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その37「帰宅と発覚」



 やがて鏡は、過去を映し出すのをやめた。



「何だよ……」



 鏡から目を逸らせないまま、ティエリが口を開いた。



「何なんだよこれ!?」



 ティエリは叫んだ。



 そしてヨドハナを睨みつけた。



 ヨドハナは怯えたような顔で、ディーヴァから足を離し、後ずさった。



 ディーヴァの体が自由になると、クオンは彼に近付いていった。



 クオンはディーヴァの近くでしゃがみ込んだ。



 そして彼のポケットを探った。



 硬い物が、クオンの指に触れた。



 クオンはそれを掴み、外へと引っ張り出した。



 クオンの目に、回復ポーションの瓶が映った。



 彼女はフタを外すと、瓶の口を、ディーヴァの顔に近づけていった。



 そして瓶の中身を、ディーヴァの口に流し込んだ。



「う……」



 ディーヴァが声を漏らした。



 クオンは彼に声をかけた。



「ディーヴァ。もうだいじょうぶだよ」



「ヨドハナさん。今のは……」



 ガナーパクランの団員たちが、ヨドハナを見た。



 その顔には、困惑の色がありありと浮かんでいた。



「ち……違う……!


 こんなのはデタラメだ」



 ヨドハナは、焦った表情でそう言った。



 それを見て、クオンが口を開いた。



「誓えるかな?」



「え……?」



「鏡が見せた出来事が、


 事実無根のまやかしであると


 キミのクランマスターである


 ガナーパに誓えるかな?」



「それは……」



「ヨドハナさん……」



 ガナーパクランの疑惑の目が、ヨドハナに向けられていた。



 言い逃れをしなくては、クランでの立場を失う。



 そう考えたヨドハナは、こう言ってしまった。



「ち……誓うぜ!


 俺は断じて、


 ルドルフを殺したりなんかしちゃいねえ!


 鏡が見せたモノは、


 全部デタラメだ!」



(この場さえしのげれば、


 後はどうにでもなる……!


 どうせクランの連中は、


 俺には逆らえないんだからな……!)



「っ……! ヨドハナさん……!」



 クラン団員の一人が、驚きの声を上げた。



「あ? 何だよ?」



 ヨドハナが、疑問符を浮かべた。



 その団員の視線は、ヨドハナの手の方へと向けられていた。



 次に団員は、こう口にした。



「何って、イクサバナが……!」



「え……」



 そう言われて、ヨドハナも自分のイクサバナを見た。



 ヨドハナのイクサバナは、剣先の方から、ボロボロと崩れていた。



「俺のイクサバナが!?」



 ヨドハナが、驚愕の声を上げた。



 それを見て、クオンがこう言った。



「ふしぎかな?


 だけど、当然の事だよ。


 イクサバナとは、


 ダンジョンマスターとの契約による力だ。


 もし誓いが破られれば、


 その力は失われる」



「ヨドハナさん……!


