凡将たる凡将
まじめ君な魏続視点。
とんだ災難としか言いようがありません。
私には荷が重すぎる。曹性殿は勝手極まりない。何が「荷が重い」だ。私の「荷が重い」の意味合いとは大きく乖離している。
私は曹性殿による立身出世の放棄をこう睨んでいる。「公孫瑛殿が目当てなのではないか」と。公孫瑛殿もどうもそっちの気がありそうだから二人でよろしくやってくれ、と正直思う。
私のような見てくれが「普通」な人間にとっては彼の爽やかな外見はいかにも眩しすぎる。ただ彼には男色疑惑がありそれはほぼ間違いの無いことだ。あれだけ見てくれが素晴らしいのだからさぞかし女人に持て囃されることだろうに、人は見かけによらないものだ。飽き足らないのだろうか?
それにしても、だ。
どこをとっても「普通」な私が何故、あの容姿端麗な曹性や才覚に溢れた張遼等よりも序列が上なのか私にもよく解らない。
強いていうならば、自分で言うのもなんだが恐らく「人柄」だろう。例えば、かの張遼という男。あのひねくれた性格ゆえに少々扱いに困るのだ。あの軍事的才能、胆力があれば曹操軍でもきっと出世できるだろうに、出奔しようとは毛ほども思っていないようだ。それは類い稀なる胆力故か?それとも別の動機か?
少なくとも「忠義」ではないだろう。彼を副将に置き、幾度となく戦場を駆けた私が言うのであるから間違いない。掴みどころのない性格なのだ。
戦況は不安定極まりない状態にある。豪族の臧覇が度々兵を出し、同盟相手の袁術、劉表・張繍連合軍が牽制を続けているからなんとか曹操軍の全面攻撃を受けずに済んでいる、といった有様である。我が軍はこれらのいかにも頼りない「味方」の存在があって初めて存在できているのだ。士気は低下し切っており、この城も持ってあと1月が限度だろう。
「曹操に敵が多くて助かった」
公孫瑛殿は毎日のようにそう言い、笑っていた。気丈なお人だ。あの方の麾下の何人かも飢えで亡くなったというのに。私なんか麾下が亡くなる度に、むせび泣いている。心が弱いのかもしれない。
私はあの方と仲が良かった。恐らく旧高順隊のお鉢が回ってきたのも、公孫瑛殿を通じた呂布様の信頼があってのことだろう。存外、私は期待されているのかもしれない。堅実性ならば誰にも負けない自信はある。凡将には凡将の戦があるのだ。
「魏続殿、少しよろしいか?」
「こんな夜更けにどうなされたのです、宋憲殿?」
宋憲殿は神妙な面持ちで私を見つめてきた。私もじっと見つめ返す。汗を……かいている?私の部屋にいらっしゃる前に鍛錬でもなさってきたのだろうか?無駄に体力を使うのはあまり感心しない。
「それがしは魏続殿を信頼しておる」
「はぁ……それは有難い話ですが?御用件は?」
「それがしはもう我慢ならない。候成殿をお助け申す!」
「何を仰っていらっしゃるのかさっぱりなのですが……順を追って説明して頂けますか?」
宋憲殿は気性が荒い。机上を石製の刀で刺突した。大きな窪みができた……後で弁償してくれますよね?
「宋憲殿、そんな性格しているからいつまで立っても私なんかよりも序列が下なのですよ」と言いたいが、グっと抑える。ちなみに年齢も宋憲殿の方が上なのだ。
「そんなことを言ってる場合か!禁酒令だ、禁酒令。呂布様にはもう我慢ならん!」
「……落ち着きましょうよ」
茶を立て、手渡す。
……手で払われた!?茶が飛び散り、当然割れる。……弁償してくれますよね?
というか熱いっ熱いから!
いい加減私も怒りますよ?
「彼は禁酒令を破った。だが候成殿は悪くないのだ。だから助ける!」
鼻息が荒い。
「やはり意味不明なんですが」
これだから脳k……おっと失礼。
つい本音が。