家出と始まり
――この世界は、火・氷・土・風、四つの属性で成り立っている。
「シンディ、今日も属性調整は完璧だね。君は本当に、奇跡のような存在だ」
そう言って笑うのは、シンディの「マスター」だった。年齢不詳で白髪の彼は、シンディにとって父のような存在だった。広大な森の奥にある研究所、そこでシンディはマスターと二人だけで平穏に暮らしていた。
彼女は火・氷・土・風、すべての属性で高い適性を持つ、世界でも稀有な存在であった。
だが、彼女には知らされていない真実があった。
彼女が“人間”ではないということ。
そして、彼女の体の中には「ニトロストーン」と呼ばれる、危険な古代の秘石が埋め込まれていることを――。
ある日シンディはいつものように目を覚まし、マスターが起きてくる前に朝ごはんを作らなければと思い台所に立つ。
今日も目玉焼き2つとソーセージ4本にトーストを2枚お皿に盛り付ける。もちろん自分とマスターの分である。
しかし既にいつもどうりでないことが起こっていたのである。シンディはまだ気づかない。
コーヒーも淹れ終わり、普段ならマスターが起きてくる頃であるが全く起きてこない。
寝坊でもしているのかと思いながら起こしに行く。
そこでやっとシンディは気づいた。
「マスターがいない!」
シンディは必死に研究所内を探したがどこにもいない。
研究所の出入口のドアのノブに手をかけた時、ふとシンディはマスター言われた言葉を思い出す。
「研究所の外には絶対に行ってはいけないよ。」
それ以上に異常事態であるためシンディは外へ出ることにした。
外の世界はマスターから聞いていたよりずっと美しかった。
シンディは、研究所の表に咲く白い花を見ながら、空を見上げていた。
空は果てしなく青く、風が髪を揺らしていく。マスターが言っていた通り、「世界は広い」のだろう。それでも、彼女はまだ“外”を知らなかった。
「……この先には、どんな風が吹いてるんだろう」
何気ない言葉。
だけどそれが、彼女の運命を大きく変える引き金だったのだろう。
マスターを探すという目的も忘れ、無我夢中に歩きまわった。
初めて踏み出す外の地面は、少し柔らかかった。
冷たい風が、彼女の感覚回路を震わせる。
「ふふ……なんだか、胸が高鳴ってる……」
――それが、“心臓の鼓動”ではないことにも、彼女はまだ気づいていなかった。