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その31「ティエリとヨドハナ」



「そろそろ決めさせてもらうぜ」



 遠距離攻撃を無効化し、ディーヴァはやる気を見せた。



「舐めやがって……!


 パトロック!」



 アクタに声をかけられ、パトロックは剣先をディーヴァに向けた。



「……散華!」



 パトロックのイクサバナから、5枚有った花びらが、1枚散った。



 剣の先端で、何かが光った。



「っ……!」



 痛みと共に、ディーヴァの体勢が崩れた。



 ディーヴァは自身の肩を見た。



 そこに針が刺さっているのが見えた。



 イクサバナに創られた針は、すぐに光を放って消えた。



「『常楽我浄』……!」



 ディーヴァは再び、散華を発動させた。



 残っている花びらを、全て散らせる。



 そうすると、パトロックのイクサバナも、花びらがゼロ枚になった。



「クソ……! 俺のイクサバナも……!


 ヘクトル……!」



 花びらを失ったパトロックが、ヘクトルに声をかけた。



「あ、ああ……!」



 ヘクトルがイクサバナを構えた。



「させるかよ!」



 これ以上、好き勝手にさせてたまるか。



 そう思ったディーヴァは、ヘクトルに突っ込んだ。



 イクサバナに頼ろうとしたヘクトルは、防御がおろそかになっていた。



 急な突撃に対応ができない。



 ディーヴァの靴底が、ヘクトルの顎に突き刺さった。



「ぐふっ……!」



 ヘクトルは蹴り倒された。



「ヘクトル……! ぐあっ!?」



 ディーヴァは剣の腹で、パトロックの手を叩いた。



 刃を使わなくとも、素手を金属で叩かれれば、たまったものではない。



 パトロックの手から、剣がこぼれおちた。



 その隙に、ディーヴァはハイキックをはなった。



「ぁ……」



 顎をつまさきで打たれ、パトロックは倒れた。



 残りはアクタ一人になった。



「くそっ!」



 ディーヴァの剣が、アクタの剣を弾き飛ばした。



「あがっ……!」



 さらに首に、剣の腹を叩き込んだ。



 それに耐え切れるほど、アクタは頑丈では無かった。



 ディーヴァに向かってきた敵は、三人とも打ち倒された。



 部屋の中で立っているのは、ディーヴァとティエリの二人だけになった。



「すげえ……。3人に勝っちまいやがった……」



 見事な勝利を収めたディーヴァを見て、ティエリは感嘆の声を上げた。



「……勝ったのか」



 ディーヴァは呟いた。



「え?」



「俺、こいつらに勝ったんだな……。


 おい、ティエリ」



「何?」



「ここに放置してたら魔獣のエサだ。


 広場まで運ぶぞ」



「こんな奴ら、助ける必要ある?」



「無いかもな」



 ディーヴァとしても、こんな連中は死ねば良いと思っている。



 だが、嬉々として人を殺したいとも思えなかった。



「良いから手伝え」



「わかった」



 ディーヴァたちは、三人を広場まで運んだ。



 雑に運んだので、ちょっと傷が増えたかもしれない。



 そんなことは、ディーヴァからすれば、知ったことでは無かった。



 ディーヴァは広場から去ろうとした。



「こいつら放っとくのか?」



 ティエリがディーヴァに尋ねた。



「心配なら、おうちまで送ってやれよ」



「そうじゃなくて、衛兵に突き出すとかさ」



「どうだろうな。


 この町の衛兵たちは、


 ガーデナーの小競り合いには鈍感だ。


 それに、もし裁判にでもなってみろよ。


 当事者の俺たちは


 証人喚問くらうぜ。


 面倒くせー」



「あっ……! 待ってくれよ……!」



 去ろうとするディーヴァを、ティエリは追った。



 ティエリはディーヴァの隣に並んだ。



 ディーヴァは無言のまま、黙々と歩いた。



「その……ごめん」



「何がだよ?」



「あんなに強いのに、落ちこぼれとか言って」



「べつに。


 家で落ちこぼれだったのは事実だしな。


 学校でのことは、


 根も葉もない噂だけど」



「悪かったって」



「だから怒ってないっての。


 じゃあな」



 ティエリをうっとうしく思ったのか、ディーヴァは足を早めた。



「待ってくれよ。


 ギルドに行くんだろ?


