第16話 西都
朝露の門楼
西都の外壁は陽光を浴びて灰色に煌めいていた。高さ九メートルを超す石垣と螺旋状の雲梯が重厚感を演出し、往来の商人や騎士が列を成す姿は壮観である。
「わぁ……大きいねぇ」
リオが呆けたように眺める。
その横で、ステラも少しだけ目を細めた。
「ええ。でも中はもっと賑やかよ。きっと」
「ほんと!? じゃあ早く行こうよ!」
自然と、二人の距離が近くなる。
カゲトは門兵の検査待ち列へ進みながら、小声で注意を促した。
「油断するなよ。城下町ほど人は多い。詐欺師も盗賊も紛れてる」
「分かってるってば」
リオは軽く笑って返す。
だがその視線は、どこかステラの方へ向いていた。
(……まあ、ガキだしな)
カゲトはそう割り切ろうとした。
だが――ほんの僅か、胸の奥に引っかかるものが残る。
「検問開始ー!」
喇叭の号令が響き渡り行列が前進する。
やがて四人の番が来た。
「止まれ」
黒鎧の衛兵が槍を翳す。
「通行許可証か所属証を提示せよ」
「こちらです」
ステラが水晶板を取り出す。
その仕草を、リオは食い入るように見ていた。
「すごい……それ、王都のやつ?」
「ええ。少し前に更新したの」
「いいなぁ……」
「あなたもそのうち手に入るわよ」
そう言って、ステラは軽くリオの頭に触れた。
ほんの一瞬の仕草。
だが、カゲトの視界にはやけに鮮明に映った。
(……距離、近くないか)
言葉にはならない違和感が、胸に残る。
門を抜けると、喧騒が一気に押し寄せてきた。
露店、呼び込み、笑い声。
西都は生きている街だった。
「さあ行こう!」
ステラが先に歩き出す。
その背を、リオがすぐに追う。
「待ってよステラさん!」
「ふふ、迷子にならないでね」
二人は並んで歩く。
自然に。
当たり前のように。
カゲトはその後ろを歩きながら、わずかに視線を逸らした。
「見て見て! 魔晶石が安いよ!」
「偽物じゃないでしょうね……」
「まあまあ損しなけりゃ良し!」
リナは軽口を叩きながらも、視線だけは鋭く動いていた。
(……へぇ)
前を歩く三人を見る。
ステラ。
リオ。
そして、その少し後ろを歩くカゲト。
(なるほどね)
リナは、ほんのわずかに口元を歪めた。
茶店に入ると、ようやく落ち着いた空気が戻る。
「じゃあ明日に備えて休憩ね!」
ステラが言うと、リオがすぐに反応した。
「やったー! いちごタルトだー!」
「そんなに甘いの好きなの?」
「うん! ステラさんは?」
「私は――」
自然に会話が続く。
自然に、距離が近い。
カゲトはスプーンを手に取りながら、その様子を見ていた。
(……弟分、だろ)
そう自分に言い聞かせる。
それでいいはずだ。
それなのに。
胸の奥に残る違和感は、消えない。
(……なんだよ、これ)
薬学院受付前
「報告いたします。標本及び薬材納品完了しました」
「確かに」
白衣の職員が淡々と処理する。
任務は問題なく終わった。
「これで任務は達成ね」
ステラが軽く息をつく。
「お疲れさま、みんな」
そう言って、自然にカゲトの方を見る。
その視線に、少しだけ救われる。
(……気のせいか)
そう思おうとする。
だが――
完全には、納得できなかった。




