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その14「高い剣と切れ味」



 ……。




「お帰り」



 クオンがディーヴァを見下ろしていた。



 クオンの足元で、ディーヴァは上体を起こした。



 そして、地面に尻をつけたままで言った。



「剣が……。


 イクサバナの攻撃が……


 通用しませんでした……」



 せめて一太刀。



 そんな気概で戦いに挑んだのだろう。



 結果としては、一つの傷も、相手に負わせられなかった。



 ディーヴァの表情は暗かった。



「相手は大魔獣だからね。


 並の攻撃では


 刃は通らないんだろうね」



「…………そうだ。


 ソラテラスさまに貰った剣なら、


 大魔獣にも通りませんかね?」



 ディーヴァは藁の家に意識を向けた。



 そこにはソラテラスから贈られた長剣が有る。



 貰うだけ貰って、まだ一度も使ってはいない。



「可能性は高いと思うよ。


 六石のソラテラスが


 お詫びとして贈ってきた品が、


 ナマクラなわけが無いからね」



 ディーヴァは気持ちを切り替えて、立ち上がった。



 そして藁の家に向かった。



 そこで貰い物の剣を身につけると、ダンジョンに戻った。



「この剣の練習をしてきます。


 って、そういえば……。


 イクサバナを装備してないと、


 クオンさまと話ができませんよね?」



「そうだね。


 鞘を用意して、


 腰にさげておけば良いと思うよ」



「武器屋に行かないといけませんね。


 出費が……」



「ソラテラスの所に、


 余った装備が無いか聞いてくるよ。


 ディーヴァはここで待ってて」



「分かりました」



 クオンはディーヴァを置いて、ソラテラスのクランハウスへと向かった。



 やがて彼女は、鞘を持ってダンジョンに戻ってきた。



 だが……。



「ディーヴァ……?」



 ダンジョンの1層に、ディーヴァの姿は無かった。



 クオンはダンジョンマスターの力を使い、彼の気配を探知した。



 すると下の階層に、ディーヴァを発見することができた。



 クオンはほっと息を吐いた。



(3層か……。


 落ち着きが無いね。まったく)



 それからクオンはイクサバナを通して、ディーヴァに声をかけた。



(ディーヴァ。ディーヴァ。


 何をやっているんだい?)



 クオンが尋ねると、ディーヴァはこう返してきた。



(レベル上げですけど)



(1層-ここ-で待っててって言ったよね?)



(だから、ダンジョン-ここ-で待ってたじゃないですか)



(……分かったから。


 すぐに戻ってきなさい)



(はーい)



 ディーヴァは1層に帰還した。



 さきほど会話していた時よりも、彼の衣服は傷ついていた。



「まったくもう……。


 こんなにボロボロにして」



 クオンはディーヴァに手を伸ばした。



 クオンの手が輝き、ディーヴァが光に包まれた。



 するとディーヴァの衣服が修繕されていった。



「ありがとうございます。


 クオンさまに


 こんな力が有ったんですね」



「……無かったはずなんだけどね。


 ダンジョンレベルが上がったことで


 私にも新たな力が身についたみたいだ。


 まあ、このくらいの力は、


 私以外のダンジョンマスターなら


 生まれつきに持っているものなんだけどね」



「なるほど……。


 ダンジョンを強化すると、


 マスターであるクオンさまも


 強化されるんですね。


 このままダンジョンを


 強化していったら、


 クオンさまが最強のマスターになれますね」



 クオンが強くなることに、大層な価値でも見出しているのか。



 ディーヴァは嬉しそうに言った。



「べつに私は


 そんな事は望んでないんだけどね。


 平穏な心が有れば


 それで十分だよ。


 そんなことより、はい。


 鞘を用意してきたよ。


 少し長さが違うけど、


 まあなんとかなると思うよ」



 クオンは鞘を差し出した。



「ありがとうございます」



 ディーヴァは腰の左側に、鞘を装着した。



 ソラテラスから貰った剣も有るので、二本差しの格好になった。



 ディーヴァは新しい鞘に、イクサバナを納めた。



 イクサバナは鞘にきっちりと納まり、安定しているようだった。



 これならば、激しく動いても問題は無いだろう。



「……だいじょうぶそうですね。


 それじゃあ、


 こっちの剣の試し切りに行って来ます」



 ディーヴァは再び、下り階段へと向かった。



 そして、最短ルートで3層まで下りた。



 ディーヴァは抜刀すると、クオンに声をかけた。



「敵の居る所へ誘導お願いします」



(わかったよ。まず、次の分岐を左)



