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その6「忍びと調査」




「それはあなたからすれば、


 新人なんて


 みんな無能に見えるでしょうね」



「新人?


 あの男は、ダッタ家の長男です。


 ただの新人として扱うものでも


 無いと思いますが」



「けどあの子、レベルがたったの3だったわよ」



「え…………?」



 ぎくりとした様子で、カシオペイアは固まった。



「カシオペイア?」



「いえ……」



「まあ、昔の事は良いわ。


 とにかく、私はあの子が気に入ったの。


 カゲマル、あの子がどこのクランに居るのか


 調べておいて」



 ユピトはクラン幹部のニンジャにそう命じた。



「かしこまりました」



 全身黒装束のニンジャ、カゲマル=イガが、ユピトの言葉に頷いた。



 そしてフッと姿を消した。



 次にカシオペイアが口を開いた。



「ユピトさまは、


 あの男が使い物になると


 本当に思っているのですか?」



「どっちでも良いわ」



 ユピトは楽しげに答えた。



「…………」



「見たでしょう?


 あの美しさを。


 もし使い物にならなかったら、


 私のペットとして


 可愛がってあげるわ」



 ギルドでの用件を終えたユピトたちは、クランハウスへと帰っていった。




 ……。




 大都市エイトミリオンにたった一つの藁の家。



「ただいま帰りました」



 帰宅したディーヴァを、いつものようにクオンが出迎えた。



「うん。お帰りなさい。


 ……ディーヴァ。


 何か有った?」



 クオンはディーヴァを気遣う様子を見せた。



 ユピトたちとの出会いは、ディーヴァを不機嫌にさせていた。



 そのことが、クオンにも伝わってしまったらしい。



「まあ。


 ちょっと嫌いな奴に会っただけですけど」



 嘘をつきたくはないが、詳しく話したくもない。



 そう思ったディーヴァは、少しぼかした感じに言った。



「それは不運だったね。


 ん……?」



 クオンは一瞬、ぴたりと固まった。



「クオンさま?」



 クオンは藁から立ち上がると、家の外へと出て行った。



 そして、周囲をきょろきょろと見回した。



(気のせいかな……?)



 何も異常を見つけられなかったので、クオンは家の中へと戻った。



 そしてディーヴァに声をかけた。



「外に誰か居る気がしたけど、


 気のせいだったみたいだ」



「はあ。


 食事にしませんか?」



「うん」



 二人は質素な夕食を口にした。



 ……家の外。



 クランハウスの塀の上に、カゲマルの姿が有った。



 カゲマルは、ニンジャの技能によって、気配を極限まで薄めていた。



 常人であれば、彼の存在を察知するのは難しい。



 カゲマルの目的は、このまま完遂されるかと思われた。



 だが……。



 突如、カゲマルへと飛来する物体が有った。



 ぎらりと光る凶器は、三つ刃の投げナイフ、スリーケンだ。



「…………」



 カゲマルは、フッと姿を消した。



 塀にナイフが突き刺さった。



(逃がしましたか……)



 高いクランハウスの屋根から、女ニンジャが塀を見下ろしていた。



 彼女のニンジャクロスは、ソラテラスの髪色である桜色だった。



 彼女はソラテラスクランのニンジャリーダー、チヨメ=コウカだ。



 薄緑色の髪を持つ小柄な少女で、年齢は、ディーヴァと同じくらい。



 だというのに、彼女が放つ圧力は、ディーヴァなどとは比較にもならなかった。



 彼女の視線は、不審者が逃げ去った先へと向けられていた。



(とはいえ、あの身のこなし。


 正体を暴くのは、


 そう難しくは無いでしょうが)



 チヨメはソラテラスへの報告のため、屋上から姿を消した。




 ……。




 カゲマルは、ユピトクランのクランハウスへと帰還した。



 最大クランのクランハウスは、ソラテラスのクランハウスが霞むほどに大きい。



 そんな広大な屋敷のいっかくに、広々とした談話室が有った。



 談話室には、何人かの幹部と、幹部候補の姿も有った。



 マジメにダンジョンの話をする者、酒を飲み、賭博に興じる者。



 同じ幹部と言っても、過ごし方は様々だ。



「ただいま帰りました」



 ソファでくつろぐユピトに、カゲマルが声をかけた。



「お帰りなさい。


 それで、どうだった?」



「しくじりました。


 申し訳ありません」



「…………?


