」

「今日はもらえたの?」

「…もらってない」

「…涙拭けよ」

「…ハンカチいらねーから弁当わけろ」

「やだ」

「くっ、このけちんぼめ!」


 なんだこの茶番。毎日の恒例行事となりつつある、茶番を終えて僕は席を立つ。


「で、今日はどうすんの。食堂?」

「おう。今日は伝説の裏メニュー、卵かけご飯オクラと山芋と納豆乗せスペシャルを食うつもりだ!」

「それ、裏メニューでも伝説でも無くて、学食にあるトッピングメニューテキトーに乗っけただけの卵ご飯じゃん」


 ツッコミを入れつつ鞄を開いて弁当を探す。一通り漫才を行ってから、学食か購買に行くのが僕たちの昼の日常風景だ。

 えっと、弁当は…あった。…あれ?

 鞄の中から弁当箱を見つけ出した僕は、いつもなら一人分しかないはずのそれが二人分あるのに気付いた。そうか、今朝は遼姉に弁当渡しそびれたんだったっけ。

 今朝、今日は早くから会議があるため弁当を後で届けるように言われていたことを思い出し、僕は一人で疑問を解決し康太に向き直る。


「ごめん康太、今日は遼姉に弁当届けないといけないから、先に食堂行っててくれない?」

「ん、そっか。わかった、じゃあ木嶋教官とこ行ったらすぐに食堂こいよ」

「うん。あんまり遅くはなんないと思うけど、待ちきれなかったら先に食べててよ」

「ああ、わかった。じゃ、また後でなー」


 それだけ言うと、康太は食堂の方へと向かって教室を出た。さて、僕も遼姉に弁当を届けて早く食堂に行かないとな。そんなことを考えながら、二人分の弁当を持って席を立つ。この時間なら、遼姉は教官室…所謂職員室にいるはずだ。もしいなかったとしても、机の上に置いておけば分かるだろうし、とりあえず教官室に行こうか。

 教室から出て、僕は教官室の方向に向かって歩き出す。CASアリエンタ支部は、円環状の多層構造の建物になっている。建物の中心にはAF同士の模擬戦もできるアリーナ兼用の校庭があって、地下はAF開発の研究所兼AF格納庫だ。僕の目指す教官室は三階、今いるのは二階の教室階層だから階段を使って三階に上がらなきゃいけない。

 あ、僕の分の弁当、康太に持って行ってもらえばよかった。

 三回に上がる階段の途中で、そんなことを一瞬思ったが、すぐに脳内で取り消す。あの康太の事だ、きっと僕が来る前に勝手に弁当を食べるに決まってるからね。

 脳内で康太に対して勝手な評価を付けながら歩いていると、教官室が見えてきた。しかも、ドアの前には遼姉もいるみたいだ。


「りょうね…木嶋教官!」


 危うく、いつもの様に遼姉と呼びそうになるのを直前で回避し、僕は遼姉を呼び止めた。遼姉は、公私混同を嫌う人で、ここでは木嶋教官と呼ぶように口酸っぱく言われているからね。


「うん? ああ、紅葉か。どうした」

「これ、今日の昼食です。今朝、渡せなかったので」

「ああ、そういえばそうだったな。いつもすまん」

「いえ、これも僕の仕事ですから」


 本当に申し訳なさそうにする遼姉に対して、僕は即座に答える。こうして僕が弁当を作らないと、遼姉は平気で昼食を抜かしたり、カップ麺だけしか食べなかったりする。幾ら料理ができないからといっても、それでは体を壊しかねないし一人分作るのも二人分作るのも変わらないから、大した苦労もない。


「ふむ…。私が料理をできればよかったのだがな…」

「いや、無理でしょ…」

「うむ…」


 姉弟もとい親子そろってため息をつく。いや、遼姉の料理炭化症は今に始まったことじゃないし、いいんだけどさ。この先、僕がいなくなることだってありうる。一応、僕は最前線で戦うAFのアクターだからね。もしかしたら次の出撃で命を落とすことも考えられる。そうなったときに、料理のできる彼氏や旦那さんが居ればいいんだけど、遼姉の性格じゃ難しいだろうしなぁ…。


