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その38「白状と手配書」



「ナイショ。


 ……というわけにはいかないかな?」



 ダメだろうなと思いつつ、クオンはそう尋ねた。



 それに対し、ソラテラスはこう返した。



「構いませんよ。


 理由がわかるまで


 チヨメに調べさせるだけですから」



「……そう。


 プライバシーの侵害は


 あまり感心しないけどね」



 チヨメはハイレベルのニンジャだ。



 そんな彼女が本気で隠密を行えば、自分では察知できないだろう。



 秘密はやがて暴かれてしまうに違いない。



 クオンはそう推測した。



 次にソラテラスがこう言った。



「私だって、


 無理なことをしたくはありません。


 ですが、今の状況は、


 明らかに常軌を逸しています。


 ダンジョンの階層は、


 生まれつきのモノ。


 後天的に変わることは無い。


 それが世界のコトワリのはずです。


 それが崩れたとなれば、


 放っておくことなどできません」



 ソラテラスとしても、クオンに嫌われるような事をしたくはない。



 だが、ソラテラスは六石の一員だ。



 世界の秩序を守るべき存在だ。



 六石筆頭のユピトは、あまり秩序の維持に真摯とは言えないが……。



 さておきソラテラス自身は、その使命を重く受け止めていた。



 クオンの変化は、世界の秩序を揺るがす発端になるかもしれない。



 そう考えているソラテラスには、引き下がるつもりは少しも無かった。



 対するクオンも、彼女の気持ちは理解している。



 これがクオンだけの問題なら、すぐに話しても構わなかった。



 だがこの問題は、クオン自身よりも、ディーヴァの人生に関わるものだ。



 ならば、ディーヴァ自身に判断させるべきか。



 クオンはそう考えた。



「うーん。


 どうしようか? ディーヴァ」



 クオンは日常会話でもするような調子で、ディーヴァに話を振った。



 クオンの問いに、ディーヴァはこう返した。



「クオンさまにお任せします」



「……そう」



 それからクオンは、深く考えずに答えを出した。



 あまり思い悩むようなことは、彼女の主題から外れているからだ。



「ここだけの事にしておいてくれるなら、


 話をしても良いよ」



 相変わらずの軽い口調で、クオンがソラテラスに言った。



 対するソラテラスの表情は真剣だった。



「わかりました。


 外には漏らさないと誓いましょう」



 ソラテラスが誓うと、クオンはチヨメの目を見た。



「チヨメ。


 キミも誓ってくれるかな?」



 するとチヨメは、無表情でこう言った。



「ソラテラスさまに誓います」



「うん……。


 実は、私がこんなふうになったのは、


 ディーヴァのしわざなんだよね」



「どういうことですか?」



「前にユピトがちょっかいをかけてきた時、


 ディーヴァはスキルに目覚めたんだ。


 その力が、


 ダンジョンを強化するものだったんだよ」



「そんな……!


 そんな力が


 本当に実在するのですか……!?」



「嘘をつくつもりなら


 もっとまともな嘘にするさ」



「……そうですね。


 ですが……それが本当なら……」



「うん。


 世界を揺るがす


 とんでもない力ということになるね」



「……………………!


 ディーヴァ=ダッタ……!


 私のダンジョンを強化しなさい……!」



「嫌ですけど」



 ディーヴァはつれなく言った。



「それではさっそく……


 ってどうしてですか!?」



「俺はクオンさまを


 最強にするって決めてるんです。


 他のダンジョンに


 手を貸すつもりはありませんよ」



「もちろん対価は払わせていただきます。


 いくらですか?


 いくら払えば、


 私のダンジョンを強化してくれるのですか?」



「だから、強化はしませんってば」



「どうしてですか!?


