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弱き剣聖と銀星の守護者  作者: 忘れな草
第1章 邂逅編
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第8話 達成報告と、次の一歩

 

#### ギルド報告窓口


 扉を押し開けると、いつもの喧騒が流れ込んできた。


 酒の匂い、金属音、笑い声。


 変わらない日常。


 だが――


 自分たちだけが、少しだけ違っている気がした。


「依頼達成の報告だ」


 カゲトは受付に証票を差し出す。


「確認します」


 女性職員は手際よく書類を捌き、奥へ引っ込んだ。


「終わったね」


 ステラが小さく息を吐く。


「……ああ」


 短い返事。


 だが、その一言に重みがあった。


 あの戦いは、運が良かっただけだ。


 一つでも判断を誤れば、ここにはいない。


 やがて職員が戻ってくる。


「討伐および素材回収、問題ありません」


「報酬はこちらになります」


 革袋が机に置かれる。


 ずしりとした重み。


 そして、職員は書類を一枚めくった。


「それと――」


 事務的な声が続く。


「今回の実績により、等級の更新が行われます」


 カゲトはわずかに視線を上げた。


「見習いから初級への昇格です」


 祝いの響きはない。


 ただの手続き。


 金属製の札が二つ、机に置かれる。


「こちらが新しい等級証になります。旧証は回収します」


 カゲトは無言で差し出し、新しい札を受け取った。


 重さは、ほとんど変わらない。


 だが――


(少しだけ、違うな)


 指先に伝わる感触が、わずかに硬い気がした。


「初級かぁ」


 ステラが覗き込む。


「これでやっと“駆け出し卒業”って感じ?」


「そんなもんだろ」


「受注可能な依頼の範囲も広がります」


 職員が淡々と補足する。


「無理のない範囲で受注を」


「分かりました」


 ステラが軽く頭を下げた。


 それで終わりだった。


 拍手も歓声もない。


 ただ一つ、できることが増えただけ。


(ここから先は――)


 カゲトは札を握る。


(言い訳ができない)


 見習いではない。


 未熟でも、“冒険者”として数えられる立場。


「……行くか」


「うん」


####  訓練所での回顧


乾いた音が、一定の間隔で響く。


 カゲトは剣を振っていた。


 一歩。


 踏み込む。


 振る。


 速くはない。


 重くもない。


 だが、無駄がない。


「まだやるの?」


 ステラが苦笑する。


「さっき終わったばっかりなのに」


「終わってない」


 短く答える。


「戦いは終わっただけだ」


 もう一度、剣を振る。


(もっと削れる)


 呼吸。


 重心。


 間合い。


 すべてを整え、余計なものを落とす。


「……その剣」


 ステラがじっと見ていた。


「前より、静かになったね」


「変わってない」


「ううん、変わったよ」


 ステラは少しだけ考えるように目を細める。


「最初に教えてもらった時は、全然分からなかったけど」


 カゲトの動きが、ほんのわずかに止まる。


「すぐ気づいた」


「この剣、“無駄がない”って」


 カゲトは何も言わない。


「強い人の剣って、もっと力で押すものだと思ってた」


「でも違った」


「必要なことしかやってない」


 ステラは自分の剣を軽く振る。


 同じ軌道。


 同じ踏み込み。


 だが――速い。


「だから、真似した」


 その動きは、カゲトの剣をなぞりながら、


 どこか“先”にある。


(……やっぱりな)


 カゲトは目を細める。


(あれが、俺の剣の行き着く先か)


「でもね」


 ステラが言う。


「まだ届いてない気がする」


「……そうか」


 短く返す。


(いや、届いてる)


(むしろ――完成してるのは、あっちだ)


 口には出さない。


「次、どうする?」


 ステラが自然に話題を戻す。


「……外に出る」


「外?」


「この街じゃ、足りない」


 未知が。


 危険が。


「ミザール?」


「ああ」


「初級になったばっかりなのに?」


「だからだ」


 迷いはなかった。


「下に留まるか、上に行くかは自分で決める」


 ステラは一瞬だけ黙る。


 そして、ふっと笑った。


「いいよ」


「行こう」


「後悔しない?」


「しない」


 視線が合う。


「あなたとなら、大丈夫だから」


 カゲトは少しだけ目を逸らす。


「……そうか」


#### ギルド前通り


 夕暮れが街を染めていた。


 人の流れに紛れながら、ふと違和感が走る。


(……今)


 一瞬。


 誰かと視線が合った気がした。


 屋根の上。


 建物の影。


 だが、すぐに消える。


「どうしたの?」


「……いや」


 気のせいかもしれない。


 だが――


(軽いな……あの気配)


 戦士でも、魔法使いでもない。


 もっと、別の何か。


「明日、出るぞ」


「うん」


 二人は歩き出す。


 その背後。


 屋根の上で、小さな影がしゃがみ込んでいた。


「へぇ……」


 少年は笑う。


「初級に上がったばっかり、か」


 手の中で、小さな硬貨を弄ぶ。


「でも――悪くない」


 視線は、獲物ではなく。


 “価値”を測るそれだった。


「もう少し、見てみるか」


 影は音もなく消える。


 そして物語は、次の街へと動き出す。

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