街を望む丘
何だかイメージは湧いてくるのだけど文章が拙すぎてこれはいかんなと思ってしまう。
綺麗な女性2人と馬車に乗るってのは男としては嬉しいものなんだろうが俺は今最悪な気分だ。何故に婚約者と公認の側室(どちらも許可した覚えなし)と一緒に狭い空間に押し込まれなければならんのだ。
一時間前
「起きてください!起きてください!遅れても知りませんよ!!今、お昼なんですよ!!」
「分かってる。起きてるよ、本を読んでただけだよ。」
入学試験1日前である今日でなくては間に合わない、らしい。
「外に馬車を用意してるんで早く乗ってくださいよ」
「ところでメイドの一人はついてこないのか?」
「…………。」
無言…やな予感がする。
「おい、なにか言えよ。なんかあるんじゃないだろうな?」
「いえいえ、少し人数が…。」
ははは、こやつめ、そういうことか。
「…どこの馬車だ?」
黙秘か…もしかして家のじゃない?やだなぁ本当に。
そして現在、王家の家紋が刻まれている馬車なんぞに乗っている。しかもこの美女2人は割と仲良く話している。嘘だろ?取り残されているのは俺だけか?
ふと外を見る。草原、森、時々馬車…う〜ん言う事無し。何もすることないし寝ようかななんて思っていたがある一つの考えが頭をよぎる。
「なぁ、マリーは百歩譲って分かるがセシリア…学園は王都にあるんだよな?なんでうちの家の前に?」
まるで意味がわからないと言わんばかりにきょとんとした表情で彼女は言う。
「将来の夫の迎えに行くのはおかしいですか?」
つい笑ってしまう。可愛いなこいつ。
「な!なんで笑うの!!」
「すまん、可愛くてね。」
ぼっと顔が赤くなるのを見つめる。うん、可愛い。油断していた時だった、馬車が止まった。
「おい、どうした?」
外の運転手に話しかける。
「いえ、魔物が出たらしく。」
ならば仕方がないな。
「このままじゃ間に合わないよ?」
セシリア、なぜそういうことを今更言う…ん?なぜ自分が遅れるリスクがあるのに来たのだ…本当に。
「はぁ、まあいいさっさと終わらせよう。」
僕はそれなりに戦えると自負しているし彼女たちもそれを知っている。運転手は事情が分からないのであたふたしているが余計なことは口にしない。深い事情にかかわらない姿勢は凄く好みだ。
「お気をつけて。」
「怪我しないでよ。」
馬車から降りる。剣聖なんて呼ばれてるらしい父親のスパルタ教育を一身に受けてきたんだ。魔物の一匹や二匹はさすがに倒せる。
現場に向かえば何だか騒がしい。
(負傷者が出てるのか?こんな平原のモンスターごときに?)
こんな考えは次の瞬間には消し飛ぶことになる。
(ドラゴンか?小さい個体ではあるが確かにこんなところでやってるような冒険者じゃあ倒せないわな。)
ため息が出てくる。こんなのに時間がかかるようでは一流にはほど遠いのだろうなと心の中でふと思う。
「危ないから下がっていろ。」
「あ、あんたこそ!その服装、貴族なんだろ?こんなところで何やってるんだ!」
尤もな意見だがそんなことを気にしている場合ではない。
「僕はクラウン家の長男、リュート・クラウンだ!あれが父親だぞ?任せておけば良い!」
「クラウン?剣聖のとこのか!了解、ケガだけはすんなよ!!一応もう少しで応援が来るはずだからここを頼む!」
軽口を叩きつつ仲間を連れての撤退か…こちらの緊張を解こうとしてるのか?判断はいい。怪我もしているようだし、もしかすると別のモンスターを狩っていてその帰りの満身創痍なタイミングで出会ってしまったのだろう、運がないな。
自身の影から刀を取り出す。どんな武器でも持ち運べるのは闇魔法のいいところだ。刀を出した理由は浪漫!その一言に限る。名前は…そうだな安直にシャドーポケット。
(せっかくだし魔法の練習を兼ねてみるか…。もっと影が広がっていれば体力の消費は軽く済むのだが仕方ないここは草原だ、森の中のようにはいかん。)
相手の影から黒い鎖を出し相手を拘束する。これも闇魔法。名前はグレイプニルにしよう。元はフェンリル捕縛のために作られた紐というか縄というかだが。
(少し息が上がってしまっている…若いな。)
そう思いつつドラゴンの頭を地面へとつけさせる。
(あまり暴れないでくれよ、ミスっちまったら苦しいぞ?)
刀を振り下ろし首を掻っ切る。
「ふぅー、疲れた。戻るのも面倒だな、くそっ。」
こちらに向かってくる応援を薄目で見つつ目を閉じる。
「柔い」
寝ぼけた頭に最初に浮かんだ言葉。
「膝枕ですよ〜。」
「リュート様はこんな方をお嫁さんに貰って幸せ者ですわね〜。」
空気が緩い。目を開けると笑顔で顔を見つめてくるセシリアとこちらをほほ笑みながら見つめるマリーの姿が視界に映る。
「ところでもうそろそろ着きますわよ。」
マリーは呟くように言う。
「そうか、ならば起きる。」
もったいないと思いつつもセシリアの太ももから頭を離す。
王都を囲む高い壁は争いの名残だ。今では門としての役割を果たしており、厳しい検閲がされている。これのおかげで犯罪率は大幅に減っているそうな。
セシリアの婿殿ということで王都には頻繁に訪れていたのであまり物珍しさはないが、マリーの方はあまり来ないらしく、街並みに目を輝かせている。
「セシリアの誕生日の時来たろ?」
「その時は緊張で何があったか…覚えていませんの。」
「そういうことならここからは歩いていきましょうか。」
「そうだな、だがセシリアとマリーのようなお姫様が宿まで歩けるものかね?」
「バカにしないでください。」
「挑発しないでくださいまし。」
(ううむ、冷たい反応だ。ミスったか?)
