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その7「ソラテラスと大岩戸」



「私の目的は、


 ディーヴァ=ダッタよ」



「ああ……。あの野良犬ですか」



 ディーヴァの名を聞くと、ソラテラスは嫌そうにしてみせた。



「どうやら好ましくは


 思っていないようね?」



「そうですね。


 私を差し置いて


 お姉さまと一つ屋根の下だなどと……


 羨ましい……!」



 ソラテラスは、冗談のようなことを口にした。



 だがその勢いには、ユピトが気圧されるほどの気迫が有った。



「そ……そう。


 それなら、


 彼がクオンのクランから抜けても


 あなたには何の問題も無いということね?」



「むしろ大歓迎ですが……。


 彼に何かするつもりですか?」



「彼を私のクランに


 引き抜こうと思って」



「……あの野良犬をですか?


 どうして?」



「綺麗だからよ」



「えぇ……」



 ソラテラスは、げんなりとした表情を見せた。



「そんな顔しなくても良いのに。


 それで出来れば、


 クオンと面会できるように


 取り計らってもらえると嬉しいのだけど」



「お姉さまと?」



「ガーデナーを引き抜くとなれば、


 ダンジョンマスターの許可が必要でしょう?


 ディーヴァだけと


 話をするというワケにはいかないわ」



「……わかりました」




 ……。




 ソラテラスがユピトを訪ねた翌朝。



 クオンたちの所へ、ソラテラスが訪ねてきた。



「お姉さま。おはようございます」



 数人の部下を引き連れたソラテラスが、クオンに声をかけた。



「おはよう」



 藁の家の前で、クオンはソラテラスに答えた。



「…………」



 その場には、ディーヴァの姿も有った。



 だがディーヴァは、自分がソラテラスに、煙たがられていると思っている。



 それで口を開くことも無く、クオンの後ろに控えていた。



 挨拶が終わると、ソラテラスは本題を口にした。



「実はお姉さまがたに、


 会っていただきたい方が居るのですが」



「私に? 珍しいね。誰かな?」



「じきにやって来る予定です」



「あの、俺はダンジョンに行ってきます」



 自分には関係が無さそうな話だ。



 そう思ったディーヴァは、クオンたちから離れようとした。



 だが。



「待ちなさい」



「え……?」



 意外にもソラテラスに呼び止められ、ディーヴァは足を止めた。



「あなたにも関係の有ることです。


 ここに残りなさい」



「俺が……?


 けど、ダンジョンで稼がないと、


 生活費が……」



 今のディーヴァは、ギリギリに近い生活をしている。



 毎日アディスに潜らなくては、食べ物にも困るありさまだ。



 労働時間を削られるのは、あまりありがたいことではない。



 何の話かは知らないが、遠慮できるなら遠慮したい。



 彼がそう思っていると、ソラテラスは、灰髪の老女に声をかけた。



「コマチ」



「はい」



 黒いキモノの老女、コマチが財布を取り出した。



 そこから紙幣を取り出して、ディーヴァに差し出してきた。



 差し出されたのは、1万シーズ紙幣が10枚。



 ディーヴァにとっては大金だった。



「どうぞ。お受け取りください」



「っ……! こんなに受け取れません!」



 ディーヴァはそう言った。



 カネは欲しい。



 必要でもある。



 だが、いきなり大金を渡されれば、嬉しさよりも気持ち悪さが勝った。



 そんな様子のディーヴァを見て、ソラテラスがこう言った。



「遠慮しないでください。


 手切れ金も兼ねていますから」



「え……?」



 ディーヴァが疑問符を浮かべた、そのとき。



 背後から近付く気配に、ソラテラスが振り返った。



「来たようですね」



 門の方から、一団がやって来るのが見えた。



「彼女たちは……」



 クオンが言葉を漏らした。



 それを遮るように、ディーヴァが驚きの声を上げた。



「ユピトダンジョンクラン……!」



 その一団は、全員が女性だった。



 一団の中には、カシオペイアの姿も有った。



「…………」



 彼女はディーヴァをちらりと見たが、すぐに視線を逸らした。



 ソラテラスに向かって、ユピトが口を開いた。



「おはよう。


 少し遅れてしまったかしら?」



「べつに」



 ソラテラスが、気の無いふうに言った。



「そう」



 ユピトはディーヴァたちの方を見た。



「クオン。ディーヴァ。


 あなたたちと話がしたいの。


 良いわね?」



「うん。構わないよ」



 クオンは申し出を受け入れた。



 それにディーヴァが反発した。



「クオンさま!


