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弱き剣聖と銀星の守護者  作者: 忘れな草
第1章 邂逅編
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第17話 近すぎる距離

夕刻。


西都の喧騒も、昼間ほどの勢いはなくなっていた。


薬学院の宿舎に割り当てられた一室。

四人はそれぞれの時間を過ごしている。


リオは窓辺に身を乗り出し、外の景色に目を輝かせていた。


「すごいなぁ……学院ってこんな感じなんだ」


「気に入った?」


背後から声をかけたのはステラだった。


「うん! だってさ、ここなら魔法もちゃんと学べるんでしょ?」


「ええ。でも簡単じゃないわよ。魔力の制御は基礎が大事だから」


「それでもいい! 僕、やってみたい!」


まっすぐな目だった。


その視線を受けて、ステラは柔らかく微笑む。


「いい心がけね。あなたなら向いてると思うわ」


「ほんと!?」


「ええ。観察力もあるし、集中力もある」


そう言って、ステラは軽くリオの肩に触れた。


「焦らず、ちゃんと積み重ねればいいの」


その距離は近い。


自然で、違和感のない距離。


――少なくとも、二人の間では。


その様子を、カゲトは部屋の隅から見ていた。


(……またか)


昼間からずっと続いている光景。


ステラの隣に、リオがいる。


楽しそうに話している。


距離が近い。


(別に……おかしくはない)


そう思う。


弟分だ。


ステラもそう言っていた。


それ以上でも、それ以下でもない。


――分かっている。


それでも。


胸の奥に、引っかかるものが残る。


「カゲト?」


ふいに名前を呼ばれる。


顔を上げると、ステラがこちらを見ていた。


「少し顔色が悪いわ。疲れてる?」


「……いや、大丈夫だ」


即答だった。


考えるより先に、言葉が出る。


ステラはじっとこちらを見つめる。


その視線は、優しい。


「無理しないで。今日は移動もあったし」


そう言って、今度はカゲトの隣に腰を下ろした。


距離が近い。


さっきまで、リオの隣にいたはずなのに。


(……なんだよ、それ)


自分でも驚くほど、感情がざわつく。


「さっきの話、聞いてた?」


ステラが問いかける。


「ああ……魔法の話だろ」


「そう。リオ、興味あるみたいで」


「……そうか」


短く返す。


それ以上、言葉が出てこない。


ステラは少しだけ首を傾げた。


「どうしたの? 元気ないわよ」


「別に……普通だ」


「そうは見えないけど」


「気のせいだ」


会話が、少しだけ噛み合わない。


沈黙が落ちる。


短いはずなのに、やけに長く感じた。


その間、カゲトの中では言葉にならない感情が渦巻いていた。


(……なんでだよ)


理解できない。


いや、理解したくない。


(あいつは弟分だろ)


(ステラもそう言ってた)


(それでいいはずだ)


なのに――


「……仲、いいな」


気づけば、口に出ていた。


ステラが目を瞬かせる。


「え?」


「……いや、なんでもない」


視線を逸らす。


今のは、言うべきじゃなかった。


分かっている。


でも止められなかった。


ステラは少し考え、それから微笑んだ。


「リオのこと?」


「ああ……まあ」


「可愛いじゃない。弟みたいで」


その言葉が、胸に刺さる。


「面倒も見てあげたくなるし」


「……そうか」


それで終わりのはずだった。


なのに。


(……じゃあ、俺はなんだよ)


その言葉だけが、頭に残る。


「カゲト?」


再び呼ばれる。


今度の声は、少しだけ不安そうだった。


「本当に大丈夫?」


「……ああ」


答える。


だがその声は、いつもより少しだけ硬かった。


そのやり取りを、少し離れた場所でリナが見ていた。


ベッドに寝転びながら、ぼんやりと。


しかしその目だけは、鋭く動いている。


(……なるほど)


カゲトの視線。


ステラの反応。


リオの無自覚な距離感。


全部、繋がった。


(ああ、そういうことね)


口元がわずかに歪む。


「ふふ……」


小さく笑う。


誰にも聞こえない声で。


(兄貴は姉貴が好きで)


(姉貴は無自覚で)


(ガキは勘違いしてる)


完璧な構図だった。


歪で、でも分かりやすい。


「……面白いじゃない」


リナはゆっくりと体を起こす。


そして、三人を順番に見た。


カゲト。


ステラ。


リオ。


(なら――ちょっと動かしてみようか)


その目に、狡猾な光が宿る。


「ねえ、カゲト」


何気ない声で呼びかける。


「明日の依頼、あんたとステラで前衛やりなさいよ」


「……は?」


唐突な提案だった。


「何言ってんだ。いつも通りでいいだろ」


「ダメよ」


即答。


「たまには連携変えた方がいいでしょ。あんたら、組むの久しぶりじゃない?」


一理ある。


そう思ってしまう程度には、自然な言い方だった。


ステラも軽く頷く。


「そうね。たまにはいいかも」


「……そうか」


否定する理由が、見つからない。


リナは小さく笑った。


誰にも気づかれないように。


(まずは、距離を戻すところから)


その一手が、すべてを動かすことになるとは――


まだ誰も知らない。

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