第10話 スリの少年
ミザール外縁・市場通り
土埃の混じる風が、通りを抜けていく。
王都とは違う。
人の数は多いが、どこか雑で、荒い。
「……雰囲気、違うね」
ステラが周囲を見回す。
「油断するな」
カゲトは短く言った。
「こういう場所は、見てる方も多い」
「見てる方?」
「隙を探してるやつだ」
その直後だった。
「……あ」
ステラが小さく声を漏らす。
「今、触られた」
カゲトの視線が動く。
人混みの中。
小柄な影。
「――あいつだな」
追跡
少年は走る。
細い路地へと滑り込む。
「速いな……!」
だが。
カゲトは無理に追わない。
「右に出る」
「え?」
「道が繋がってる」
先回り。
路地の出口。
少年が飛び出した瞬間――
「――っと」
止まる。
目の前にカゲト。
「返せ」
短く言う。
少年は舌打ちする。
「……チッ」
逃げ場はない。
ゆっくりと、盗んだ袋を差し出す。
「ほらよ」
ステラが受け取る。
「ありがと」
少年はそっぽを向く。
「別に礼とかいらねぇよ」
対話
「なんでこんなことしてるの?」
ステラが聞く。
「……関係ねぇだろ」
「まあな」
カゲトが言う。
「ただ、捕まったら終わりだ」
少年は肩をすくめる。
「捕まらなきゃいいだけだ」
「今回は捕まった」
「……」
返す言葉がない。
しばらく沈黙。
「……行っていいか?」
「好きにしろ」
少年は一瞬だけ二人を見る。
そして、走り去った。
小さな違和感
「……あの子」
ステラがぽつりと言う。
「ただのスリ、って感じじゃなかったね」
「ただの子供だ」
「そうかな?」
ステラは少し考える。
「逃げ方、無駄が少なかった」
カゲトは何も言わない。
(まあ、場慣れはしてるな)
簡易依頼
その日のうちに、軽い依頼を受ける。
「採集系か」
「初級だし、こんなもんだよ」
森に入る。
静かだ。
だが――
「……まただな」
「うん」
気配。
さっきと同じ。
「……出てこい」
カゲトが言う。
少しの間。
そして。
草むらから、顔を出す。
「……なんだよ」
さっきの少年だった。
「つけてたのか」
「違ぇよ」
明らかに嘘だった。
「……依頼か?」
「そうだけど」
「それ、危ないぞ」
ステラが首をかしげる。
「危ない?」
「この辺、魔物出る」
「知ってる」
「いや、そうじゃなくて……」
少年は言葉を選ぶ。
「こっちから入ると囲まれる」
地面を指す。
「逃げ道ない」
カゲトは周囲を見る。
(……確かに)
地形的に袋小路に近い。
「じゃあどうするの?」
「向こうから回る」
少年は別ルートを指す。
「そっちなら逃げれる」
カゲトは少しだけ考える。
「……行くぞ」
「いいの?」
ステラが聞く。
「ああ」
小型魔物戦(簡易)
予想通り、魔物が出る。
二体。
「来る!」
カゲトが前に出る。
一体、処理。
ステラも続く。
だが。
少し位置がズレる。
「っ……!」
囲まれかける。
「下がれ!」
カゲトがカバー。
戦闘終了。
戦闘後
「……だから言った」
少年がぼそっと言う。
「回り込まれるって」
「……ああ」
カゲトは短く答える。
「助かった」
「別に……」
少年は目を逸らす。
「ただ、見てただけだ」
ステラが少し笑う。
「それでも助かったよ」
少年は何も言わない。
別れ
「もう行く」
少年は背を向ける。
「……またな」
「え?」
ステラが驚く。
「またって?」
「……知らねぇよ」
そのまま去る。
残された二人
「……変な子だね」
「普通だ」
「そうかなぁ」
ステラは少し笑う。
「でもさ」
「ちゃんと見てたよね、周り」
カゲトは黙る。
(戦えないが……見る目はある)




