表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/43

その17「ポータルと出費」



 大魔獣との激闘に区切りがついたので、ディーヴァは温泉に入ることにした。



「クオンさま」



 湯船につかったディーヴァは、女湯のクオンに声をかけた。



「何だいディーヴァ」



「配置する資源を考えるのに、


 図書館に行ってこようかと思います」



 頭の中だけで答えを出せるほど、資源の問題は簡単ではない。



 そう思ったディーヴァは、書物に頼ることにしたのだった。



「そう。


 もう図書館は閉まってる時間だと思うから、


 今日はゆっくり休もうか」



「え? もうそんな時間ですか?」



 図書館は、午後の5時には閉館する。



 つまり今は、それよりも後の時間ということか。



 大魔獣と戦っていただけなのに、そんなに時間が経ってしまったのか。



 ディーヴァはそれを意外に思っているようだった。



「キミ、自分が何回死んだか覚えてる?」



「50回くらいですか?」



「……倍は軽く行くよ」



 行くらしかった。




 ……。




 二人は風呂を出た。



 それから家に戻り、夕食を済ませた。



「ごちそうさまでした」



「ごちそうさま」



 食事が終わると、恒例のレベルチェックの時間になった。



 クオンはディーヴァのレベルを測り、そしてこう言った。



「レベル8になっているね。


 おめでとう」



「えっ? 8ですか? 6じゃなくて」



 ディーヴァは驚きを見せた。



 今朝の時点では、ディーヴァのレベルは5だったはずだ。



 8になったということは、一気に3もレベルが上がったということになる。



 対するクオンには、まるで驚いた様子は無かった。



「キミは一人で大魔獣を倒しているからね。


 それに見合うだけのEXPを


 手に入れたということさ」



「そうですか」



 クオンがそう言うのならば、そうなのだろう。



 ディーヴァは納得した様子を見せた。



 そして、腰を上げて言った。



「それじゃあ……」



「うん」



「レベル上げに行ってきますね」



「うん?


 ゆっくりするんじゃ無かったのかな?」



「ゆっくり5層でレベルを上げます」



「……そう。がんばってね。


 私はちょっと庭を散歩してくるよ。


 念のため、『ポータルサークル』を配置しておこうかな」



「ポータルというと……


 ベイルアウト先になるサークルのことですね?」



「うん。


 散歩中の私の所まで飛ばされたら、


 キミも不便だろう?


 ポータルが有れば、


 私がどこに居ても、


 好きにダンジョンで戦えるよ」



 二人はダンジョンの1層に移動した。



 クオンはダンジョンの地面に手のひらを向けた。



 すると地面に、直径3メートルほどの魔法陣が出現した。



 どうやらこれがポータルサークルらしい。



「それじゃあがんばってね」



 クオンはそう言って、ダンジョンから出て行った。



 クオンの趣味は散歩だ。



 ユピトに襲われるまでは、よく街中をぶらついていた。



 ディーヴァと出会った時も、散歩の途中だった。



 だが今は、ユピトの動きに警戒する必要が有る。



 だから庭を歩くことで我慢することにしたようだ。



 ソラテラスクランハウスの庭は広い。



 それなりに歩きがいは有るらしかった。



 ディーヴァは独力で、深夜4時までダンジョンに潜った。



 それから2時間寝て、6時に起床した。



 朝食をとると、9時までレベル上げをした。



 ……そろそろ図書館が開く時間だ。



 ディーヴァは町へ出ることにした。



「本当にその格好で、図書館に行くのかい?」



 全身鎧姿のディーヴァを見て、クオンがそう言った。



「まあ、他に方法が無いですからね」



 ディーヴァは通りに出て、鎧姿で町を歩いた。



 そして図書館へと入っていった。



「あの……当館へ何の御用でしょうか?」



 完全武装の戦士が、図書館を訪れるのは稀だ。



 小奇麗な格好の男性が、警戒するような声音で、ディーヴァに声をかけてきた。



 その男性は、ディーヴァも知っている人物だった。



 彼の名はドリアと言い、この図書館の司書だ。



 ディーヴァは学生時代、この図書館を愛用していた。



 それで彼とも面識が有ったのだった。



「ドリアさん。俺ですよ」



 ディーヴァは兜のバイザーを上げて、ドリアにだけ素顔を見せた。



「……ディーヴァさん?」



「はい」



 ドリアから、恐れの感情が霧散した。



 入れ替わりで、大きな疑念が浮かび上がってきた。



「どうしてそのような格好を?」



「ちょっとワケありで……」



「なるほど?