 あなたほどのニンジャが、


 新米ガーデナーの身元ひとつ、


 割り出せなかったというの?」



 カゲマルは、都市でも十指には入るニンジャだ。



 それくらいの力が無ければ、ユピトクランの幹部はつとまらない。



 少年一人の身元を探るなど、役不足が過ぎる。



 本来であれば、わざわざカゲマルが動くほどの事でもなかった。



 それでも彼が動くことになったのは、ユピトの道楽以外のなにものでも無い。



 成功は確実。



 そのはずだったのだが……。



 まさか失敗したというのか。



 ユピトは怪訝な目を、カゲマルへと向けた。



「いえ。


 少年の素性は調べ上げてあります」



「それじゃあ何が有ったの?」



「ソラテラスのニンジャと


 小競り合いになりました」



「どういうことかしら?」



「あの少年が、


 ソラテラスのクランハウスに


 入っていくのを目撃しました」



「けど彼は、


 ソラテラスのクランメンバーでは無い」



「男嫌いで有名ですからね。


 あのダンジョンマスターは」



 ソラテラスクランのメンバーは、一人残らず女性だ。



 都市で知らない者は居ないくらいに、その事実は有名だった。



「まあ、あの美貌を見れば、


 心変わりをしても


 おかしくは無いと思うけど。


 だけど、男云々を抜きにしても、


 彼の装備は、


 六大クランに所属する者としては


 お粗末すぎたわね。


 そこらへんの下位クラン並。


 いえ。それ以下だったわね。


 あの防具は。


 もし彼が


 大手クランに属しているというのなら、


 周囲のメンバーから、


 イジメでも受けているということになるわね」



 ソラテラスは、団員を大事にすることでも知られている。



 ディーヴァの装備だけを見ても、彼がソラテラスクランに属していないことは明らかだった。



「はい。


 それでクランハウスの塀に忍び、


 少年の動向をうかがうことにしました」



「それで忍びきれなかったと」



「面目ありません」



「仕方ないわ。


 ソラテラスにはあの


 チヨメ=コウカが居るんでしょう?


 コウカ家の珠玉。


 大げさに言ったものかと思ったけど、


 ……やっぱり天才か。


 けど、彼のクランは分かったんでしょう?」



「はい」



「話しなさい」



「少年は、


 クオンダンジョンクランに


 所属しているようです」



「クオン……?


 最も優しく最も無価値だと言われている、


 あのクオン=ダンジョンマスター?


 間違い無いの?」



「はい」



「クオンはソラテラスの所に


 居候しているという話だったわね……。


 男子禁制のクランハウスに


 彼が入れる理由にもなるか。


 けど、どうして彼は、


 無能のダンジョンマスターなんかに


 仕えているのかしら?」



「自分にはわかりかねます」



「そう。まあ良いわ。


 本人に聞けば済む話だものね」



 そのとき。



 クランメンバーの一人が、談話室に入ってきた。



 その男は、室内を少し見回した後、まっすぐにユピトに近付いてきた。



 ユピトの前に立つと、男は口を開いた。



「ユピトさま。


 ソラテラス=ダンジョンマスターさまが


 面会を求められているのですが」



「……足が早いわね。


 応接室に案内してちょうだい」



「はい」



 ユピトは談話室を出て、応接室へと向かった。



 するとソファに、キモノ姿の女性の姿が見えた。



 美しい桜色の髪を持つ彼女こそ、ソラテラス=ダンジョンマスター。



 大クラン、ソラテラスダンジョンクランのクランマスターだ。



 ソファの後ろには、ソラテラスの護衛が、二人控えていた。



 そのどちらもが女性だった。



 片方は少女で、もう片方は、背筋がしっかりと伸びた老女だった。



 ユピトはソラテラスの向かいのソファに座った。



 そしてアイサツをした。



「いらっしゃい。


 ソラテラス=ダンジョンマスター」



「ごきげんよう。


 ユピト=ダンジョンマスター」



 ソラテラスはアイサツを返したが、その表情は穏やかではなかった。



「こちらの用件は、


 言わずともわかっているのでしょう?」



「ええ。悪かったわね。


 うちのワンちゃんが粗相をしたようで」



「まったく。


 鼠のしつけくらいは


 まともにこなして欲しいものですね。


 ……それで?


 あのニンジャの行動は、


 彼の独断ですか?


 それとも……」



「私が命じたのよ。


 けど、目標はあなたじゃないわ」



「まさか、お姉さまが何か?」



「お姉さま?


 あなた、クオンのことをそう呼んでいるの?」



「いけませんか?」



「好きにすれば良いと思うけど……」



「それで? 何が目的なのですか?」






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