「ところで、紅葉。何故お前は弁当を二つ持っているんだ。まさか、私と一緒に食べたいというわけでもあるまい」

「え? あ、これはこのまま食堂で康太と昼食を取ろうと思って…」


 自分で言った後で、食堂に康太を待たせていることを思い出した。あれでいて康太は律儀なやつだから、僕が来るまで食べずに待っているはずだ。


「すみません、木嶋教官。康太を待たせてるのでこれで失礼します」

「む、そうか。弁当、感謝する。…ああ、そうだ。あの変態技術者がまた何か作ったらしい。お前の事を呼んでいたから、昼食を摂った後にでも出向いてやれ」

「ヴェルシュタイン教授がですか? わかりました、では昼食後に伺います」


 再び失礼しますと頭を下げた後で、僕はその場を後にする。康太と待ち合わせている食堂は1階の商店階層にあるから、まずは一階まで降りなきゃいけない。先程三階まで登ってきた階段を下りる。ここを降りきったら、食堂に辿り着くまでならそんなに距離はない。

 一階まで降りると、右方向へ進路転換。すぐ目の前に見えるドアをくぐればそこから円環の正反対側までが食堂エリアだ。そう、ここの食堂はかなり大きい。アリエンタ支部の円環は直径2km、円環部分の幅は100メートルちょっとだったはずだから、床面積だけで600?はある計算になる。ちょっとしたショッピングモールができそうな大きさだ。食堂エリアがここまで大きいのには理由がある。アリエンタ支部には約50名のアクターと、20人強の教官陣、500人近いAF関係技術者とその他AF関係者や正規軍人、施設管理関係者。合計すると1000人近い人間がここで食事を摂るのだから、ある程度大きくなくては食事を食べ損ねる人間が出てもおかしくない。体が資本のこの場所に於いて、それはあまりほめられたことではないから、この食堂はここまで大きい。

 って、ここに入学したときに説明されたけど、それが本当なのかどうかは正直よくわからない。だって、この食堂の席が半分以上埋まってるところをいまだに見たことないし。


 まあ、どうでもいいんだけどさ。食堂が大きい理由とか。ただ、ここまで広いと康太を探すのが骨なんだよね…。無駄に広いから、探すのがとにかくダルい、面倒。馬鹿正直に探してたら弁当を食べる前に疲れる。


「さてと、康太はどこかなーっと」


 一瞬だけ辺りを見回してから捜索を断念。ポケットから通信端末を取り出して康太のアドレスに音声通話をコールする。

――Prrr Prrr Prrr Pi!『おー透か』

 三回響いたコール音の後で、端末から康太の声が聞こえてきた。


「うん。康太、今どこにいる? とりあえず食堂には着いたけど…」

『あー。今、中央外周よりのテーブルにいる。真城ちゃん達と、お前んとこの後輩たちも一緒だからすぐわかるはずだ』

「中央外周よりだね。わかった」


――P!

 康太から現在位置を聞いて通話終了ボタンを押す。

 あの言い方だと、多分またいつものメンバーが揃ってるんだろうなぁ。

 康太のいるテーブルに同席しているであろうメンバーを想像しながら、僕は康太たちのいるテーブルを目指して歩き出した。




「あ。紅葉、結構おそかったわね」

「お、来たか」

「あ、お先に頂いてるっス」

「先輩おせーですよ。沙紀はもう腹ペコです」

「ちょ、沙紀ちゃん。それ敬語になってないし、失礼だよ。すみません紅葉隊長」


 テーブルに着くのと同時、僕に気付いて声を掛けてきたのは予想道理のメンバーだった。最初に声を掛けてきたのが僕らと同じ二年生の、真城湊さん。康太の副官を務める第01AF小隊のアクターだ。で、その隣に座る康太を挟んで既に昼食のラーメンを啜っているのが同じく01小隊のアクター、ミゲル=ハイネマン、一年生。そして、その三人の対面に座る二人はミゲルと同じ1年生で、僕が小隊長を務めるアリエンタ第05AF小隊のアクター、篠宮沙紀と、ハルト=グレイドール。


