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その27「間合いとレクチャー」




「お上品にするのも良いが、


 少なくとも


 俺から教わってるうちは


 まともなEXPは


 おまえには入らんぞ」



「えっ? どうして?」



「ガーデナーは


 レベルが高い方が、


 EXPを吸う力が強いんだ。


 俺の方が


 レベル1のおまえよりも


 かなりレベルが高いからな。


 魔獣を倒して出たEXPは


 ほとんど俺が吸って


 おまえの方には流れない」



 魔獣が死ぬと、EXPが放出される。



 放出されたEXPは、近くに居る人に吸収される。



 EXPを吸うのに、意識して何かをする必要は無い。



 無意識にEXPを吸収する力を、人は生まれつき持っている。



 そしてその力は、その人が持っているレベルに比例する。



 ガーデナーからすれば常識だが、この少女はそんなことも知らないらしい。



 無知な少女が、たった一人でアディスに居る。



 その事実が、ディーヴァの内心を沈ませた。



「専用の魔導器を使えば


 俺がEXPを吸わないようにもできるが、


 そんな高級品、


 俺は持ってないんでな。


 口の中で魔石を砕けば、


 ほとんどのEXPを


 自分で吸い取ることができる。


 早く強くなりたいなら、


 素直にイシを食っておいた方が良いぞ。


 どうしてもそのまま食うのが嫌なら、


 広場に行って水道でも使え」



「……食うよ」



 少女は魔石を口に放り込んだ。



 そして思い切り噛んだ。



 がりっと痛そうな音が鳴った。



「かひゃい……」



「なんとかしろ」



 レベル1の少女にとっては、魔石は少し硬い。



 苦労して、噛み砕いていった。



 砕かれた魔石は、魔素へと転じた。



 口内に満ちたEXPを、少女は吸収した。



 そしてこう言った。



「強くなってやる」



「そうか。次行くぞ」



「うん……」



 二人は歩き、魔獣を探した。



 するとまた、同じネズミを発見した。



 ディーヴァは少女より前に出ると、こう言った。



「あいつの攻撃を避けるから、


 ちゃんと動きを見ておくんだぞ」



「わかった」



 ディーヴァはネズミの攻撃を誘った。



 魔獣の攻撃を、最低限の動きで避ける。



 ネズミはディーヴァに対し、何度も隙を晒した。



 いつでも倒せたが、反撃はしない。



 ディーヴァはひたすらに、攻撃を回避していった。



 その途中で、彼は少女に声をかけた。



「わかるか?