 俺、換金って初めてなんだ。


 一緒に付き合ってくれよ」



「めんどくさ」



 ディーヴァは嫌そうな顔をした。



 だが、ティエリを追い払うことはしなかった。



 二人は一緒にギルドに入った。



 ディーヴァはカウンターを指差して、ティエリにこう言った。



「あの人、コマネさんは


 力の無い新人にも


 優しいから、


 仲良くしておくと良いぞ」



「分かった」



 二人はカウンターに向かった。



 二人とも、コマネの居る列に並んだ。



 そして魔石を換金した。



 ディーヴァの儲けは3000シーズだった。



 2層で戦っていた頃と比べれば、格段に儲けは上がっていた。



 とはいえ、ホームダンジョンでの儲けと比べると物足りなかった。



 次にティエリが魔石を換金した。



 そして換金が終わると、ディーヴァに近付いてきた。



「……たった400シーズだって。


 ガキの小遣いかよ……」



 落胆を隠せない様子で、ティエリはそう言った。



「初日にしては上出来だ」



 師匠が居ないディーヴァの初日は、もっと酷いものだった。



 それと比べれば、ティエリは良くやっている。



 ディーヴァはそう思っていた。



「これじゃあ昼の弁当代にもなりゃしないよ」



「硬いパンと、


 すっぱいジュースが買える。


 それで飢え死にだけはしなくて済む」



「……それじゃあダメだ」



「気持ちはわかるぜ。


 そこいらの下働きでも


 1日働けば5000シーズにはなる。


 それを俺たちは


 命がけで1日戦って


 その半分にも行かないのかよってな。


 けど……」



 ガーデナーは、高給取りだと言われている。



 トップガーデナーの収入は、都市の平均収入と比べ、桁違いに多い。



 とはいえ、それは上澄みの話だ。



 かつてのディーヴァのような底辺のガーデナーたちは、食うにも困るような生活をしている。



 たとえ命をかけても、実力の無い者に、大金を掴むことなどできない。



 それが現実だった。



「後ろ盾の無いガーデナーってのは、


 最初は皆そんなもんなんだ。


 ガーデナーになるって


 決めちまったからには……」



「俺は好きでこんな事を


 やってるんじゃない……!」



 ティエリはディーヴァの言葉に、強い反発を見せた。



「ティエリ……?」



 突然の激情を前に、ディーヴァは疑問符を浮かべた。



 そのとき……。



「ティエリ。探したぞ」



 大柄の男が、ティエリに近付いてきた。



 年齢は、40歳ほどだろうか。



 骨格も筋肉もがっしりとして、体毛や髭が濃い。



 戦士然とした、マッチョな男だった。 



「誰だ?」



 ディーヴァが男に尋ねた。



 すると男が口を開いた。



「ティエリ。誰だこの……。


 いや……そのお綺麗な顔、


 おまえがディーヴァ=ダッタか」



「そうだが。アンタは?」



「俺はヨドハナ。


 そこに居るティエリの父親代わりだ」



「嘘つけ」



 ディーヴァは決め付けるように言った。



「あ?」



 ヨドハナの表情が歪んだ。



(こいつからは……


 アクタたちと同じ臭いがする)



「まともな保護者の居るやつが


 一人でアディスに潜ったりするかよ。


 命がけで戦うこいつに


 何の手助けもせずに


 何を保護者ヅラしてやがる」



「クランには


 それぞれのやり方ってもんが有る。


 部外者は口を出さないでもらおうか。


 来い。ティエリ」



「っ……」



 ヨドハナは、ティエリを連れて去ろうとした。



 それをディーヴァは呼び止めた。



「待てよ」



「まだ何か有るのか?」



「俺とティエリは


 パーティを組んだんだ。


 彼女は俺と行動する。


 部外者は口を出さないでくれ。


 ……行くぞ。ティエリ」



 ディーヴァはティエリの手を引いた。



「あっ……」



 二人はギルドの出口に向かった。



「ティエリ……!」



 ヨドハナが、ティエリの背中に声をかけた。



「そんな顔だけの落ちこぼれが良いのか。


 ザコに媚を売っても


 借金を返せなきゃ、


 おまえはずっとそのままだぞ。


 俺と来い。


 おまえを救ってやれるのは俺だけだ」



「っ……」



 二人は外に出た。



 ディーヴァはティエリへと振り返り、尋ねた。



「俺よりも


 あのオッサンの方が良かったか?」



「ううん。


 あいつのことは大嫌いだよ」



「若いのに借金が有るのか?」



「うん……。聞いてくれる?」



「そうだな。立ち話もアレだし、


 クランハウスに来るか?」



「うん」



「その前に……まずは食いもんだな」



 ディーヴァは通りを歩き、食料品店に寄った。



 そこで食料を購入すると、クランハウスへと向かった。



 そして立派な門を通り、庭へと入っていった。



「えっ……!?


 これがディーヴァのクランハウス……!?」



 立派な大邸宅を見て、ティエリが驚きの声を上げた。



「違うけどな。


 俺たちの家はあっちだ」



 ディーヴァは庭の隅を指差した。



 そこに小さな藁の家が有った。



「えっ……!?


 これがディーヴァのクランハウス……!?」



 粗末な小邸宅を見て、ティエリが驚きの声を上げた。



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