その19「トラップと運試し」
ディーヴァの体が、クオンの足元に出現した。
「瞬殺されました……」
「うん。見てたよ。
手強そうだね」
「はい。まあとりあえず、
何回か殺されてみようと思います」
「命は投げ捨てるモノでは
無いと思うけどね」
そんなクオンの言葉は無視して、ディーヴァは兎の所に向かった。
テレポートラビットが居るルーム。
「はあっ!」
ディーヴァはまっすぐに、兎に斬りかかった。
前回と同様に、兎の姿が消えた。
次の瞬間。
転移した兎が、雷をはなってきた。
「くっ……!」
ディーヴァは即座に地面を蹴った。
前回とは違い、無事に攻撃を回避することができた。
ディーヴァは再び攻撃をしかけた。
斬りかかると、また兎は転移する。
そして、反撃の雷が放たれる。
ディーヴァもそれを、なんとか回避した。
どちらの攻撃も当たらない。
回避合戦が続いた。
だが、余裕の有る兎に比べ、ディーヴァの回避はギリギリだった。
やがて向こうの攻撃が当たり、殺されてしまう。
そんな戦いを、10回以上も繰り返した。
「あまり進展が見られないようだけど……」
ベイルアウトしたディーヴァを見下ろして、クオンがそう言った。
「そうですね。
やっぱり、普通に戦っても
今の俺だと厳しいみたいです」
「この状況は
計画に織り込み済みだということだね?」
「はい。いくら俺でも、
何の勝算もナシに
10万シーズをドブに捨てませんよ」
「どうするのかな?」
「俺のスキルの力で、
テレポートラビットが居る部屋に
トラップを配置します。
うまくトラップを踏ませることができれば、
今の俺でも
格上の魔獣に勝てるはずです」
「なるほど」
クオンはガッテンした様子を見せた。
だが同時に、疑問も浮かんできた。
「それは分かったけど、
10回も死ぬ前に
最初からそうしていれば良かったんじゃないかな?」
「いやー。なんか、
頑張ったら行けるかなーって」
罠の力に頼らず、自力でテレポートラビットを倒してみたい。
ディーヴァには、そんな願望が有ったのだった。
「……前向きなのは良い事だね」
「それじゃ、行ってきます」
ディーヴァは転移陣を使い、コアルームへと向かった。
そしてスキルを使用した。
(今のダンジョンレベルだと
追加できるトラップは
合計で五つ。
移動用の転移トラップを
二つ設置してるから、
三つまでしか設置できない。
まずは転移陣を破棄して、
まっさらな状態に戻す。
設置するトラップは……これで良いか)
ディーヴァは作戦に基づいて、トラップを設置していった。
(帰りは足になっちゃったな。
まあ良いけど)
対テレポートラビットにリソースを回したため、転移陣は撤去することになった。
おかげで2層まで、走って向かうことになった。
ディーヴァは走りながら、1層のクオンに呼びかけた。
「クオンさま。
このままテレポートラビットの所に行きますね」
(うん)
宣言どおりに、ディーヴァは兎の所へ向かった。
(それじゃ、気を取り直して……)
ディーヴァは剣を構え、兎に斬りかかった。
もう何度目になるのか、ディーヴァの一撃は、兎に回避された。
ディーヴァの方も雷を回避したが、やがて殺されてしまった。
「普通にやられちゃったね」
「はい。ですが、
これも織り込み済みです。
テレポートラビットは
攻撃を受けると、
ルーム内のどこかに
ランダムで移動します。
つまり、何度か運試しをしていれば、
奴は必ず
トラップを踏むということです」
「運……」
「行ってきます!」
ディーヴァは兎の所へ向かった。
そして殺された。
殺され。
殺されて……。
そして……。
トラップを設置してから、13回目ほどの戦闘。
「…………!」
瞬間移動した兎が、トラップの上に出現した。
ディーヴァが設置したサンダーサークルが発動した。
強力な電撃が、兎を襲った。
テレポートラビットは強力な魔獣だが、その耐久度は並以下だ。
雷を操るが、雷への耐性は無い。
トラップの威力は、兎の命を奪うには十分だった。
兎は絶命し、魔石が落ちた。
「やった……!」
ディーヴァは自分の中に、膨大なEXPが流れ込んでくるのを感じた。
トラップが沈黙したのを確認すると、ディーヴァは魔石を拾った。
サンダーサークルは、一度発動すると、力を取り戻すのに一日ほどかかる。
ディーヴァは安全に、魔石を拾い上げることができた。
それからディーヴァは、クオンの所に戻った。
「やりました! やりましたよクオンさま!」
ディーヴァの表情は、喜びに満ちていた。
対するクオンは、何やら釈然としない表情をしていた。
「うん……。
手放しでは喜べないくらい
死んでいるような気が
しないでもないけど、
それはそれとしておめでとう」
「はい!
