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白馬将軍之に在り!  作者: 吉川ハルカ
呂布軍激動編
15/15

不覚の灰柳

陳宮さん視点。

「何故お認めにならないのでございましょうやっ!」


 候成殿は頓首の姿勢を崩しませんでした。私は傍らで眺めておりますが、さぞかし心配気な顔をしていることでしょう。きっと。


 彼が思うように生きられるほどに、この世界は優しくない。


 彼は木杓きしゃくを持って振り払う呂布殿に負けじと、必死に食い下がりました。それはもう。


 ――見ていられないほどに。彼の実直さがそうさせるのか?それともただの意地か?


「……黙れ」


「いいや黙りません、士気を上げるためにはこれが最善だ、そう思うからですっ!」


 ――確かに。一理あります。しかし、直球過ぎるのです。


 それほどまでに酒とは士気向上に有用です。それは疑いがないのです。短期的には。


 呂布殿は「愚か者」。そう仰って、候成殿のご提言を斬って捨てました。



「減らぬ口だ。鬱陶しい、もう一度だけ言おう……」


 一呼吸置き、そしてゆっくりと息を吐いて。


「黙れ、候成」


 心底うんざりする。


 その眼が、瞳孔が。


 物語っておりました。口よりも雄弁に。


「いいやそれでもっ!だまっ……ぐあぁああああああああああああっ」


 鈍い音がした。背を打たれたのでしょうか?


 あまりに動作が早く、よく見えませんでした。


「黙れと言っているっ!何故解らんのだっ!愚か者がっ!」


 何度も何度も。絶え間無く。


「何故何故何故……貴様は解らんのだ?何度同じ事を言わせる気だっ!」


 打ち据えられ、苦しみに顔を歪める候成殿。私は――。


「もうおやめください。候成殿には私からしっかり言っておきますので。もう……」


 呂布殿は動きを止め、やっと聞こえるくらいの声量で。


「陳宮」


「はっ」


「……いつからお前は俺に意見できるご身分になった?」


「はっ……いや滅相もございません」


 私は急いで、拱手きょうしゅの格好を取りました。


 ――私は何を勘違いしていたのでしょうか?


 私はいつから傲慢ごうまんになったのでしょう?


「そうか……解れば良いのだ」


 ふと我に返ったようでした。「人に還った」と言った方が適切かも知れません。それほどまでに獣然としておりました。


「この話は仕舞いだ。下がれ、陳宮。それに……候成、貴様もだ」


「はっ」


 候成殿は深く両眼を瞑っているようでした。


 無力感。何ができるのか、臣下としてできることはいかにも少ないような気が致します。


「……はっ。申し訳ございません」


「もう良い。下がれ」




 呂布殿が立ち去ったしばらく後のこと。


「小生はどうすれば良いのだ……?やはり……」


 思案顔の候成殿。


 見慣れているはずだというのに、私はこの時一抹の不安を抱いたのです。



「陳宮殿。先程は助かり申した。感謝する」


 頭を垂れる候成殿。私と似ているからこそ。放っておけないのかもしれません。


「……候成殿」


「如何致した?」


「無理はしないで下さい。ヒヤヒヤします」


「……そうですなぁ」


 この日。 


 曇空は灰の色を濃くし、城を包み込んでいるようでした。


 城下の柳は不思議な程に真っ直ぐ。腕を伸ばし。伸ばし。


 曲がってしまった腕を限界まで広げ、不相応にも。


 届かない空を求めておりました。


 貪欲に。







 





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