「ごめんごめん、遼姉に弁当持って行ってたんだ」

「それは、狭霧さんから聞いてるですよ。それにしたっておせーです。切腹モノです」


 六人掛けのテーブルの中で唯一空いてる沙紀の隣の席に腰掛けながら、理由を述べるけど、沙紀は腕を組みながらそっぽを向く。彼女の幼馴染だというハルトに目くばせするけど、返ってくるのは困ったような苦笑いだけだった。


「ごめんね、沙紀。ほら、お詫びにから揚げ一個あげるから」

「…し、しょうがねーですね。別に食べたいわけじゃないけど、先輩がどーしても食べてほしそうにしてるので食べてやらんこともねーですよ」


 弁当箱を開いて、中に入っているから揚げを一個、沙紀の弁当箱の中に入れてあげる。まぁ、から揚げ一個くらいならあとで空腹に悩まされることもないだろうしあげても何の問題もない。


「うっし、じゃあ透も来たことだしさっさと昼飯食おうぜ!」

「うん、そうね。頂きましょ」


 康太の一声で、すでにラーメンを啜っていたミゲルも一旦その手を止める。


「じゃ、いただきます!」

「「「いただきます」」」

「いただいてまーっス」


 康太の号令で手を合わせ、食事に手を付ける。今日のみんなのメニューは康太が宣言通りの卵かけごはんに鶏のから揚げ。真城さんとハルト、僕は自分で作った弁当。沙紀はハルトが作った弁当。ミゲルはさっきから食べ続けてるラーメン定食だ。

 このメンバーで昼に集まるのは珍しくない。というより、毎日あつまってるね。

 …いや、集まってるって言い方もへんかな。もともとは僕と康太が二人で寂しく食べてたんだけど、小隊メンバーとの交流を深めたいって名目で今年度の始まりに真城さんが加わって、それならいっそ二個小隊のアクター全員で食事しようってことでハルト、沙紀、ミゲルの三人を呼んだのがきっかけで、気づいたら毎日何も言わなくても全員ここに集まるようになっんだ。


「はふっ! はふほほふふっふぁ…」

「沙紀ちゃん、行儀悪いよ。喋るのは飲み込んだ後で」


 ハルトが作ってくれた弁当のアスパラのベーコン巻きと、僕のあげたから揚げを頬張りながら喋ろうとする沙紀をハルトが一喝すると、沙紀は口の中の物を飲み込むべく、大人しく口を閉じて咀嚼を始める。


「透ー。から揚げとから揚げの交換しようぜ」

「から揚げとから揚げの交換って…。いや、いいけどさ」


 自分で買った一品物のから揚げを差し出してくる康太のから揚げの器に、自分のから揚げを一個いれ、差し出されたから揚げを自分の弁当箱で受け取る。すると、それを横目で見ていた真城さんが急に咳払いして康太の方を見る。


「さ、狭霧。ウチも今日から揚げ作ったんだけど作りすぎちゃって、ちょっと食べきれなさそうだから味見ついでに食べてくれない?」


 そう言って、真城さんは自分の弁当箱を康太の方に押しやった。まったく、素直に食べてくれって言えばいいのに。どうにも、真城さんは康太に気があるらしい。これは、ここにいる康太と真城さん二人を除いた4人全員の共通見解なんだけど、康太は真城さんの好意に気付いていないらしい。前に、それとなく聞いたりしたけど、康太が気づいている様子は一切なかった。


「お、いいの!? 真城ちゃんありがとう愛してる! 女の子の手料理が食べられるなんて、生きててよかった!」

「あ、あい!? お、おおげさね! ほ、ほら、さっさと食べなさいよ!」


 うわー。康太、嬉しいのはわかるけど、それはないわー。自分に気がある相手に、そのことに気付いてないのに愛してるとか…。まあ、真城さんは顔真っ赤にしてるけど嬉しそうだし、本人がそれでいいんだけどさ。