 アンタやっぱり……!」



 クラン団員たちの表情に、怒りの色が混じろうとしていた。



 ヨドハナは、クランの副リーダーだ。



 クラン内部においては、大抵のことは許された。



 彼が外敵から、クランの仲間を守る力を持っていたからだ。



 だが仲間殺しとは、大罪中の大罪だ。



 たとえ力が有ろうが、見過ごされるものでは無かった。



 ルドルフを殺めたのが真実なら、ヨドハナはガナーパクランの敵だ。



 除くべきものだ。



「ち……ちが……」



 弁解をしなくては。



 ヨドハナはそう考えたようだが、うまい言葉は出てこなかった。



「ヨドハナ……!」



 怒りに満ちた声が、ヨドハナに向けられた。



 若い声だった。



 ヨドハナは、声の方を見た。



 するとティエリがナイフを拾い上げているのが見えた。



 それはヨドハナのナイフだった。



 さっきディーヴァが刺されたナイフだ。



 ルドルフ殺害の凶器でもあった。



「よくも俺の親父を……!」



 ティエリはナイフを手に、ヨドハナに近寄ろうとした。



 それを止めようとする者は、誰一人としていなかった。



「くっ……くそおおおおおおっ!」



 悔しさに満ちた叫び声を上げ、ヨドハナは走り出した。



 ティエリたちに背を向けて、クランハウスの庭から逃げ出していった。



「逃げるな! この人殺し!」



 ティエリはヨドハナを、追いかけようとした。



 だが、何かに気付いた様子で足を止めた。



「そうだ……。ディーヴァは……?」



 ティエリはディーヴァの方へと向かった。



 気遣わしげな彼女に、クオンが声をかけた。



「回復ポーションは飲ませた。


 命に別状は無いだろう。


 とはいえ、傷が深かったみたいだ。


 回復ポーション1本では


 完治には到らなかったらしい」



「俺のイクサバナで……。あ……」



 自分のイクサバナなら、怪我を治療できる。



 そう考えた直後、ティエリはイクサバナを失ったことを思い出した。



 それで彼女は、クオンにこう頼んだ。



「クオンさま。


 今すぐ俺をクランメンバーにしてくれ!」



「それは構わないけど、


 マスターを変えた場合、


 前と同じイクサバナが


 発現するとは限らないよ」



「良いから、早く!」



「わかった」



 クオンはティエリの前に立った。



 ティエリは跪いた。



 クオンの手が、ティエリの頭上にかざされた。



 ティエリの足元に、プランターサークルが出現した。



 そこからイクサバナが出現した。



 現れた短刀は、前のイクサバナと同じ形をしていた。



「同じだ……!」



 ティエリは安堵の表情を浮かべた。



 それからすぐに、剣先をディーヴァへと向けた。



 そして唱えた。



「散華、『瑠璃護光』」



 ディーヴァの体が、青い光に包まれた。



「う……」



 ディーヴァは上体を起こした。



 普通に動ける程度には、傷が癒えてきたらしい。



「ディーヴァ……! 良かった……!」



「ティエリ。助かった。


 クオンさまも、ありがとうございました」



「無事で何よりだ。


 さて、ホームで休みながら


 ゆっくり話すとしようか」



「わかりました」



 ディーヴァは立ち上がった。



 そしてガナーパのクランハウスに背を向けた。



「ティエリ……!」



 ガナーパクランの団員が、ティエリを呼び止めてきた。



「悪かった……!」



 団員の一人が頭を下げた。



 それを見て、他の団員たちも頭を下げた。



 ティエリは彼らの方へ振り向いて、こう言った。



「いまさら言われても困る」



「そうか……。そうだな……。


 ……元気でやれよ」



「言われなくても」



 ティエリはかつての仲間たちに背を向けた。



 そして、ディーヴァたちと共に、ガナーパクランハウスから去っていった。



 その後三人は、クオンのクランハウスへと移動した。



 藁の上に座り、三人は三角形を作った。



「そういうわけで、


 これからよろしくな。ディーヴァ。クオンさま」



 ティエリが微笑んで言った。



 それに対し、ディーヴァはこう言った。



「ウチで良いのか?


 ソラテラスさまのクランに保護してもらった方が


 良いと思うけどな」



「いやいや。


 俺なんかが六石のクランに


 入れてもらえるわけが無いだろ?」



「いや。あの人は


 おまえみたいな女には


 優しいからな。


 ちゃんと事情を話せば


 助けてくれると思うぞ」



「ふーん……?


 けど、まあいいや」



「ホントに良いのか?」



「だってオマエ、危なっかしいんだもん。


 怪我ばっかりしてさ。


 俺みたいな


 回復ができるメンバーが


 居た方が良いだろ?」



「まあ、今日は助かったよ」



「だろ? そういうわけで頼んだぜ」



「わかったよ。


 良いですよね? クオンさま」



「構わないけど。


 ただ、私たちのクランに入るなら、


 一つだけ約束して欲しいことが有る」



「約束って?」



「ディーヴァのスキルのことを、


 外に漏らさないようにして欲しい」



「スキル? うん。わかった。


 それで、どんなスキルなんだ?」



「ダンジョンで話そうか」



 三人は、クオンダンジョンへと向かった。



 庭の階段を下り、ダンジョンの1層に入った。



 すると……。



「お姉さま」



 ダンジョンに、ソラテラスが立っていた。



 その隣には、チヨメの姿も見えた。



「誰?」



 ティエリはソラテラスたちとは初対面だ。



 それでディーヴァにそう尋ねた。



「この人がソラテラスさまだ」



「ええっ!?」



 ティエリのことは気にせずに、ソラテラスが口を開いた。



 彼女は真剣な表情で、クオンにこう尋ねた。



「これはいったいどういう事なのですか」



「何の話かな?」



 のんびりとした口調で、クオンは尋ね返した。



「どうしてお姉さまのダンジョンに


 2層が有るのかと聞いているのです……!」






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