疑われた将軍
公孫瑛視点
言うまでもないことだが、完全に遅れてしまっていた。
高順は軍議より外されていたことをすっかり失念していたのだ。「ここに高順殿がいるわけだし、二人で遅刻ならまぁ目立たないだろう」といったような甘い目測はそもそも成立し得ないのである。気まずい……。
見渡すと主だった面々――呂布を筆頭に、陳宮、曹性、魏続、張遼、候成、宋憲――といった諸将が並んでいた。入室すると一斉に見つめられ、少し萎縮してしまう。ちなみに列挙の順番は序列と同じである。曹性は最近出世したこともあり、今の序列はボクと同列となっている。
「遅かったですね、どうなされたのですか?」
無言で圧力を加えてくる呂布や張遼とは対照的に、曹性は心配げな面持ちで尋ねる。アレ疑惑があるとはいえ、元副将と大将として親交を結んでいた関係上無下にはできない。君との関係についてはおいおい脳内で再考することにするよ。再考後、再構築。
「……ううんちょっと、ね?」
我ながらぎこちない笑顔だと思う。訝しげな顔をする曹性に対して、少し申し訳ないと思った。
「遅刻とはあまり感心しませんね、公孫瑛殿」
公台さんが……怖い。眼を瞑ったまま感情を押し殺して話している。まさに無機質。ごめんなさい、許して下さい。
「まぁ良いでしょう。それでは公孫瑛殿もいらっしゃったことですし本題に入りましょう」
いつものように公台さんが軍議を取り仕切っていた。静寂の中で、宋憲が指でコツコツと卓上を突いていた。イライラしてる!?
「……ちっ」
今舌打ちしたよね!?誰!?……張遼の方から聞こえてきたような気もするがきっと気のせいだろう。
「ゴホンッ本題に入ります。曹性殿当人の希望により、今日をもって曹性隊は魏続隊に配置替えとします」
「えっ?……ええええええええええええええ!!」
「何を驚かれているんですか、部隊長……じゃなかった、公孫瑛殿。私にはいかにも高順殿の兵は荷が重い。私は公孫瑛殿の副将として学ぶべきことがまだまだ山ほどあります。私よりも……ここは我が軍の未来を担うであろう、将来有望な魏続君に旧高順隊の指揮を任せてみてはどうかと思い推挙させていただきました」
「この件については既に呂布様のご了承も得ております」
「この魏続、慎んで拝命致します」
予め、話があったのか魏続は汗を拭いつつ、緊張しつつも驚きの色は見せなかった。
その後の話は、当面の兵糧確保についてのものだった。時折、兵站を襲い物資を強奪してはいるが、兵站線の変更が多くなかなか掴みにくくなってしまっているという。
「小競り合いはもうしばらく続く……みな耐えてくれ」
呂布が最後にようやく口を開き、軍議は閉幕となった。
一斉に退出する。
「ちょっと!」
呂布の肩を叩き、呼び止める。歩調は緩く、どこか呼び止めることが解っていた……そのようにも思えた。
アレの真偽も気になるがまずは高順殿が先だ。
「……なんだ?」
「ちょっと……話があるんだよっ」
「……あいにくだが」
「……?」
「肩に手を回すな、俺にそっちの趣味はない……」
「ちっがーーう!!」
こうしてボクにもアレ疑惑が掛かってしまった……ような気がする。
翌日、魏続に声を掛けたときに、
「おはよう!」
「……え?あ、はい」
と、何故か目を逸らされた。死にたい。