「…あ、そういえばヴェルシュタイン教授から呼ばれてたんでした」


 弁当を食べ終わり、さあこれからゆっくりしようというタイミングでハルトが思い出したように言う。


「あれ、ハルトも? 僕も呼ばれてたんだ」

「沙紀も呼ばれてるですよー」


 ふむ、どうやらヴェルシュタイン教授に呼ばれたのは僕だけではなくて第05小隊のアクター全員らしい。昼の休憩時間はあと40分ほど。ヴェルシュタイン教授の研究室までは10分はかかるし、早めに行った方がいいかな。


「よし、じゃあ二人とも一緒に行こうか。康太」

「ああ、もしも遅れそうなら端末にメール送ってくれ。あのど変態の事だ、30分そこらじゃ話が終んねーだろ」


 名前を呼んだだけで僕の言わんとすることを察したらしい悪友は、苦笑付きでそういってのけた。


「ありがとう、今度ジュースおごるよ。じゃあ、行こうか」

「はい」

「はーい」

「おー、いってこい、いってこい」

「いってらっしゃい」

「行ってらっしゃいッス。ハルト、後で話聞かせるッスよー」


 異口同音に行って来いと言ってくれる第01小隊のメンバーに別れを告げて、僕たちは地下にあるベルシュタイン教授の研究室へと向かって歩き出した。




 アークライト=ヴェルシュタイン教授。CASアリエンタ支部のAF開発局局長の偉い人。

 …の、はずなんだけどなぁ。これまでにヴェルシュタイン教授の作った作品(・・)はドリルだとかロケットパンチだとか、実用性のないものばかり。本人曰くロマンのないロボットなどロボットに非ず。だそうで、ついにまともなモノを作ったかと思ったら、その正体は被弾したら一発撃墜の超が付くほどピーキーな高機動近接戦闘用AF。ついに付いた呼び名が変態発明家。そのヴェルシュタイン教授が小隊ごと呼び出すという事は、また新しい武器かAFを創ったんだと思うけど…。


「教授、今度は何作ったんでしょうね…」

「…いいかげん、まともなものを作ってくれたらうれしいんだけどね…」

「えー。沙紀はあの人の作る武器とか好きですよー。ロマンにあふれてるですし、ヴェルロッドだって使いやすい機体でありやがりますから!」


 研究室の前、嫌な顔をする僕とハルトとは対称に沙紀は嬉しそうに笑っている。彼女は所謂ロマンの分かる人間だそうで、ヴェルシュタイン教授の作る作品を気に入っているらしい。まぁ、教授の方も、数少ない同志という事で沙紀に優先して新装備を使わせている節はあるから気に入ってはいるんだと思う。


「…沙紀、いつも言ってるけど、あまりに使えない装備だったら受領拒否するからね」

「…わかってるですよ」


 そっぽを向いて、そう答える沙紀。

 …コイツ、どんな装備が来ても喜んで受領する気だったな。

 なんだか頭が痛くなってきたけど、足を止めずに歩き続けるとヴェルシュタイン教授の研究室の扉の前までたどり着いた。正直、ここまで来たけど直ぐにでも帰りたい。さっきまでは何とも思ってなかったけど、今まであの人が作ってきた作品を思い浮かべたら、この扉を開けたくなくなってきた。


「…ねえ、帰っちゃダメかな」

「ダメですよ、何言ってるんですか隊長。それに、すっぽかしたらあとで木嶋教官に怒られますよ?」

「そーです! ヴェル爺の新装備すっごく気になるですし、帰るなんて許さんです!」

「だよねぇ…」


 真面目な副官(ハルト)と、ただ新装備を使いたいだけのおてんば娘(沙紀)の一年生コンビに意見を一蹴され、僕はノックしてから扉を開いた。


「失礼します。アリエンタ第05AF小隊アクター三名、招集を受けて参上いたしました」


 一応、教授は上官に当たる立場の人だから、敬礼を付けて名乗る。名乗りながら部屋の中を見ると、教授本人と助手さん以外に6人のアクターがいた。

 これは、いよいよ新装備が作られたってことで確信してよさそうだ。

 分かってはいたものの、新装備の可能性をできれば否定してほしかった僕は、ため息をつきそうになるのを抑えながら部屋の中に入る。さて、今回はどんな新装備が待っているのやら。