 こんな奴らの話、


 聞くことはありませんよ!」



 ユピトさまに対して無礼だ。



 無能のくせに。



 そう思った何人かのユピトクラン団員が、目つきを鋭くした。



 苛立った様子のディーヴァを見て、クオンがこう言った。



「ディーヴァ。


 キミの気持ちは分かるよ。


 だけど、もしここで追い払ったとしても、


 それで話が済むとは限らない。


 きちんと話し合った方が、


 後腐れが無くて良いんじゃないかな?」



「……分かりました」



 申し出が受け入れられたのを見て、ユピトが口を開いた。



「ありがとう。


 それじゃあ


 どこでお話をしましょうか?


 ここは少し、風当たりが強いわね」



「私のダンジョンではどうかな?」



 クオンが提案した。



「ダンジョン?」



「うん。私のダンジョンは


 人を襲うような魔獣は居ないし、


 気候も穏やかだ。


 悪くない所だと思うけど」



「良いわ。そうしましょうか」



 一行は、ダンジョンの階段に向かった。



 最初にクオンとディーヴァ。



 後にユピトと護衛。



 最後にソラテラスと護衛。



 その順番で、階段を下りていった。



 そして……。



 階段の終端で、ユピトがソラテラスに振り向いた。



「ねえ、ソラテラス」



「何ですか?」



「悪いわね」



 ユピトはからかうように笑った。



(大岩戸)



 古風なウィッチスタイルの魔術師、ユピトクランのカリストが、魔術を発動させた。



 普通、魔術というのは、即座に発動できるようなものではない。



 だが彼女は、特別な異能、『スキル』を持っていた。



 彼女のスキルの力は、マジックサークルの隠蔽。



 故に、ソラテラスクランの面々に気付かれることなく、魔術を成立させることができた。



 魔術によって、大岩が現れた。



 岩はソラテラスの行く手を塞いだ。



「な……!


 何のつもりですか……!?」



 ソラテラスが、驚きの声を上げた。



 岩と通路の隙間を通り、その声は、ユピトの耳にまで届いた。



 ユピトはソラテラスに言葉を返した。



「悪いけど、話の邪魔をされたくないのよ」



「騙したのですか……!?」



「騙す? ちゃんと約束は守っているでしょう?


 護衛のメンバーに、女しか連れてこなかった。


 あなたの敷地内で


 武力の行使もしていない。


 ……ここはクオンのダンジョンだものね。


 何か文句でも有るのかしら?」



 詭弁が過ぎる。



 そう思ったソラテラスは、怒りをあらわにした。



「有るに決まっているでしょうが……!」



 その怒りが、ユピトの心を揺らすことは無かった。



「そう? 残念ね」



 ユピトはソラテラスには興味を無くした様子で、クオンたちへと向き直った。



「……さて、クオン。


 ここはちょっと小うるさいわね。


 もっと奥の方へ行きましょうか」



「理性的な話し合いが行われる。


 そう思っていたんだけどね」



 クオンは残念そうに言った。



「平和に終わらせることも出来るわよ。


 そちらが条件を


 呑んでくれさえすれば」



 階段を下りきった一行は、ソラテラスたちを残し、奥へと進んだ。



 ユピトは物珍しそうに、平和なダンジョンを見回した。



「本当に、魔獣1匹居ないのね」



「そうだね」



 クオンは立ち止まり、ユピトへと振り返った。



「そろそろ本題に入ってもらえるかな?」



「そうね。


 私の望みは、ディーヴァ=ダッタ。


 彼を私のクランに欲しいの。


 了承してもらえるかしら?


 クオン=ダンジョンマスター」




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