 色々と大変なようですね。


 あなたが不審者では無いと


 他の職員にも伝えておきますね」



「ありがとうございます」



 ディーヴァは頭を下げ、書架の方へと向かった。



 そして図鑑を3冊ほど手に取り、テーブルについた。



 ディーヴァは図鑑に目を通していった。



 それから持参のノートに、色々と書き込んでいった。



(こいつは採取できたら


 良い儲けになりそうだな。


 戦いに役立ちそうなのは……)



 6時間ほど調べ物をして、ディーヴァは帰宅した。



「ただいま帰りましたー」



 藁の家で、クオンがディーヴァを出迎えた。



「お帰り。


 調べ物はどうだった?」



「良さそうな資源とか魔獣を


 リストアップしてきました。


 もう1回コアの所に行って、


 必要な供物を確認してきます」



 二人はダンジョンに入った。



 転移陣の近くまで来ると、クオンが口を開いた。



「私も一緒に行こうかな」



「危ないですよ」



「転移トラップで移動するんだろう?


 平気だよ」



 ディーヴァたちは、転移陣に足を踏み入れた。



 そしてコアルームへと転移した。



 ディーヴァはコアに触れ、スキルを発動させた。



「うーん……」



 スキルから情報を得ると、ディーヴァは悩み顔を見せた。



「どうしたんだい?」



「やっぱり高級な資源には、


 それなりの供物が必要になるみたいですね。


 今の俺たちの元手で


 最上級の資源を設置するのは


 難しいみたいです」



 ディーヴァは図書館で、価値の有る資源を色々と調べてきた。



 それらの資源に必要な供物は、どれも値が張るもののようだ。



 スキルの力でボロ儲けというのは、今の段階では難しいようだった。



「いま追加できそうな資源には


 何が有るのかな?」



「ユニコーンラットの


 魔石を集めれば、


 ヒーリングハーブくらいは


 追加できるみたいですね。


 けど、


 結局ハーブは調合しないと


 ダンジョンで役立つような効果は出せないんで、


 ギルドで売って


 小銭稼ぎするくらいしか


 できない気がしますね」



「そうなんだ?


 まあべつに、


 無理して追加する必要も


 無いと思うけど」



「そうですね。


 資源よりも魔獣を追加した方が、


 今の俺には役立ちそうな気がします」



「何の魔獣を追加するんだい?」



「ラビット系の希少魔獣を


 追加してみようと思います。


 ラビット系の供物なら、


 このダンジョンでも


 集められますからね」



「そう。もう供物は足りてるのかな?」



「ええと……7割くらいですかね。


 足りない分は、


 またギルドに頼みましょうか」



 ディーヴァはダンジョンを出て、ギルドへと足を向けた。



 そしていつものように、コマネに声をかけた。



「すいません。


 またファングラビットの魔石を


 お願いできますか?」



「はい、いくつですか?」



「300個ほどお願いしたいんですか」



「300……ですか。


 少々お待ちください」



 コマネはカウンター奥の扉に姿を消した。



 ディーヴァはコマネが戻って来るのを待った。



「申し訳ありません。


 今、ファングラビットの魔石の在庫は


 212個となっています。


 数日お待ちいただければ、


 300個そろえられると思いますが、


 いかがされますか?」



 ギルドに頼ったのは、なるべく早くイシが欲しいからだ。



 時間さえかければ、ラビット系の魔獣は、クオンダンジョンで手に入る。



 そう思ったディーヴァは、コマネにこう尋ねた。



「それじゃあ……


 ファングラビットの魔石に加えて


 その次に安い


 ラビット系魔獣の魔石を


 88個おねがいできますか?」



「少々割高になりますが、


 構いませんか?」



「はい」



「それでは在庫のチェックをしてきますね」



 コマネはまた、奥の方へと引っ込んでいった。



 そして、袋を二つ持って帰ってきた。



「ファングラビットの魔石が212個、


 ニードルラビットの魔石が88個、


 合わせて55040シーズとなります」



「う……」



 魔石の値段を聞いて、ディーヴァは呻いた。



 貧乏なディーヴァにとっては、なかなかの金額だ。



(全財産の半分以上か……。


 まあ財産って言っても


 ソラテラスさまのカネだけど……)



「ディ……ガーデナーさん?」



(キツいけど……


 これを済ませないと


 先には進めないんだよな。


 希少魔獣を追加できたら


 その魔獣の魔石を売って


 元は取れるはずだ。


 言わば、これは先行投資……!)



「どうぞ!」



 ディーヴァは力強く、コマネに紙幣を差し出した。



「妙な気迫が……」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