「オォ! やぁっときマシたカ! ささ、その辺に座ってくだサイ、直ぐに説明をはじめマスかラ!!」


 開口一番、ハイテンションで捲し立てる白髪にぐるぐるメガネのこの人が、変態発明家ことアークライト=ヴェルシュタイン教授。

 その隣の小太りな男の人は斉藤樹(さいとういつき)さん。ヴェルシュタイン教授の助手で、世界一幸運で不運なAF技術者だ。


「あはは…ごめんね。そこ、空いてるから座っておくれ。はい、これ今回の資料」


 いそいそと近づいてきた斉藤さんにも促され、僕たちは空いていた三人掛けのソファーに腰掛ける。…これ、来賓用のソファーのはずだけど、僕たちが座ってもいいのかな。

 斉藤さんから受け取った人数分の資料をハルトと沙紀にも渡しながらそんなことを考えるけど、勧めてくれたのは斉藤さんだし、まあいいかという結論に達して一旦考えるのをやめた。


「みぃーなさん! 資料はいっき渡りマシたネ! では、説明を開始しまショウ!」


 大きく手を動かしながら、教授は話し始めた。


「まぁずっ! 今回皆さんに集まってもらったのハ! ほっかでもなく、あーらたなAFのテストパイロットを引き受けていっただくためデス! それではお手元の資料をご覧くだサイ!」


 ああ、やっぱり…。痛くなる頭を押さえそうになるのをどうにか留めて、資料に目を落とす。そこには新AFの大まかな情報が書き込まれていた。


「マズ、今回の新型。名ハGAA-X02 ヴァイアードといいマッス!」


 GAA-X02 ヴァイアード。資料を見る限り、重火力支援型の機体らしい。機体の全体図や装備している火器を見るけど、今のところ特に変なところは見当たらない。

 …あれ、この背中についてる武器…。

 表示されている名称に疑問を抱き、教授を見る。


「オォ、紅葉君、気ぃ付きマシたカ!」

「ああ、えっと。この機体に装備されている背部武器。VWC-011 BELCA(ベルカ)ですが、この図面を見る限り弾倉が見当たりませんし、説明文にも何も記されていません。これでは、装弾数が極端に少なくなってしまうように思われるのですが、この装備はどういった装備なのでしょうか?」


 促され、疑問に思ったことをそのまま口にした。このキャノン砲、やたらごてごてとしていて巨大な砲門を持っているが弾倉部分が見当たらない。これでは、従来のキャノン砲の榴弾では四発も持てないように思える。

 僕が素直な意見を申し立てると、ヴェルシュタイン教授はニィっと笑ってから口を開いた。


「すんっばらしぃい! さっすがハ、木嶋さんの息子さんデスネ! そう、この兵装にハ弾倉が存在しマセン。いぃな! ひっっつようないのデス!!」


 両手を広げてそう叫ぶ教授に、僕は眉をひそめる。弾倉の必要ない火器など、聞いたことがない。火炎放射器のようなものなら弾倉はいらないだろうけど、コンクエスタにそんなものは通用しない。


「こんのベルカの正ぉお体ハ! 名ぁ付けてプぅラズマレールキャノン! PB(プラズマバーン式)ブースターおぉよび、レーぃルガン技術!! このふぅたっつを応用、融合したのっガ! このVWC-011 プラズマレールキャぁノン、ベルカなのデッス!!」


 プラズマレールキャノン…。名前だけ聞くとなんだかすごそうだけど、一体どんな兵器なのか分からない。二つの技術を応用・融合したと言っていたから、教授の開発した新兵器であることは間違いないんだけど…。


「その、プラズマレールキャノンとは具体的にどのようなものなのでしょう?」

「あ、それは私から説明するよ」


 別な小隊のアクターが尋ねると、それまで教授の隣に立っていた斉藤さんが一歩前にでた。


「プラズマレールキャノン。通称PRキャノンは、先程教授がおっしゃったように、PBブースターとレールガン技術を融合した新兵器だ。まずはPBブースター技術を応用して砲塔内に圧縮プラズマ弾を多数作成。そしてレールガン技術の技術、つまりは砲身に異なる電化を連続して与える事によって作成したプラズマ弾を一気に超高速で打ち出す兵器なんだけど。試射実験では、一部のオリジナルAFが持つビーム兵器にも劣らない火力をたたき出しているよ」