 お互いに得が有る


 取り引きでしょう!?」



「金も力も、


 このスキルで手に入れます。


 あなたの援助が欲しいとは思いません。


 ……ソラテラスさま。


 あなたは俺のことを、


 煙たく思ってたはずだ」



「それは……」



 痛い所を突かれて、ソラテラスは言葉に詰まった。



 ディーヴァは言葉を続けた。



「男の俺が、


 あなたの庭に入るのを、


 快く思ってなかった。


 ……それは良いですよ。


 そういう信条の人なんでしょう。


 あなたは。


 けど……。


 俺が力を持ってるって分かったからって、


 いきなり信条を曲げて、


 すり寄って来ないでくださいよ。


 そういうの、気持ち悪いんで。


 あなたは俺のことが嫌いで、


 俺もあなたには関わらない。


 今までどおりの関係でいてください。


 お願いします」



「っ……! ぐぐぐぐぐぅっ……!


 自分の立場がわかっているのですか……!?


 私は六石の末席で、


 あなたを遥かに超える力を持っています……!


 私がその気になれば、


 あのユピトのように、


 力づくで押さえつける事も出来るのですよ……!?」



「そうするつもりですか?」



「お望みなら、そうしてあげますが……!?」



「どうぞ」



「な……!」



 堂々としたディーヴァの態度に、ソラテラスは驚きを見せた。



「……………………」



 そして少しの間、苦い顔で固まった。



 彼女はディーヴァから視線を外すと、チヨメに声をかけた。



「チヨメ」



「はい」



「帰りますよ」



「よろしいのですか?」



「今日は気が乗りません。


 覚えておきなさい。ディーヴァ=ダッタ。


 この屈辱の報いを、


 いつか受けていただきますから」



 ソラテラスはそう言い捨てると、ディーヴァたちの隣を通り過ぎた。



 そして上り階段へと去っていった。



「っ……良いのかよディーヴァ……!?


 六石を怒らせちまうなんて……!」



 今まで事態を静観していたティエリが、焦った様子を見せた。



 せっかくクランを移籍したのに、叩き潰されてはたまらない。



「だいじょうぶだろ。多分」



 ディーヴァは平然とそう答えた。



「多分って……」



「本当に何かする気なら、


 ここでさっきやってたさ。


 後回しにしなくちゃいけない理由なんて


 特に無いんだからな」



 ディーヴァはソラテラスのことを、べつに好きではない。



 力だけを見て近付いてくるような者のことを、彼は好きになれなかった。



 だが、彼女を邪悪だと思っているわけでもない。



 むしろ善人の部類だと思っていた。



 そんな彼女が、自分に暴力をふるうことは無いだろう。



 ディーヴァは漠然と、そう信じていた。



「だと良いけど……。


 それにしてもオマエ、


 俺が思ってたよりずっと凄い奴だったんだな。


 ソラテラスさまから


 直々に頼みごとをされるなんてさ。


 ……断ったけど」



「実はな」



 クランの後輩に褒められて、ディーヴァはニヤリと笑った。



「俺なんかがこのクランに入って


 本当に良かったのか?


 不安になってきたぜ……」



「まあ良いだろ」




 ……。




 ディーヴァの元婚約者、パトラの部屋。



 部屋のあるじであるパトラが、そこでゆったりと寛いでいた。



 小さなテーブルのそばで、湯気を上げるティーカップを傾けていた。



 すると扉が開き、20歳くらいのメイドが入って来た。



 彼女はメリットという名で、何年も前からこの家で雇われている。



 パトラとも気心が知れた間柄だった。



「パトラさま」



 1枚の紙を手に、メリットはパトラに声をかけた。



「どうしたの? メリット」



「指名手配犯が


 あたりをうろついているようです。


 念のため、


 外出を控えるようにとの、


 旦那さまの仰せです」



「わかったわ」



「それと一応、


 犯人の手配書を置いておきます」



「そう」



 メリットは、手配書を丸テーブルに置いた。



 パトラは手配書を手に取った。



 手配書には顔写真や、犯人の罪状などがのせられていた。



 パトラは顔写真をちらりとだけ見ると、記された文面に目を移した。



 そして読み取った文章を、声に出していった。



「ヨドハナ。


 ガナーパダンジョンクランのサブリーダー。


 レベル41。


 ……特におもしろいモノでも無いわね。


 手配書なんて。


 罪状は……


 同クランのメンバーの殺害および


 クオンダンジョンクランの


 ディーヴァ=ダッタに対し……。


 …………。


 ディーヴァ……!?」





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