第5話 王都の扉
#### 新天地の朝
王都の城壁を前に、朝靄が白く漂っていた。
昨晩の雨が石畳に残り、淡く光を反射している。
カゲトは冷たい空気を胸いっぱいに吸い込み、小さく息を吐いた。
「寒いな……」
「ふぁあ……でも、よく寝られました」
隣を歩くステラが軽く伸びをする。
その表情は疲れを残しつつも、どこか晴れやかだった。
「昨日は色々あったからな」
「はい。でも……ちゃんとここまで来られました」
その言葉に、カゲトは小さく頷く。
たった一日。それでも確かに、何かが変わり始めている気がした。
#### 王都の門
巨大な城門の前には、すでに長い列ができていた。
商人、旅人、傭兵――様々な人間が行き交う。
「思ったより人多いな……」
「王都ですからね。少し緊張します」
検問の順番が回ってくる。
門番が二人を見下ろし、書類を差し出した。
「目的は?」
「冒険者登録です」
「身分証は?」
「まだありません。仮登録を希望します」
門番は一瞬だけ訝しげに眉を動かしたが、すぐに手続きを進めた。
「仮登録なら通行は可能だ。ただし問題を起こすなよ」
「はい」
重厚な門がゆっくりと開く。
その先に広がっていたのは――
圧倒的な人の流れと、巨大な都市の気配だった。
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#### 洗礼のテスト
白い石造りの建物。
王国直属――白獅子冒険者ギルド。
扉の前で、カゲトは一度足を止めた。
「……行くぞ」
「はい!」
扉を押し開けると、ざわめきと熱気が一気に押し寄せた。
酒の匂い、革の軋み、金属音。
ここが“戦う者の集まる場所”だと、肌で理解できる。
受付へ向かうと、女性職員が顔を上げた。
「新規登録ですね。費用は一人銀貨一枚です」
「銀貨……」
カゲトの動きが止まる。
(足りない……)
逡巡したその瞬間、隣から静かな声がした。
「私の分で二人分、先に払います」
「えっ……」
ステラは迷いなく銀貨を差し出す。
「後でちゃんと返してくれれば大丈夫です」
その笑顔に、カゲトは言葉を失った。
「……ありがとう」
「仲間ですから」
軽く言われたその一言が、妙に胸に残った。
#### 思わぬ才能
「ステラちゃんの属性適性……面白いわ」
副ギルドマスターの老女・メルセデスが水晶板を凝視する。
「本来なら“土系”一色のはずなのに、“闘気”成分も観測されてる。つまり……」
「剣術も使えそう?」
「正解!」
教官が目を輝かせた。「じゃ試しにあれでやってみませんか」
模擬戦台の中央に置かれたのは細身の木剣。ステラは躊躇なく柄を握る。
(あの体型じゃ振り上げるのも辛いだろうに……)
そう思った矢先――
**シュパァーンッ!!**
風斬音と共に剣閃が宙を走った。カゲトの目線より高い高さで振り下ろされた刃の跡が、台座に深い斬痕を刻む。
「嘘だろ……軽く持ち上げただけで……!?」
「すご……私もビックリしましたぁ」
本人すら困惑の様子。教官席から拍手が湧く。
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#### 無防備な距離
合格通知を受け取ってギルドを出るころ、夕焼けが壁を朱に染めていた。
「良かったぁ……一緒にAランク目指せますね」
「Aランク……俺が? 冗談だろ」
「だって私、守られてばかりはイヤなんです」
真摯な瞳。カゲトは唇を噛む。
「……俺も守りたい」
「じゃあお互い守りましょ! それでおあいこ!」
ステラはくるりと回り、カゲトの腕に軽く凭れた。柔らかな体温が肘を包む。
(ちょ、ちょっと……!)
ふにゅん。
(あああああっ――!)
右肘に当たる丸み。制服越しでもわかる質量。思春期男子の理性は蒸発寸前。
「えへへ……こうしてると安心ですよね」
「う、うん……」
(冷静になれカゲト……これは友情の触れ合いだ……!)
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#### 夜の独白
その日の宿屋。
薄暗い共有部屋の窓辺で月を眺めるカゲトに、ステラが湯呑を持って現れた。
「お疲れさまでした」
「ありがと。今日は色々ありすぎて……頭パンクしそうだ」
「私もです。でも――楽しかった」
ステラはカップを両手で抱え込む。湯気が夜景と溶け合った。
「カゲトさん。もし私がもっと強くなったら……傍にいてくれますか?」
「当たり前だろ。俺こそ足を引っ張りっぱなしだけど」
「引っ張り合ってもいいんじゃないかな。一緒に迷ったり悩んだりするのが“仲間”だと思うんです」
「……そうか」
「うん!」
屈託ない笑顔。背後の星空が霞むほど眩しい。
カゲトは拳を握る。
(身長も腕力も彼女の方が上。でも――)
胸の奥に灯る小さな炎。それはきっとプライドや劣等感を超えた何か。
「じゃあ次は俺がお前を助ける番だ」
「期待してます♪」
ステラが首を傾げて目を閉じた。睫毛が長い。
(くそ……可愛すぎるだろ……!)
胸が高鳴るのを堪えつつ、カゲトは誓う。
どんな形であれ彼女を支えよう。
例え守るべき存在が逞しくなろうとも。
明日からの冒険が楽しみだった。
「ほう。ギルド未登録か?」
「はい」
「冒険者希望なら早めに手続きしな。町中で揉めても仲裁できねぇぞ」
注意勧告を受けつつ通された中庭。そこに建つのは――王国直属『白獅子冒険者ギルド』の支部だ。
大理石の階段、紋章入りの大扉。歴史と権威を纏った佇まいに思わず唾を飲む。
「い、行くぞ……!」
「はーい♪」




