Epilogue
あれから月日も流れ、僕は今も、あのときのことを思い出す。君は、今どうしているのだろうか? まあ、老けてしまった僕の顔を見たら、君は笑いころげるに違いないと思うがね。君のことを聞いたときは、正直おどろいた。でも、とても複雑な気持ちになったのも確かだ。もう、会うこともかなわないのだろうと思う。
こちらは、みなあのときの出来事から立ち直りつつある。未だ暫定政府からの技術提供の話が絶えないが、そんなものを飲む気にはならない。アノ技術のおかげで、足の不自由だった娘さんが歩けるようにもなった。
あの凶悪な戦闘力を持ったヨロイの技術がこんな形で役に立っていることを君は知っているかい?
いや、元からそのつもりだったのかも知れないな。まあ、真意はわからないが、すくなくとも僕らは有効活用している。
けっきょく、あの戦いのおかげで、人類は手を取り合って生きていくことも多少なりともするようになった。良いことだとも思う。だが、君たちに対し懸念を持つものも、まだ多いだろう。
いつか、僕がくたばらないうちに再会できればよいと思っている。それでは、元気で。
陽二より、薫へ。
教授はそう言うと、メッセージをメールにして、いずこかへのネットワークへととばした。薫は、あのメッセージを拾えるだろうか。
そんなことを思いながら、今や珍しいデスクトップのコンピューターのシステムを閉じた。そして、机の脇に立てかけた二つの写真立てを見た。
ひとつにはまだ年若い自分と、クセのある黒髪の女性が、屈託のない笑みを見せて二本の指をつきだしている。
その写真にやさしくほほえんだ教授が、もう一枚の方に視線を傾けると、部屋の入り口の方から、家中に響くほど大きな足音が近づいてきた。
「きょーじゅー!!」
勢い込んで開け放たれた扉は、壁にぶつかって大きな音を立てた。
「おいおい、家が壊れるぞ?」
渋い表情でたしなめる教授を無視して、部屋に飛び込んできた少女はお日様のような笑顔で口をひらいた。
「生まれた! 生まれたよ!!」
その言葉に教授の顔も驚きとうれしさに彩られた。
「ほんとか! で、どっちだ?」
乗り出すようにして尋ねる教授に対し、少女は、アレ? と言う表情になる。
「お、男の子……です……」
声は少女の後ろから聞こえた。後ろからやってきた、おとなしそうな顔の少女は、息を切らせながら両手を膝に当ててうつむいた。そのスカートの端からは、サポータシステムにつつまれた足が見て取れる。
「もう、ちゃんと確認しないで走って行っちゃうんだから……」
ゴメンゴメン。と先に飛び込んできた少女が舌を出す。
「せっかくだから、見に行くとするか」
教授はそう言ってイスから立ち上がると、イスにかけてあった白衣に袖を通した。
それを合図に二人の少女は連れだって部屋から出ていった。
教授は部屋を出る間際に、振り返って、写真立てを見る。
そこには、自分と先ほどの少女達と共に、精悍な面立ちの青年と長い黒髪の少女が写っていた。
教授は、その写真にかるく笑いかけると、そっとドアを閉じた。
『VウォーリアーAKI』これにて、全編の終了となります。
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