18.新学期
あれからカイトくんの様子が少しおかしい。
体調は変わらないみたいだけど、ぼーっとしてることが多くなった。理由を聞いても本人にもわからないみたいで、多分これは呪いが進行している気がする。
刻印は相変わらず長袖のシャツに隠れて状態がわからない。かたくなに隠すカイトくんに「見せて」ということもできなかった。
表面上はなにも変わらない。だけど近くなったと思っていた距離が開いたように感じる。
夏休み最後の一週間はなんだか気が重くて、珍しく眠れない日が続いてしまった。
***
今日は始業式の日。晴れわたる空の青さに、しぱしぱと目をまたたく。
ここのところ寝不足が続くせいで、明るい日差しに頭がくらくらする。生徒たちは昨日までに寮へと戻っていて、私もいつも通り、シアちゃん、セレナと学校へ向かう。
昨日帰ってきた二人は顔色の悪い私をすごく心配してくれたけど、夏バテだと言ってごまかすことにした。
いつもよりゆっくり歩くのもきっと、私の体調を思ってのこと。夏休みの間どう過ごしたか、なんてそれぞれの話をしながら歩いていると、後ろから私たちを呼ぶ声がした。
振り向くと笑顔で手を振るヨシュと、控えめに手を挙げるカイトくんがいる。
「よ! 元気だった?」
すぐにセレナの横に並んだヨシュは少し日焼けをしている。ツンと対応するセレナのクールな対応にもめげず、ヨシュはよく彼女に話しかけている。
セレナは本当に嫌いな相手とは話なんかしない。そのことをきっとヨシュもわかっているんだと思う。
もうすっかり馴染んだ顔ぶれと、いつもの光景。
シアちゃんとセレナも最初の怖い目が嘘みたいに、彼らと仲良くなった。なんとなくヨシュの隣を見ると、眠そうなカイトくんがあくびをしていた。
「カイトも眠そうね。寝不足は全ての敵なのよ」
「ん、わかってる。ちゃんと寝てるんだけど、最近やたらと眠くって……」
心配そうなシアちゃんと同じく、私もカイトくんの様子が気になる。こんなこと、前はなかったもの。
「カイトくん、おはよ。大丈夫?」
「おはよ。うん、ただ眠いだけだから」
にっこり返される笑顔はどことなく、よそよそしさを感じるのはどうしてだろう。
正体のわからないもやもやを抱えていると、ヨシュと話していたセレナがカイトくんを見た。その瞬間、セレナの眉がぐっと寄って、足も止まってしまった。つられるように、私たちの歩みも止まる。
彼女のこんなに不快な顔は、ヨシュに初めて話しかけられた時以来な気がする。
「ちょっと……、なにしてるのあなた」
「なにって……」
じっとカイトくんを見つめたセレナは大きなため息をついて、戸惑いを見せる彼の腕を強く掴んだ。
「え、なに? 怖いんだけど」
「ごめんなさい、先に行くわ」
カイトくんには答えず、セレナは驚いたままの私たちに告げる。その口調は固く、どこか苛立ちを感じさせた。
「ちょっと、セレナ」
驚いたシアちゃんが声をかけたけれど、セレナは止まらない。カイトくんの手を引いて、足早に学校へと向かってしまった。
「どうしたのかしら……。セレナがあんな顔するの珍しいわね」
「えー、カイトだけずるい」
ムッと拗ねたヨシュの腕を、シアちゃんがポンと軽く触ってなぐさめる。
セレナの突然の行動はよくわからないけれど、二人の距離が近くなっていることは予測できる。
だからといって私に邪魔をする権利なんかない。カイトくんの呪いを解けるのはきっと、セレナだから。