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20.恋と友情

 きっぱりはっきり。むしろ言い終わる前に否定をされてしまった。

 

「あのね、どこをどう見ればそうなるの? カイトは私を好きじゃないし、私もカイトを好きじゃないわ。まさかアリスの寝不足の原因はそれじゃないでしょうね」


 声がうんざりと呆れているのはきっと気のせいじゃない。冷たいセレナの視線から逃げるよう、体がちぢこまってしまう。

 

「えっと……、ちがうの? だってセレナ、大切なブレスレットをあげたり、すごく心配してるし……」

「そりゃ心配するわよ。だって友達だもの。それに、カイトはアリスの好きな人でしょ。あいつになにかあればアリスが悲しむじゃない。だから困るのよ」


 目からウロコすぎる。あなたになにかあれば困る、の真意がまさかそんな理由だったなんて。

 そんなの思いつくわけがないよ。だとすると、カイトくんの片想いなの?それならまた、ふり出しにもどってしまう。オロオロしながらセレナの目を見ると、彼女はやっぱり不機嫌な顔をしている。


「なにかイヤな感じがしたから魔除けのブレスレットを貸したのよ。なのに、私が目視できるくらい呪いは進行しているし……。あんなお守り、本人の気力が呑まれてしまえば意味なんかないのよ……。なにがあったの?」

「なにって……」

 

 カイトくんがおかしくなる前、あれは私がブレスレットを発見した日だ。会話のあと、カイトくんの表情が引きつったことを思い出す。なにを話したのか記憶をたどる私は、うーんとうなりながら上を向いた。

 

「えーっと、ブレスレットをカイトくんが落としたのね。で、セレナがいつも身につけてたものをプレゼントしたということは、きっとカイトくんのことが好きなんだろうなーと思って……。で、カイトくんも嬉しそうだったから、応援するよ、って……」

「ありえない」


 セレナはさっきと同じ言葉を繰り返した。だけど口調の強さは増している。おっとりしている声音はいつもより低くてやたらと迫力があった。つまり、こわい。


「そうやって誤解するアリスも意味がわからないし、そこで本当のことを伝えないカイトもどうかしてるわ」

「え、誤解? もしかしてカイトくんが好きなのは、シアちゃんだったり……?」

「どうしてそうなるの!?」


 めずらしくセレナが大声を出す。驚いた私の肩が思わずびくりとはねた。セレナ自身も少し驚いてるみたいだけど、それよりも心の底から信じられないといった顔をしている。


「アリスよ。アリスに決まってるじゃない。どうして気づかないの? そこまでいくと鈍感も罪よ」

 

 これでもかと呆れきった視線がチクチク痛い。むしろ怒っているように見えるのは気のせいかな。はーっ、とため息をつくセレナの顔はたいそうしかめられていた。


「いつ本人たちが気づくのかイライラしながら見守ってたけど、まるでダメね。お話にならないわ」


 セレナの周りの空気がピリピリしていて、とても居心地が悪い。いつも静かな空気をまとっているのに。

 こんなにイライラするセレナははじめて見るかもしれない。

 

「え、だって、私はモブで……セレナはヒロインで……」

「なにを言ってるのかわからないわ。さっきの予測でいけばカイトの呪いを解く鍵はあなたよ、アリス。そもそも、その情報を知っていて、どうしてまだカイトはあの状態なの?」

「だって、まさか私だとは思わなかったし……」

「それでも、告白してみればよかったのに! 思うままに行動しないなんてアリスらしくないわ。今すぐカイトを呼び出すわよ」

 

 マジックボードを取り出したセレナはメッセージでカイトくんを呼ぶつもりだろう。入力しようとするその細い腕に、そっと手を添える。

 

「ダメだよ……」

「どうして?」

「だって、告白できないの……。声が出ないの……。カイトくんに好きって言えないの。他の言葉は言えるのに、その一言だけ音にならないの」

 

 どういうこと、と呟いたセレナの顔色がサッと青くなる。

 

「まさかアリスも呪いを……?」

「ううん、違うと思う。私は、イレギュラーな存在だからじゃないかな……。シアちゃんかセレナじゃないと、きっとダメなんだよ。だから……」


 カイトくんを好きになって。

 そうつぶやいた声はとても小さくなってしまった。だけどセレナには届いたみたい。

 

「イレギュラーってなんなの? そんなの無理よ。私もシアにも、呪いは解けないわ。それにカイトだってそんなの望んでるはずないわ」

「どうして? カイトくんは優しいし、真面目だし、それにかっこいいし、すごく努力家で……」


 なんでみんな彼を好きにならないのか、不思議すぎる。だけどセレナは「うーん」とうなってしまった。

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