探掘家登録
14歳の誕生日を迎えたその朝、武器や防具、冒険に必要な道具が入ったポーチを身に着けた僕は孤児院を後にし、探掘家の登録所へと足を向けた。
今日は春の訪れを告げるような穏やかな陽気で、ここ数日の厳しい寒さが嘘のようだ。
今年の冬は特に冷え込みがきつく、孤児院では隙間風に悩まされる日々が続いていた。
登録所は街の中心部にあるが、僕が暮らしてきた孤児院は街外れの少し寂れた一角にある。
周囲のレンガ道は長い年月で風化し、あちこちに段差やひび割れがあるが、長年の暮らしで足は自然とその歩きづらさを避けて進む。
街外れは人通りもまばらだが、中心部へ近づくほど人影が増え、笑い声や屋台の香ばしい匂いが風に乗って漂ってきた。
話し相手がいるわけではないが、久しぶりの街の喧騒に胸が少し高鳴る。探掘家になれば、この賑わいも日常の一部になるのだろう。
歩き続けて十数分、ようやく目的地に辿り着いた。登録所はベージュ色のレンガ造りで、周囲の建物よりひときわ大きく、強い存在感がある。
大きな両開きの扉に手をかけ、一息に押し開けた。
内部は広々として清潔感があり、差し込む光が床の光沢を際立たせている。人の姿はまばらで、受付や机の周辺にちらほらといる程度だった。
足を進め、受付の前に立つ。
「いらっしゃいませ。ご用件をお伺いします」
受付の女性は書類を書く手を止め、柔らかな笑みを向けてきた。探掘家の集まる場所ということで、もっと荒々しい雰囲気を想像していた僕は、その落ち着いた空気に少し意表を突かれる。
「は、はい! 今日で14歳になったので、探掘家に登録しに来ました!」
「登録ですね。準備いたしますので、少々お待ちください」
女性は軽やかに奥へ姿を消し、すぐに戻ってきた。
「まず年齢を確認します。こちらの水晶に手をかざしてください」
言われた通りに手をかざすと、水晶が淡い光を放った。
「はい、14歳以上ですね。それではこちらの書類に、お名前と出身地、それから特技や固有能力があればご記入ください。苦手でしたら代筆します」
武術や剣術の心得はない。だけど――孤児院で出会ったヴェセルと、毎日のように体を動かしながら特訓してきたのは事実だ。
固有能力こそ目覚めてはいないが、あの時間が無駄だとは思わない。
「では代筆いたします。お名前はフィール、ご出身はラーテル第二孤児院。特技は……『体力訓練を日課にしている』、と書き添えておきますね」
「ありがとうございます!」
「はい、これで仮登録は完了です。次は実地研修を受けてもらいます」
「実地研修……?」
「現役探掘家と共に遺跡へ入り、その成果で初期ランクを決定する制度ですよ。戦闘演習だと探掘家としての実力を測るのが難しいので、登録者は皆参加してもらってます」
ランクは最下級から下級、中級、上級、最上級までの五段階。最初はほとんどが最下級で、良くても下級らしい。
「運がいいですよ。研修は週二回ですが、今日はちょうどその日です。あちらのテーブルに十三時――あと一時間ほどで集合してください」
一時間後なら、ここで待った方が早い。
「ありがとうございます。それでは、こちらで待たせてもらいます」
「はい、空いている席でお待ちください。酒場の方で軽食も注文できますよ」
しばらく待っていると、同年代くらいの人々がぽつりぽつりと集まり始めた。
最初は小声で挨拶を交わし合う程度で、どこかぎこちない空気が漂っている。おそらく、これから同じ研修を受ける仲間なのだろう。
そんな中――突然、入口の方から床板を震わせる重い足音が響き渡った。
一歩ごとに空気が押し寄せるようで、談笑していた研修生たちの声が自然と消えていく。
やがて扉が押し開けられ、現れたのは――上半身裸、陽光を浴びた岩のような筋肉を誇示する大男だった。
「お前らが今回の研修を受けるひよっ子か!!!」
低くも爆発的な声が、部屋中の空気を震わせる。
「俺はお前らの面倒を見る、中級探窟家のドルンだ!!! 短ぇ間だがよろしくな!!!」
両手を腰に当て、胸を張って吠えるように自己紹介すると、豪快な高笑いが天井まで響いた。
――とんでもない人物が来たな。周囲の研修生も、目を丸くしたまま呆然とその巨体を見上げていた。