自己紹介
テーブル前で待つ僕達の前に現れた大男――ドルンという中級探窟家が、実技研修の引率をしてくれるらしい。
それにしても、上半身裸で筋肉をこれでもかと押し出しているのは何故なのだろうか。古代都市は危険な場所だと聞いているため、防具ひとつ身につけていないというのは疑問に感じる。
そして、背中にある巨大なハンマーがひときわ目立っていた。上半身裸で巨大なハンマーを背負った筋肉ダルマ……どう見ても不審者である。悪い人ではなさそうな雰囲気だが、本当にこの人が引率で大丈夫なのかと不安を覚えてしまう。
「……どうした、なぜ皆黙っているんだ? もしかして実技研修に緊張しているのか⁈ 安心しろ、そんなに深い所には行かないし、大して難しいこともさせない! そして危険からは俺が全力で守ってやるからな!!!」
ドルンが腰に手を当てて高笑いする。
……自分の格好についてはまったく気にしていないようだ。
「まあそんな事はどうでもいい! これから一緒に研修をするんだ、自己紹介をしてくれ!」
まず最初に、僕の隣にいた身なりの良さそうな女性が話し始めた。
「初めまして。私はリエン・フードゥルと言います。ラーテル第一高等学園剣術科の二年生です。研修の際はどうぞよろしくお願いします」
ラーテル第一高等学園……貴族階級の人は一定以上の年齢になると何処かしらの学校に通うことになる。
その数ある学校の中でも、ラーテル第一高等学園は特に難易度が高いことで知られている。そして学園の高い関門を越えられる――すなわち、潤沢な学習環境が必要であり、必然的にその環境を用意できる身分の高い子供が学園に多く通っている。
ファミリーネームを持っていることからも、この人も貴族なのだろう。そう考えると、振る舞いや言葉遣いからそこはかとなく気品が感じられる。
彼らは僕のような孤児院育ちには非常に縁遠い存在だ。今回の研修が終わったら、もう関わることはないかもしれない。
「ほう……ラーテル第一高等学園と言えば、相当な名門校じゃないか。そこの生徒が探掘家を目指すなんて珍しいな」
「名門である分、お金がかかるんですよ。私の家のような位の低い騎士爵では、とてもお金が足りないので、自分達で稼がないといけないんです。学生が出来る仕事も限られてますので、探掘家の登録に来た感じです」
「む、そうなのか。貴族にも色々事情があるんだな……途中で止めてすまない。では次の人は自己紹介を続けてくれ」
名前を呼ばれたわけではないが、視線がこちらに集まるのを感じる。――こんな大勢の前で話すのは初めてだが、ここで引いてしまえば、自分の存在が埋もれてしまう。気合を入れ、拳を強く握る。
「はい! ラーテル第二孤児院のフィールです。今日はよろしくお願いします!」
声を張ったつもりだったが、途中で少し上ずってしまった。それでも、何人かが頷き返してくれるのが見え、胸の緊張がわずかにほどける。悪い印象ではなさそうだ、と自分に言い聞かせる。
次に、背が低く丸眼鏡をかけた青年が、おどおどしながら一歩前に出た。
「えっと……ぼ、僕はコリンです。道具屋で見習いをしていましたが、現場の経験を積みたくて……。あ、よろしくお願いします!」
彼は両手を服の裾で何度も拭き、緊張で眼鏡がずれそうになるのを指で直している。
腰の小さなポーチには、小瓶などの小道具がぎっしり詰まっており、見習いとはいえ道具の扱いにはそれなりの自信があるようだ。ただ、人前に出るのはあまり得意ではなさそうに見える。
最後に、日焼けした肌と屈託のない笑顔が印象的な青年が、元気よく胸を張る。
「おう! 俺はガレスだ。農家の息子で、腕っぷしだけは自信ある。古代都市についてはよく知らねぇが、金が必要でな!とにかくやってみるぜ!」
握り拳を作った彼の腕は、農作業で鍛えられたのだろう、がっしりとした筋肉がついている。
口調も態度も飾り気がなく、初対面の人間にも物怖じしない性格らしい。粗野ではあるが、裏表のない人間に見える。
「うむ、リエン、フィール、コリン、ガレス……よし! 研修中はよろしく頼む。今回の研修受講者はこの4人で全員だ! 早速だが、古代都市の方へと向かっていくぞ!」
各々の紹介が終わり、ようやく古代都市の方へ向かうことになった。
まだ研修の段階とはいえ、初めて古代都市に入るため、自然と手に力が入る。
探掘家としてやっていけるのかという不安と緊張が入り混じった中、外へと足を踏み出した。