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その22「アイテムショップとお高い商品」



 値段の暴力に負けた二人は、冒険者用のアイテムショップに向かった。



 入店すると、二人で品々を見て回った。



 まるでデートみたいだ。



 ひょっとしたら、恋人同士に見えるだろうか。



 ディーヴァは内心でウキウキしたが、それを表には出さなかった。



 意識して冷静な表情を作り、品々を見定めていった。



 アイテムショップの商品は、実に種類が豊富だ。



 何が売っているのか確かめるだけでも一仕事だった。



 やがてディーヴァは、ポーション売り場のあたりで足を止めた。



「これは……耐火のポーションか。


 すいませーん」



 ディーヴァは店員に声をかけた。



 そしてこう質問した。



「このポーションって、


 バーニングファングラビットに


 全身を丸焼きにされても耐えられますか?」



「お客様」



 女性店員が口を開いた。



 ……珍妙な客に慣れているのだろうか。



 彼女は平然と、ディーヴァの質問に答えた。



「申し訳ありませんが、


 このポーションは、


 あくまで魔力によるダメージを


 何割か軽減するだけのものであって、


 致命傷になるようなダメージを


 軽傷で済ませるような効果は


 存在しません」



「何割か……。


 焼け死ぬまでの時間が


 ちょっと伸びたりはしませんか?」



「焼け死んだ事が無いので


 わかりかねます」



「そうですか……」



 質問が終わると、ディーヴァは店員から意識をはなした。



 そして自分の世界へと入っていった。



 悩んだ様子のディーヴァに、クオンが声をかけてきた。



「ディーヴァ。どうするんだい?」



「試してみたい気持ちは有るんですが、


 値段が……」



 ディーヴァがそう言うと、クオンは棚の値札を見た。



「16000シーズ。


 なかなかだね」



「はい。0、8テレポートラビットです」



「何かな? その物差しは」



「今の俺たちの収入源なので。一応」



「そう悩まなくても良いと思うけどね。


 通常の魔獣は、


 22時間に1度リポップする。


 1日に1ビン使っても、


 私たちの生活が困窮することは


 無いんだから」



「……分かりました。


 これください!」



 クオンに後押しされたディーヴァは、気合と共にポーションを購入した。



 そしてクオンダンジョンへと向かった。



「あちちちちちちち!」



 ディーヴァは耐火ポーションを飲み、大魔獣へと飛び乗った。



 大魔獣の炎は、容赦なくディーヴァを焼いた。



 ポーションの効果など、焼け石に水。



 ディーヴァは焼け死んだ。



「16000シーズがゴミになりましたね」



 クオンの足元に寝転んで、ディーヴァはそう言った。



 彼の表情は、散財のショックを隠せてはいなかった。



 それに対し、クオンはのほほんと言った。



「そう悲観することは無いよ。


 私たちはまた一つ、


 素晴らしきムダ知識を


 得ることができたんだから」



「……そうですね」



 口先ではそう言ったが、ディーヴァの表情は呆然としていた。



「だいぶショックを受けているようだね。


 今日はもう休もうか」



「……はい。ダンジョンに潜ってきます」




 ……。




 翌日。



 ディーヴァはトラップを活かし、再出現したテレポートラビットを撃破した。



 そしてクオンの所に戻り、レベルチェックをした。



「レベル16になったよ。おめでとう」



「……はい」



 めでたいレベルアップだというのに、ディーヴァは気難しい顔をしていた。



「どうにも浮かない顔だね」



「10層の大魔獣に


 あそこまで苦戦するなら、


 先にテレポートラビットを


 追加しておいた方が


 良かったのかなと思いまして。


 大魔獣を倒さないと、


 魔獣の配置はできませんからね」



「大魔獣と戦いはじめてから、


 まだ二日目だろう?


