第一部
歌が聞こえた。
儚く、そして切ない。そんな歌。
空は一面青空が広がり、太陽が燦々と輝いていた。
少女はその空の青さを、同じ色の瞳に映し出し、歌を口ずさんでいる。
金髪の長い髪が風に揺れていた。
「雫、やっと見つけた」
後方からの声。雫と呼ばれた少女は振り返る。其処には黒の髪と茶の瞳を持つ少年がいた。彼の名前は黒澤 大樹。そして彼女は保科 雫。
二人は幼馴染、そして親友と、互いが親しい存在であった。
メロディーが止む。
「どうしたの?何かあった?」
「ん〜アークが来たって言ってた。だから呼び出し」
「へぇ」
雫は髪を一つに纏め上げ建物の内部に入っていく。大樹も雫の後を追う。
空は灰色の雲で覆われ始めていた。
此処は荒地に唯一建つ建物。言ってみれば軍用基地。
そして大樹が指すアーク。これは敵を指している。アークメリオン。敵国の名だ。
二人、いや、此処の建物に居る者達は一部を除き兵隊だ。
数々の特殊訓練を受け、人殺しの道具となった者達。なんて哀れな存在なのだろう。
此処の軍用基地にいる者はたいていが要らなくなった者。敵国との境界線から一番近く、一番生存率が低い場所に値する為、必然的に置かれるのはそういう者達になってしまった。
雫と大樹は下へ、下へと降りて行き地下3階へと降り立つ。ちなみに、この建物は地上5階、地下5階の軍用基地にしてみればそこそこの大きさだ。
雫は沢山の扉の中から一つへ歩み寄り扉を開ける。鈍い金属の擦れる音と共に扉は開いた。
部屋の中には棚の上に黒塗りのケースが置いてある。
それも一つや二つではなく大量に。
雫は迷うことなく一つのケースに辿り着く。中身を確認するため鍵を弄っていた。
小さな金属音と共にケースが開く。
其処には多種多様のナイフが置かれている。雫はソレを太ももに括りつけケースをしまった。
「ナイフって難しくない?ほら、殺傷能力とか」
大樹もケースの中身を出しながら訊ねる。ケースの中には大量の拳銃が。大樹は小型の拳銃二丁を腰に装備し、さらにライフルを背中へ装備する。そして腰のポーチにはマガジン(弾倉)を詰め込む。
「そうでもないよ。急所に当たればそれなりの威力は出すし。近距離と遠距離、どちらとも使えるからね。楽だよ」
平然と、命を奪うことに対して抵抗がないような言い草。いや、抵抗なんてものは存在してはいなかった。
自身の命。他者の命。
第三者の目で見ればどちらも大切だ、と答えるだろう。
だが、実際、自分の命が危険に晒された場合、とっさに守ろうとするのはどちらだろう。
答えは、自分の命だ。
人間は、どれだけの頭脳を持ってしても本能には逆らえない。
きっと、どんな人でも。
雫と大樹も同じだった。生存率が極めて低い戦場で、他者、敵の命など考えることなんてやめてしまった。
心の崩壊。
修復は難しい。