 ビーム兵器に劣らない威力。そう聞いた瞬間、部屋の中がざわついた。オリジナルAFの持つビーム兵器と言えば、現状では最強の威力を誇る兵器だ。それに劣らない威力の兵器を作り出したと言われれば、驚くなという方が無理があるというものだ。


「更に、この兵装は高出力のPBブースターとしての運用も可能なんだ。この機構のおかげで、新型機ヴァイアードは機動力と火力と両方兼ね備えた高性能機となっているよ。とはいっても、PRキャノンは結構なエネルギーを消費するから増設したプロペラントタンクがないと、直ぐにエネルギーが切れてしまうんだけどね」


 これだけの性能で、プロペラントタンク増設くらいで済む欠点しかないなんて…。

 ただの変態だと思ってたけど、やっぱりヴェルシュタイン教授ってすごい人だったんだなぁ…。


「さぁいとう君、あっりがとうございマス! さっあ、みなさん。いぃまので、ヴァイアードのすっごさハお分かり頂けタと思いマス!! しっかーし! この機体の真髄はほっかにあるのデス!!」


 …PRキャノンよりすごいものがこの機体には搭載されてる…?


「この機体の真髄ハァこんの、右っ腕の盾にぃあーるのっデス!!」


 言われて、ヴァイアードの図面に目を落とす。確かに、ヴァイアードの右腕には大型の多層シールドが装備されている。しかも、これは腕に直接固定されているので盾を持ちながら右腕で銃火器を持てるようになっているらしい。

 んー。確かに画期的ではあるけど、これがそんなに優秀なモノとは思えないんだけどなぁ…。


「皆っさんハ! 漢の三大ロォマンと言えば、なぁんだと思いマスカ? わったしハ! ドリル・ロケットパンチ、そぉして!! パイルバンカーだと、考えマッス!!」


 あれ、何か嫌な予感がしてきた。


「こんの、ヴァイアード! 右ぃ手の盾をパァージしっマスと!! なぁんと、かっくし装備としてパイルバンカーが内臓さっれていぃるのデッス!! しかもこのパイルバンカーハ、レールガン技術で杭を発射すぅるのっで! 被弾しても誘爆しない親切設ぇえっ計!! どぉうですか、皆さん!!」


 …いや、その親切心いらないですから。レールガン技術をそんなことに使えるなら、もっと使える兵器作ってください…。

 痛くなる頭をつい右手で抑える。顔を上げると、他二小隊の小隊長たちも頭を押さえていから、多分同じことを考えてるんだろうなぁ…。

 そんなことを考えていると、急に隣の沙紀が立ち上がる。それに触発されたかのように、他の二小隊からも一人づつ立ち上がり、声をそろえて叫んだ。


「「「流石です同志!!!」」」

「オォ! 同志諸ぉ君!! わぁかってくっれマシたカ!!」

「当たり前です! 自分はこんな兵器を待ってました!!」

「この機体はぜひ私に!!」

「どーでもいいから沙紀のヴェルロッドにパイルバンカーつけるですよヴェル爺!!」


 どうやら、彼らは三人とも分かる方のメンバーらしい。

 …とりあえず沙紀の機体にパイルバンカーを積む案は却下。機体の受領は…ハルトが適任かな、射撃精度だけなら彼の方が高い適正を持ってるし。

 未だに続いている、無駄に暑苦しいロマン分かる派連中の掛け合いを放置して、僕は新しい機体の受領について考える。別に、現実逃避しているわけじゃないからね。うん、そう、これは小隊長の義務として真面目に考え事をしているだけなんだ。そうだ、うん。

 自分にそう言い聞かせながら、僕はまだまだ終わりそうにない暑苦しい掛け合いから目をそらし続けた。





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