レベルチェックをお願いできますか?」
「うん」
ディーヴァはクオンの前で跪き、レベルチェックを受けた。
「これは凄いね。
8だったレベルが、
一気に13になっているよ。
がんばっただけの事は有ったね。
それじゃあそろそろ
ダンジョンレベルを先に進めるのかな?」
「そうですね。
魔石さえ足りていれば、
他にやりたい事も有ったんですけど」
「どうするんだい?」
「テレポートラビットを
限界の5体まで増やすんです」
「5倍死にそうだね」
「そうですね。
それは必要経費ですよ」
「そう……」
「ダンジョンレベルを上げる前に、
ギルドに魔石を納品してきますね」
「うん。行ってらっしゃい」
変装用の鎧を着込んだディーヴァは、ダンジョンの階段をのぼっていった。
すると……。
「ディーヴァ=ダッタ」
地上に出たディーヴァに、ソラテラスが声をかけてきた。
「ソラテラスさま?」
「六石会議で
ユピトに釘を刺しておきました。
もう逃げ隠れする必要はありませんよ」
「そうなんですか?
ありがとうございます」
「っ……べつに、
私が何かしたわけではありません。
六石の総意で
そうなったというだけの話です」
「はあ。それならこの鎧は、
お返しした方が良さそうですね」
「取っておきなさい」
「えっ?」
「どうせ、私のクランの子たちでは、
そのサイズの鎧は着られませんから」
着られないようなサイズの鎧を、どうして保管していたのだろうか。
ディーヴァは一瞬そう考えたが、口には出さなかった。
「ありがとうございます」
(それじゃあ脱ぐの面倒だし、
このまま行こうかな)
ディーヴァは鎧姿でギルドへと向かった。
そして、カウンターのコマネへと声をかけた。
「魔石の換金をお願いします」
ディーヴァはそう言って、テレポートラビットの魔石を、カウンターに置いた。
「はい。……あれ?
今日は一つだけですか?」
「それと、兎の毛皮を六つ」
ディーヴァは魔石に加え、毛皮をカウンターに置いた。
これらの毛皮は、ラビット系の魔獣の『ドロップアイテム』だ。
魔獣は死に際に、低い確率で、何らかの資源を落とすことが有る。
それがドロップアイテムだ。
大量の兎を狩ったことで、ディーヴァは兎のドロップアイテムを入手していた。
ドロップアイテムは魔石と同様に、ギルドで換金ができる。
「わかりました」
コマネは魔石を鑑定した。
そして、手に持っていた魔石をテーブルに置くと、こう言った。
「これは……。
あの、少し二人きりでお話できませんか?」
「わかりました」
コマネの後について、ディーヴァは応接室に入った。
ソファに座って向かい合うと、コマネが質問をしてきた。
「これはテレポートラビットの魔石ですね?」
「はい。その通りです」
「……どこでこの魔石を?」
「秘密……ってわけにはいきませんかね?」
ディーヴァはそう答えた。
スキルのことを広めたく無かったからだ。
それに対し、コマネはきまじめな顔でこう言った。
「あなたはマジメな方ですが、
最近は、
急に妙な鎧を身につけたり、
不審な行動が目に余ります。
言動が奇抜なだけなら、
それは個人の自由ですが……。
ギルドで取り扱う魔石に、
万が一でも
犯罪性が有っては困ります。
魔石の入手先くらいは
はっきりとさせていただきたいのですが……」
「クオンさまに誓って、
罪を犯したりはしていません。
ただ、弱小クランであるウチに
クラン規模以上の旨味が有ると分かれば、
カモにしようって連中が
現れるかもしれません。
なので、
なるべく入手経路については
秘密にしておきたいんです。
どうしても話せと言うのなら、
コマネさんにだけは話しますが、
絶対に他に漏らさないと
誓約をしていただきたいと思います」
「……そこまで言うのでしたら、
クランマスターへの誓いと
あなたの今までの誠実さに免じて、
これ以上を聞くのは
止めておきましょう」
「ありがとうございます」