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白馬将軍之に在り!  作者: 吉川ハルカ
呂布軍回想編
13/15

偽徳の梟雄

ここ数話は過去編ですが、いよいよ三国志演義の主人公が名前だけ登場します(本作では敵扱いなので判官贔屓の方には申し訳ないです)ちなみに梟雄きょうゆうとは「残忍な首領」を意味します。

 鼻息荒く、歯をギリギリと鳴らす男がやかましくも捲し立てる。不満なのだろう、あの客将に対して。気持ちは解らぬでもない。


 唾がたまに飛ぶのが頗る不愉快だ。


 申し遅れた。小生、名を侯成こうせいという。以後お見知りおきを。


 宋憲そうけん氏とはもう長い付き合いになる。関係はたまに鬱陶しくなるほどに良好だ。


「何なのだ、あいつはっ!!」


「……落ち着きたまえよ、宋憲氏。つまらんことで捲し立てるな、大人げない」


「なにっ?いかに貴殿といえども聞捨てならんっ!これが落ち着いていられるかっ!何が……何が『ボクに行かせてください』だ、ふざけるな!!」


「確かに、それはいかにも愚かしいことではあるな。てっきり御大将りょふさまの下知はそなたと高順氏に下ると思っていた」


 不思議なのだ。


 最近の御大将のご機嫌が上上であることを差し引いても、まだ余り在るほどに。


 少し前に意向を伺った時には宋憲の名が出ていたのだ。従って、公孫瑛殿の願いを汲んだことになる。公孫讃こうそんさんの劉備への恨みは凄まじいものがあるであろうから、一応納得はするが――あの御大将が他人の気持ちを汲むなどとは普通有り得ない。


 試しているのか?


「あの忌まわしき恩知らずめに天誅を、と思っていた矢先に下知が下りぬとは……どうしても納得いかん。どうにかならんのか……ぐぬぅ」


 劉備玄徳りゅうびげんとく。鼠顔で大耳を下げた――なんとも奇天烈な格好をした男だった。相見えたのは一度切りだったが。


 曹操に破れ、行き場を無くしていた所を救ってくれた恩には感謝するが、その後がとにかく酷かった。酷すぎた。


 劉備は当時苦しんでいた。まさに内憂外患だった。


 領地は賊徒が跋扈ばっこし、治安は悪く、また絶えず敵対する袁術えんじゅつの脅威に晒されていた。袁紹えんしょう派の劉備は反袁術も同然だったからだ。


 結果として、御大将を大いに頼んだ。


 御大将は劉備の兵を借り、見事ものの1月程で賊徒の殆どを殲滅することに成功した。流石だ。


 ――だがこれが良くなかった。御大将の名声は留まるところを知らず、民衆の支持を得、ついには太守の劉備を凌駕するまでになった。


 つまり、劉備は御大将が邪魔になったのだ。次第に疎ましく感じるようになったのだと思う。


 ある頃から「呂」の旗を掲げる軍勢が自領で略奪を働くようになった。


 ――無論、我らに身に覚えはない。恐らく、劉備玄徳りゅうびげんとくによる偽装工作だろう。


 御大将をおとしめる為の。


 今でも「徳の玄徳様」などとちまたでは呼ばれているらしい。さしずめ、偽徳の梟雄きょうゆうと言う方が適当であろうよ?



「……ならないだろうな、一体どうして公孫瑛氏をいたく気に入っておられる」


 何でも騎乗の様が非常に美しいらしい。


 その様は――まるで天女が昇るようだとまで言われている。


 まこと、信じ難きことではあるが。羌族式の馬術を用いることからも、どこか自分に似た部分を感ずることがあったのかもしれない。推測の域を出ないが。


「ぐぬぅ……」


「良いではないか、お手並み拝見といこう」


「……止むを得まい」


「よし、今日は泊まっていきたまえ。遠慮することはない」


「……ここは軍営なのだが」


「……だから?」


「それがしの部屋は隣だから必要なかろう」


「一緒に寝ようではないか、語り合おう」


「……それは遠慮しておく」


「遠慮するなっ」


「……」


「どうした?」


「少し所用を思い出した。ではまた」


 ようやくだ。


 こうでもしないと居座り続けるのだ。あの脳k……いや、それは言うまでもなかろう。

 



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