なんて考えつつも視界に入ったちょっとした飲食店を指差して言う。
「今、昼くらいだろうしあそこで食うか?」
「いいですね。」
「えっと…、ああいったところで食事したことはないのでどうすれば良いか分かりませんので…。」
そんな事を言うマリーの手を引いて店に向かう。
店に入ると割と広く奥行きがある綺麗な店だった。人が数人入り口近くの椅子に座り順番を待っていた。順番待ちの紙に名前を書き、2つしか残っていない椅子にマリーとセシリアを座らせる。2人は少し遠慮していたようだが、
「女の子を立たせるわけにはいかないから座ってくれ。」
と言い無理やり座らせた。
「リリィ様ー」
「はーい」
セシリアが返事をする。
リリィというのはセシリアの偽名だ。日本語では白いユリを表す言葉で白いユリは純潔や無垢を象徴している。一部のスラングとして可憐な女性という意味もある。
よく城を脱走し下町に遊びに行くセシリアをこれも社会経験だと言い訳して注意するのを諦めた王様がつけた名前らしい。
「リリィ様?」
「セシリアの偽名だよ」
「あぁ…失礼しました。」
きちんと状況が見えているな…やっていいこととやってはいけないことの判断が良い。これができないのもいるのが困る。
店員さんに案内されて食事の席に着く。
注文をし、料理が届く。セシリアが肉、肉、肉!、マリーがちょっとしたランチ、俺はパンケーキ。
「リュート…パンケーキ?」
「それでは栄養が足りませんわ。」
「動いたあとは甘いものが食べたくなる。」
「肉のほうがいいよ。」
「いいえ、きちんと栄養面を気にして…」
「それは太るのを気にしているだけでしょ?」
「な…さすがにリリィ様と言えど許せません!」
「やかましい、周りが見ているよ。」
静かにはなったが互いに納得いかない様子で頬を膨らませながらセシリアはガツガツとマリーは優雅にご飯を食べ始めた。
食べ終わって店から出る。マリーはあまりこの街に来ないことを思い出した。満腹だからこそ運動を兼ねて、
「マリーに見せたいものがあるんだけどいいかな?」
と聞く。
セシリアはどこへ行くか理解したような顔でマリーは頭にハテナを浮かべている。それでも先へ進む俺たちの背中についてくる。何だか小さな動物のようだと思った。
「いったん荷物を宿に置いてこようか。」
「えーそのままでいいよぉう。」
「そうもいかんぞぉマリーを見ろ、バテている。」
「ならいいわ。どこなの?宿って?」
「実はメイド経由ですでに予約済みだ。」
もちろん部屋の鍵は俺の優秀なメイドにより渡されている。2つの鍵が俺の手にあるわけだ。
「ほらよ、鍵一つやる。」
「え、いつのまに?」
「飯食ってる間だよ。武神様と賢者様のメイドを舐めるなよ?気配ぐらい消せなくちゃあ話にならんよ。」
「貴方のところのメイドは何者なのよ。」
「あそこのメイドさんはいつの間にか後ろに立っておりますものねぇ。」
マリーが遠い目をして呟いた。それもそうだろう、何度もいつの間にか現れるうちのメイドに驚いていたからな、かわいそうに…。
「ところで宿の名前は?」
「ゆりかごってところ。」
「「ゆりかご?」」
2人の声が重なる。
「うん、間違えはないよ。」
「変な名前ね。」
それは俺も思ったが言わないようにしていたのに。
「それはともかく荷物置きに行くぞ、日が落ちる。」
「そうね、覗きに来ないでよ?」
「行かねーよ。ところでこんな話をしている間に宿前に来てしまいましたー。」
そんな俺を無視して2人は宿に入っていきました。ひどい。少し宿前ではぶててから宿に入る。
「待ったー?」
「待った」
「リリィ様を怒らないであげてください、少し張り切っていましたので…。」
「文句を言うつもりはないけど…早く行くぞ。」
「はーい」
「わかりました。」
街を探検しながら坂道へと向かう。坂まではそこまで遠くはないし割と余裕もある。近くにあるる店を横目で見ては
「また今度来ようね」
とセシリアが言っている。
ちょっとした坂を登る。そこまで急ではないがちょっとした坂が続けばきつくもなってくるものだ。
少しだけ坂街を探検しつつ日が暮れる前にここまで来れた。
「街を望む丘…」
ふと口をついて出た言葉。ここを表すのにふさわしい。黄昏に染まる街を一望できる丘。宿からそんなに離れているわけではないが緩やかな傾斜があり来るのは少し疲れる程度だろう。しかし、この景色はその疲れ以上の対価をもたらす。
画家の描く絵というものはそれの最も美しい瞬間を切り取るものだが、その切り取る瞬間の景色とはこのことなのだろうと思う。
何度見ても飽きない。それはセシリアも同じだ、横を見れば初めて見たように目を輝かせている。さらにその隣、マリーは俺たちよりももっと強い衝撃を目にしたのだろう。まばたきの瞬間も惜しいと言わんばかりに目を見開いている。
日が落ちる。そろそろ帰らねばならん。いくら景色が美しくてもこの瞬間はもう過ぎる。
「宿に戻るか。」
そう言って宿へと向かう坂道を3人で下っていく。
結構長くなったし会話パートが多すぎるしでだめだなぁと思う。
取り敢えず試行錯誤の段階なのでしっかりと今後の書き方を練っていきたい。