第6話 蒼き火花
#### 昼下がりの鍛冶場
冒険者登録から三日目。
カゲトはギルド斡旋の修行場で額の汗を拭っていた。
「基礎体力トレーニングは終わり。次は実践形式だ」
指導教官のクラウスが木剣を掲げる。対峙するのは――革鎧姿のステラだった。
「えっ!? なんでステラが!?」
「私も早く慣れておきたいんです。剣も魔法も使える方が便利ですし」
笑顔で応える彼女の背は前日より更に伸びている気がする。
**ざくり。**
木製とはいえ重量のある一振りが、空気を裂いた。
カゲトは咄嗟に受けるが――
「わっ!!」
腕が痺れるほどの衝撃! 剣筋は緩慢どころか鋭利そのもの。鞭のようにしなりながらも芯は鋼のごとき硬さ。
彼女の体重移動が淀みなく流れているのが分かる。
(やっぱり魔法使いなのに体幹が強い……!)
「すみません! 痛くなかったですか!?」
「だ……大丈夫!」
「なら良かった!」
ぱあっと笑うステラ。だが木剣を握る掌は汗ばんでいる。緊張しているのは確かだ。
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#### 魔道具店の奇縁
午後の休憩時間。カゲトは商店街の端にある魔具工房へ寄った。
「いらっしゃい坊や。何をお探しで?」
店主の老婆がレンズ片手に出迎える。
「……初心者向けの軽量剣が欲しくて。でも資金が少なくて」
「なるほど。それなら」
奥から金属箱を持参する店主。蓋を開けるとそこには――透き通る青い刀身が煌めく一本の短剣があった。
「妖精霧鉄の逸品さ。軽いが切れる。名付けて《蒼穹》。試してみな」
鞘から抜く。氷河を切り出したような涼気さえ漂う刃。握ると羽のように軽いのに、腰の据わった剛性感がある。
「すごい……こんな武器見たことない」
「買うかい? 通常は金貨十枚だけど……若いうちの苦労は買ってやらねぇとな。半額でいい」
「半額!? ありがとうございます!」
銀貨五枚を叩き出し購入。手に入れた新品はまだ熱を持っていた。
#### 初任務
翌日。
二人は初めての依頼に向かっていた。
内容は単純。
洞窟周辺の警護。
「簡単そうですね」
「油断はするなよ」
軽口を交わしながら進む。
だが洞窟に入った瞬間、空気が変わった。
「来る……!」
地面が震える。
次の瞬間――
虫型モンスターの群れが現れた。
#### 乱戦
「ウォータリングランス!」
ステラの魔法が炸裂する。
水の槍が群れを貫き、数体が吹き飛ぶ。
「次、右!」
「了解!」
カゲトが前に出る。
だが――
上から新たな群れ。
「上だ!」
「任せて!」
氷の魔法が展開される。
だが連続使用で、明らかに負担が大きい。
「無理するな!」
「大丈夫……!」
その瞬間。
――崩落。
岩が崩れ、ステラの脚を直撃した。
「っ……!」
膝が崩れる。
「ステラ!」
カゲトが駆け寄る。
だが敵は止まらない。
「前だけ見て!」
ステラが叫ぶ。
「ここは……任せます!」
#### 決断
目の前に迫る敵。
後ろには動けない仲間。
(どうする)
一瞬の迷い。
(逃げるか?)
――違う。
カゲトは息を吸う。
(守る)
その一点だけを選んだ。
#### 蒼き一閃
短剣を構える。
動きは遅い。
力も足りない。
だが――
(無駄を削る)
一歩。
最短距離。
振る。
正確に当たる。
一体、倒れる。
二体目。
三体目。
焦りは消えていた。
ただ、目の前の敵を一つずつ処理する。
「……すごい」
後ろで、ステラが呟いた。
#### 勝利
最後の一体。
投げた短剣が正確に突き刺さる。
静寂。
「終わった……」
カゲトはその場に座り込んだ。
遅れて震えが来る。
「カゲトさん!」
ステラが手を伸ばす。
無事だったことに、心から安堵した。
「大丈夫か?」
「はい……なんとか」
少し痛そうに笑う。
その顔を見て、カゲトは力が抜けた。
#### 診療所
治療が終わり、静かな部屋。
消毒の匂いが漂う。
「すみません……私の判断ミスです」
「違う」
カゲトは首を振る。
「俺も遅れた」
しばらく沈黙。
やがてステラが小さく笑った。
「でも、助かりました」
「……ああ」
「飛び込んできてくれたとき、安心しました」
その言葉に、胸が締まる。
(守れたのか……?)
完全じゃない。
それでも――
「次は、もっと上手くやる」
「はい」
まっすぐな返事だった。
#### 夜の訓練
その夜。
カゲトは一人、外に出ていた。
短剣を握る。
振る。
何度も。
「……足りない」
そこへ足音。
「やっぱりここにいました」
ステラだった。
「寝てろって」
「それはそっちです」
軽く笑う。
そして後ろに回り、姿勢を直す。
「力じゃなくて、重心です」
言われた通りに動く。
――変わる。
剣が軽くなる。
「……なるほど」
「いい感じです」
ステラが嬉しそうに言う。
その様子を見て、カゲトも少し笑った。
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#### 共闘の兆し
翌朝。
市場を歩きながら、二人は話していた。
「役割分担、考えましょう」
「前は俺」
「後ろは私。でも必要なら前にも出ます」
「無茶はするなよ」
「カゲトさんもです」
軽く言い合いながら笑う。
少しずつ形ができていく。
二人の影が並ぶ。
まだ未熟な冒険者。
それでも確実に前へ進んでいた。
「次はもっと上手くやれる」
「はい。一緒に」
その言葉は自然だった。




