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旅立ちと慣れてきた頃の行き違い

「今までお疲れ様、色々助かったよ。今日で終わりだね。」

そういうとテラ婆は1週間分の賃金を渡す。

キャベツ走りのシンディは笑顔で答えた。

「旅が終わったらまた来ます!」

「おや、明日からの八百ヤドカリが心配かい?」

「すこし、」

「2日目に捕まえた泥棒がいたの覚えてるかい?」

忘れもしない、酷いあだ名の元凶だ。

「あいつが更生して働いてくれるみたいさ。心配は残るけど私1人よりは安心だろう?」

キャベツを投げ捨てることが脅しになると思うようなやつだ。きっと根はいいやつなのだろう。

感じたことの無い程の清々しさを身にまといキャベツ走りのシンディはノクス領を後にした。


ちゃんと稼ぎ切ったシンディとカリオはユイラと合流しようやくアスラを目指し始めた。

道中宿に泊まったり、ご飯を食べたり、市場に立ち寄ったりして気づいたことがある。

ユイラはかなりの浪費家であった。

旅をすると言っているのに旅に加わって3日目にして買い貯めた魔導書が10冊を超えた。そしてついに荷物持ちのカリオがキレた。重い上お金がかかるため妥当である。

しかし思いもよらぬ大喧嘩に発展した。

口喧嘩がどんどんヒートアップしていく。

砂利を踏みしめる音と同時に、カリオが一歩踏み出す。

「もう我慢ならねぇ。ちょっと、力でわからせてやる。」

「は? わたしにケンカ売ってるの?」

「売りてぇのはその本だよォ!!」

次の瞬間、大地が震えた。

カリオの足元から隆起するのは**“拳礎”**──拳の形を模した石の土柱。

そのまま彼は拳を振るい、巨大な拳礎を前へ押し出す。

「《岩砕拳(アラウンド・ザ・):崩塊(ワールド)》ッ!!」

地を割る衝撃波が走り、土の塊がユイラに向かって突進する。

「おっと!」

ユイラは片足を引いてすっと後退。杖を構えて呪文を紡ぐ。

「《氷羽(フローズ・フェザー)》──風に舞え、氷羽!」

風が巻き起こり、氷の羽根が無数に放たれる。

それは土の拳礎を削ぎ、砕き、消し去る。

「ふふん。重いだけじゃ、わたしには届かないよ。」

「軽すぎんだよ、おまえの脳みそもなッ!」

カリオが怒鳴り、地面に拳を打ちつける。

すると、ユイラの足元がぐらついた。

「!?」

足元の地盤が瞬時に逆巻き、彼女のバランスを奪う。

「《沈脚陣(キャント・ストップ)》──足をすくって、次で沈めるッ!」

その隙を逃さず、カリオが一気に間合いを詰めて拳を構えた。

「オラァッ!!」

ドンッ!

地響きを伴う一撃が、ユイラの放っていた氷障壁を粉砕する。

「ぐっ……っ!」

衝撃で吹き飛ばされるも、ユイラは空中で姿勢を制御。

「この……! あんた、手加減してないでしょ!」

「してねぇ! する義理もねぇッ!!」

「ならこっちも全力いくよ!」

ユイラの髪が風に舞う。杖に力が集まり、青白い冷気が地面を凍らせる。

「《氷結旋嵐(アイススパイラル・ヴォーテックス)》──!」

風の刃と氷の刃が螺旋状に絡み合い、嵐のようにカリオを包む。

地面を凍らせながら接近する凍気の渦に、カリオは咄嗟に両腕を組む。

「チッ、また風使いやがってッ!」

凍気に包まれたカリオの足元から、突然大地が噴き上がった。

「《反柱(ストーン・コールド・ブッシュ)》──地中から、ぶち上げるッ!!」

氷の渦を突き破って、真下から岩柱が立ち上がる。

ユイラは飛び上がってそれを避けるが、背中に冷たい汗が走った。

──やばい、これ、本気でやったら旅できなくなる……

同時に、カリオも歯を食いしばっていた。

──調子こいて言いすぎたな。泣かれたら……困るしな……

しかしもう引っ込みがつかなくなっている。

それを汲み取るかのようにシンディが声をあげる。


「──やめようか。」


ふたりがピタリととまった。

シンディの放つ覇気は禍々しく、たとえ両者我を失って戦い続けていたとしても止めてしまうような説得力があった。

土の波が止まり、凍気がゆっくり消えていく。

「……疲れた。」

「……腹減った。」

しばしの沈黙。

そして、通りすがりの子どもが言った。

「お姉ちゃんとおっちゃん、ケンカなの?」

ふたりは視線を交わし、なぜか笑いがこみあげた。

「違うよ。ちょっとした──」

「話し合いだ。」

「それよりおっちゃんだってさ。」

「うるせー、笑うな。」


その日の晩。

ユイラは買った魔導書のうち、三冊を売った。

カリオは自分の荷物を軽くし、空きスペースを作った。

「……仲直り?」

「しねぇよ。」

「ふーん。」

けれど夕食の時間、カリオはユイラの皿に肉を一切れ分け、ユイラはこっそり自分のサラダをカリオの皿に移していた。

どちらも、なにも言わなかったけれど。


翌朝、ふたりはまた何事もなかったかのように並んで歩いていた。

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