 まだまだ悲観するような段階じゃないさ。


 またアイテムショップにでも行ってみようよ」



「……わかりました」



 二人はダンジョンを出ると、まずはギルドへと向かった。



 そこで魔石を換金すると、アイテムショップに移動した。



「うーん……」



 商品棚を眺めながら、ディーヴァは唸った。



「どうかな? ディーヴァ」



「あたりまえですけど、


 良さそうなアイテムは高くて、


 そうじゃないアイテムは安いって感じなんですよね」



「まあ、それは仕方が無いよ。


 それで、どんなアイテムを


 良さそうだと思ったのかな?」



「これとか……」



 ディーヴァは透明な瓶を指差した。



 瓶の中には、色のついた液体が入っていた。



 見た目は回復ポーションに似ている。



 だが、棚に書かれた商品名を見れば、回復薬とは別物だということが分かった。



「『マナオイル』?」



 クオンは商品名を読み上げた。



「はい。武器にふりかける事で


 自分に魔術の才能が無くても


 魔力を帯びた攻撃が


 できるようになるアイテムです」



「なるほど。便利そうだね。


 それで気になるお値段は……」



「32000シーズ。


 1日に1匹


 テレポートラビットを倒しても


 足が出ますよ」



 その値段は、前にゴミにした耐火ポーションの倍だ。



 その耐火ポーションを無駄にした時ですら、心が落ち込むのを止められなかった。



 マナオイルが無駄になれば、どれほどのショックを受けるだろうか。



 このような高級品は、自分の身の丈には合わないのではないか。



 ディーヴァはそう考えていたが……。



「うん。良いんじゃないかな?」



 クオンはあっさりとそう言った。



「えっ? 良いんですか?」



「今の1番の目的は、


 大魔獣を倒すことだろう?


 二日ぶんの働きで


 それができるんだったら


 十分な戦果じゃないかな?」



「それは勝てたらの話ですよね?


 もし負けたら、


 1、6テレポートラビットが


 ドブに沈みますよ」



「それまだ使うんだ?


 まあ、このまま毎日


 テレポートラビットを狩って、


 強力な装備や魔導器を手に入れてから


 着実に挑むというのも


 良いかもしれないね。


 キミのやりたいように


 すれば良いと思うよ」



「はい……」



 その日は何も買わずに、二人は家へと帰った。



 それからディーヴァはダンジョンに戻り、魔獣を狩った。



 その翌日。



 ディーヴァはまた、再出現したテレポートラビットを狩った。



 そして魔石を回収し、クオンからレベルチェックを受けた。



「レベル17だね。おめでとう」



「はい。あの……クオンさま」



「マナオイルのことかな?」



「……はい。


 やっぱり俺、


 あれを1回ためしてみたいです」



「うん。やってみると良いよ」



 二人はアイテムショップに向かった。



 そして。



「これください!」



 ディーヴァは気合と共に、カウンターに商品を置いた。



 そして32000シーズを払い、商品を受け取って帰宅した。



 ダンジョンに戻ったディーヴァは、買ったばかりのマナオイルを見ながら言った。



「っ……買ってしまいましたね」



「買ってしまったねえ」



 クオンは相変わらず、のほほんとしていた。



 ディーヴァが現金をいくら失おうが、特に思うことは無い様子だった。



 ディーヴァはマナオイルの瓶を、ポケットへと入れた。



「い……行ってきます……!」



 32000シーズの重みを感じながら、ディーヴァは前進しようとした。



「待ちなさい。ディーヴァ」



「えっ……!?


 何か忘れ物とか……!?」



 呼び止められたディーヴァは、慌てた様子で体をペタペタと触った。



「そうじゃなくてね。


 そんなガチガチになっていては、


 勝てる戦いにも勝てないよ。


 ちょっと温泉でもキメて、


 リラックスしていきなさい」



「……わかりました」



 クオンの助言に従い、ディーヴァは温泉に入った。



 30分ほど体を温めると、彼は温泉から出た。



 そして服を身につけると、クオンの所へ向かった。



「落ち着いたかな?」



「少しは」



「まだちょっと


 緊張が残っているようだね。


 それなら……


 そこに座って。ディーヴァ」



「クオンさま……?」



 疑問を抱きつつも、言われるままに、ディーヴァは座った。



 するとクオンは、ディーヴァの隣に腰かけてきた。



「よしよし。良い子良い子」



 クオンの手が、ディーヴァの頭を撫でた。




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