 ネズミが跳びかかってくる前の


 予兆みたいなもんが」



「なんとなく……」



「それじゃあ交代だ」



「えっ……!?」



 ディーヴァはスッと後ろに下がった。



 少女の後ろまで。



 矢面に立たされた少女に、魔獣の殺意が向かった。



 殺意にさらされた少女の背に、ディーヴァは声をかけた。



「やってみせろよ」



「っ……! やってやるよ!」



 少女はネズミを見た。



 ネズミが少女に突進をしかけた。



「っ……!」



 少女は地面を蹴り、突進を回避した。



 そしてネズミに向かって構え直した。



「良いぞ。もう何回かやってみろ」



 少女はネズミの攻撃を待った。



 彼女は次の攻撃も、無事に回避してみせた。



「良し」



 回避するだけなら、もう問題は無さそうだ。



 そう思ったディーヴァは、こう指示を出した。



「コツが掴めてきたら、


 避けた隙に、イクサバナで攻撃するんだ」



「うん!」



 ネズミが少女に跳んだ。



 少女がそれを回避することで、ネズミに隙ができた。



 その隙に、少女は攻撃を加えた。



 少女のイクサバナが、ネズミの毛皮を裂いた。



 ネズミの傷口から魔素が漏れた。



「やった……!」



 初めて攻撃が成功した。



 何か偉業でも達成したかのように、少女は喜びの声を上げた。



「油断するな!」



 気の弛んだ少女を、ディーヴァは叱りつけた。



「えっ」



 次の瞬間。



 ネズミが素早く方向転換した。



 そして自慢の長い爪で、少女に攻撃をしかけてきた。



「ぐっ……!」



 少女はナイフで爪を受けた。



 その直後、ディーヴァがネズミを斬り殺した。



「魔獣は殺意の塊だ。


 ちょっと攻撃を受けたくらいで


 戦意を失ったりはしない。


 攻撃を当てた直後が


 1番危険なんだ。


 覚えとけよ」



「……うん。ありがとう」



「それじゃあ次を探すぞ」



 二人はまた魔獣を探した。



 ネズミを発見すると、ディーヴァは少女の後ろに下がった。



「次は油断せずに行けよ」



「うん!」



 元気良く、少女はネズミに向かっていった。



 戦闘が開始された。



 少女は攻撃を回避しながら、ネズミに攻撃を加えていった。



 今回は、攻撃の後も油断はしない。



 着実に、攻撃と回避を積み重ねていった。



 1層の魔獣というのは、それほど頑丈なものではない。



 何度か斬られると、地面に崩れ落ちた。



 そしてそのまま立ち上がれず、体を消滅させた。



 魔石が落ちた。



 少女の勝利だった。



「やった……! やったよ俺!」



 少女は初勝利の喜びを、ディーヴァへと向けた。



「そうだな」



 ディーヴァは少女に微笑みを返した。



 たった1勝したくらいで、休んではいられない。



 二人はさらに魔獣を探した。



 敵が群れで出た場合は、ディーヴァが間引く。



 少女は1対1の戦いを繰り返し、勝利を積み重ねていった。



「もう、1対1はだいじょうぶそうだな」



 何度目かの勝利を果たした少女を見て、ディーヴァがそう言った。



「ああ。任せといてくれよ」



「それじゃあ次は、


 敵が複数居る場合の


 戦い方を教えていくぞ」



「うん」



「敵が何体も居る時は、


 間合いを管理するのが


 重要になってくる」



「どういうこと?」



「間合いって言葉の意味はわかるよな?


 攻撃が届く距離とか、


 そういう意味だ」



「それは分かるけど」



「一対多のときは、


 たくさん居る相手のうち、


 1体だけを


 間合いに入れて戦わないといけない」



「えっと……?」



「また実践してみせた方が早いか」



 ディーヴァは言葉だけでの説明を諦め、索敵を再開した。



 やがて2体のネイルラットを発見した。



 ディーヴァは前へでた。



 ディーヴァに気付いたネズミたちが、彼に殺意を向けた。



「俺は今、


 近くに居る方のネイルラットの


 間合いギリギリの位置に立ってる。


 わかるか?」



「うん」



 近くに居る方のネズミが、跳びかかってきた。



 ディーヴァは軽々と、それを回避した。



 そして反撃はせず、少女に向かって言った。



「こうして回避できたら、


 1対1と同じように


 こっちの攻撃が入る。


 けど、立ち位置がまずいと


 そういうわけにはいかなくなる」



 ディーヴァは魔獣に対し、さきほどと同じような位置関係をたもった。



 すると……。



 遠くに居た方のネズミが、間合いまで近付いてきた。



 それを見て、ディーヴァがこう言った。



「俺は今、


 2体の敵、両方の間合いに入った」



 遠くに居た方のネズミが、とびかかってきた。



 それを回避すると、もう片方のネズミも、ディーヴァにとびかかってきた。



 2体の攻撃を回避すると、ディーヴァはこう言った。



「両方の間合い内に居ると、


 どっちが先に攻撃してくるのかわからない。


 あるいは、


 同時にかかってくる事も有る。


 2体両方に意識を割くと、


 こっちの動きが鈍くなる。


 ミスが増えて、


 やられる可能性が高くなる。


 だから……」



 ディーヴァはバックステップした。



 そうして片方のネズミの間合いから外れた。



 ディーヴァを間合いにおさめているネズミは、1体だけになった。



「両方の間合いに入ったら、


 急いで片方の間合いを外す。


 そして、間合いに入っている方の魔獣に


 回避の意識を集中させる。


 間合い外の魔獣に対しては、


 うっすらと位置を把握できていれば良い」



 また攻撃が来た。



 回避と同時に斬って倒した。



 残った方の敵も、サックリと始末した。



「こうして


 擬似的な1対1を作り、


 敵を倒していく。


 とはいえ、


 あるていど階層を下ると、


 このやり方も通用しにくくなってくるけどな」



「どうして?」



「敵が飛び道具を


 使ってくるようになるからさ。


 そういう魔獣にとっては、


 ルーム全体が間合いの中だ。


 ちょっと距離を取ったくらいじゃ


 どうしようもなくなる」



「えっ? それってどうすんのさ?」




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