橋渡し上手の婿候補
引き続き呂布視点です。
「私も死ぬ」
玄圭は胸を張って言った。
「おい……何の冗談だ?からかってるのか?」
俺は苛立ちを隠せずにいた。
「公台さんの言葉だよ。すごく悔やんでた。見ててかわいそうになるくらい」
「……?悔やんでいるのはむしろ俺の方だ。悪かったと思っている。陳宮の献策に従っていればこのようなことにはならなかったはずだ……」
「そうだね、そう思うよ。奉先は悪い。でも、その想いは公台さんにきちんと届いてるのかな?」
どうだろうか。陳宮は俺のことを恨んでいるかもしれない。呆れているかもしれない。このような憂き目に遭うのは全て俺のせいだ。
「……わからん」
「同じなんだよ」
「何?」
「同じなの、公台さんもそう。公台さんの想いも奉先に届いてない。だから伝えにきた」
「私も死ぬ、か?」
「そうだよ。事ここに至ったのは説得力や先見の欠如、敵将の程昱に出し抜かれた失策、そして奉先。君への誤った助言のせいだと自分を責めてる、ずっと」
俺は――何か勘違いをしていたのだろうか。
そうして俺はあの日を思い出したのだった。
長安に銅鑼が鳴り響いていた。李傕の軍がすぐそこまで来ているとのことだ。脱出するならば、開門と同時に逃げるしかない。
「幼い帝は私だけが頼りでのぉ。国家の安定が果たせぬとなったならば……ここで潔く帝のため命を捨てるまでじゃあ」
「俺も死ぬ」
「戯けを申すな……」
「王允殿。ご心配召されるな。将軍には一緒に来ていただきます」
気づかぬ間に背後に立っていた二人の男が呂布を突然、取り押さえた。羽交い締めの格好である。
「高順、張遼……何故ここに?」
「将軍をお迎えに上がりました。では、王允殿。いつか、また」
高順は深々と頭を下げた。張遼は無言だった。
「うむ。よろしく頼むぞぉ……我が息子……奉先を」
「ぐぬううっ離せえええええええええええええええええ」
羽交い締めにされたまま連れ去られていく。
「奉先……暫しの別れじゃ」
王允は微笑み、老い、乾ききったその手をいつまでも振っていた。
頬を伝う一筋の滴が王允の足元に落ち、床の染みとなった。
「降伏の拒否、という決断をしたのは他でもない。この俺だ。陳宮は何故悔やんでいるのだ……」
「名君として雄々しく死ぬ機会を奪ってしまった、と」
「もう遅い。曹操は許さぬな。捕縛の後、処刑。一族郎党皆殺しだろう」
「だが公台さんは遅いなんて思ってない。『もう呂布殿の首だけですまぬと言うのなら、私も死ぬ。さすれば道は開けるやも知れぬ』って言ってる。もうすぐ来ると思うよ?ふふっ……思いつめた顔してね、がっははは」
「降伏などもはやありえない」
「そう言うと思ったよ……ほら噂をすればなんとやら、だよ?」
一室の入口付近で行ったり来たりしている人影が見えた。陳宮だ。
「全く、頭の固い奴だ。どれ、迎えに行ってやるか」