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18/26

18.新学期

 あれからカイトくんの様子が少しおかしい。

 体調は変わらないみたいだけど、ぼーっとしてることが多くなった。理由を聞いても本人にもわからないみたいで、多分これは呪いが進行している気がする。

 刻印は相変わらず長袖のシャツに隠れて状態がわからない。かたくなに隠すカイトくんに「見せて」ということもできなかった。

 表面上はなにも変わらない。だけど近くなったと思っていた距離が開いたように感じる。

 夏休み最後の一週間はなんだか気が重くて、珍しく眠れない日が続いてしまった。



 ***



 今日は始業式の日。晴れわたる空の青さに、しぱしぱと目をまたたく。

 ここのところ寝不足が続くせいで、明るい日差しに頭がくらくらする。生徒たちは昨日までに寮へと戻っていて、私もいつも通り、シアちゃん、セレナと学校へ向かう。

 昨日帰ってきた二人は顔色の悪い私をすごく心配してくれたけど、夏バテだと言ってごまかすことにした。

 いつもよりゆっくり歩くのもきっと、私の体調を思ってのこと。夏休みの間どう過ごしたか、なんてそれぞれの話をしながら歩いていると、後ろから私たちを呼ぶ声がした。

 振り向くと笑顔で手を振るヨシュと、控えめに手を挙げるカイトくんがいる。


「よ! 元気だった?」


 すぐにセレナの横に並んだヨシュは少し日焼けをしている。ツンと対応するセレナのクールな対応にもめげず、ヨシュはよく彼女に話しかけている。

 セレナは本当に嫌いな相手とは話なんかしない。そのことをきっとヨシュもわかっているんだと思う。

 もうすっかり馴染んだ顔ぶれと、いつもの光景。

 シアちゃんとセレナも最初の怖い目が嘘みたいに、彼らと仲良くなった。なんとなくヨシュの隣を見ると、眠そうなカイトくんがあくびをしていた。


「カイトも眠そうね。寝不足は全ての敵なのよ」

「ん、わかってる。ちゃんと寝てるんだけど、最近やたらと眠くって……」


 心配そうなシアちゃんと同じく、私もカイトくんの様子が気になる。こんなこと、前はなかったもの。

 

「カイトくん、おはよ。大丈夫?」

「おはよ。うん、ただ眠いだけだから」

 

 にっこり返される笑顔はどことなく、よそよそしさを感じるのはどうしてだろう。

 正体のわからないもやもやを抱えていると、ヨシュと話していたセレナがカイトくんを見た。その瞬間、セレナの眉がぐっと寄って、足も止まってしまった。つられるように、私たちの歩みも止まる。

 彼女のこんなに不快な顔は、ヨシュに初めて話しかけられた時以来な気がする。

 

「ちょっと……、なにしてるのあなた」

「なにって……」

 

 じっとカイトくんを見つめたセレナは大きなため息をついて、戸惑いを見せる彼の腕を強く掴んだ。

 

「え、なに? 怖いんだけど」

「ごめんなさい、先に行くわ」

 

 カイトくんには答えず、セレナは驚いたままの私たちに告げる。その口調は固く、どこか苛立ちを感じさせた。

 

「ちょっと、セレナ」

 

 驚いたシアちゃんが声をかけたけれど、セレナは止まらない。カイトくんの手を引いて、足早に学校へと向かってしまった。

 

「どうしたのかしら……。セレナがあんな顔するの珍しいわね」

「えー、カイトだけずるい」

 

 ムッと拗ねたヨシュの腕を、シアちゃんがポンと軽く触ってなぐさめる。

 セレナの突然の行動はよくわからないけれど、二人の距離が近くなっていることは予測できる。

 だからといって私に邪魔をする権利なんかない。カイトくんの呪いを解けるのはきっと、セレナだから。

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