 ディーヴァは指示に従って歩いていった。



 するとクオンがこう言った。



(そこを右に曲がると、


 ニードルラビットが2体居るね)



「はい」



 ディーヴァはカドを曲がった。



 すると、背中に針が生えた兎を、2体発見した。



 兎もディーヴァに気付き、地面を蹴った。



 兎は空中で回転しながら、ディーヴァに飛びかかってきた。



「っ!」



 宙を舞う兎を、ディーヴァは剣で迎え撃った。



 刃が兎に触れた。



「え……?」



 ディーヴァは驚きの声を上げた。



 兎は空中で、真っ二つに裂けた。



 そしてそのまま地面に落ちた。



 絶命した兎は魔石へと変じた。



「これで倒せるのかよ……?」



 さきほどのディーヴァは、兎を斬ろうとはしていなかった。



 ただ防御しようとしただけだ。



 だが、剣の切れ味が凄すぎて、兎を自滅させてしまったらしい。



 ディーヴァが戸惑っていると、もう1体の兎も飛びかかってきた。



 ディーヴァはただ剣を当てるようにして、兎を迎え撃った。



 1匹目の兎と同様に、その兎も、裂けて落ちた。



「……ヤバいなこの剣」




 ……。




 ディーヴァはひたすらに、兎狩りを続けた。



 やがてクオンが声をかけてきた。



(ディーヴァ。


 そろそろ夕食の時間だけど)



「わかりました」



 ディーヴァはダンジョンから帰還した。



 そして藁の家で夕食をとった。



「ごちそうさまでした」



「ごちそうさま」



 後片付けが終わると、ディーヴァはレベルチェックを受けた。



 ディーヴァの頭上から手をはなすと、クオンはこう言った。



「おめでとう。ディーヴァ。


 レベルが4に上がっているよ」



 久々のレベルアップだ。



 喜ぶべき事のはずだ。



 だが、ディーヴァの表情は、あまり明るくは無かった。



「……そうですか」



「あまり嬉しくなさそうだね」



「現実を見せられちゃいましたからね。


 レベルが一つ上がっても、


 俺は連中の足元にも及んでない。


 もっと強くならないと……」



 自分が目指す場所は、遥か高みに有る。



 そんな現実が、ディーヴァを立ち上がらせた。



「お風呂かな?」



「いえ。もうちょっとダンジョンに潜ってきます」



「そんなに根を詰めなくても……」



「何かやってないと、落ち着かないんです。今は」



 ディーヴァは家から出た。



 そしてダンジョンへと下りた。



 ディーヴァは闇雲に、4層を進んでいった。



 すると。



(そっちには何も無いよ)



 ディーヴァの意識下に、クオンの声が響いた。



「クオンさま?」



(キミのがんばりに、


 私もつき合わせてもらうよ。


 私はキミのクランマスターだからね)



「ありがとうございます……!」



 ディーヴァは、夜中まで戦いを続けた。



 それから1層に戻ると、クオンに声をかけた。



「ただいま帰りました」



「疲れた顔だね。


 温泉で体を癒やすと良い」



 ディーヴァは言われたとおり、温泉へと向かった。



 それにクオンも同行した。



「あれ……」



 湯船の中で、ディーヴァは声を漏らした。



「どうしたんだい?」



 仕切り板の向こう側から、クオンが疑問を投げかけてきた。



「何だかいつもより、


 癒やされる感じがしますね」



「それだけ疲れているということかな?


 あるいは……。


 ダンジョンレベルが上がったことで、


 温泉の効能も


 レベルアップしたのかもしれないね」



「すると、このままレベルを上げていったら、


 最強の温泉が出来ますね」



「そいつは贅沢だね」



 癒やしの時間を楽しむと、二人は温泉を出た。



「それじゃあ……」



「うん」



「もう1回ダンジョンに行ってきます」



「ディーヴァ。どれだけがんばるつもりだい?」



「温泉に入ってたら、


 なんだか体が軽くなってきたので。


 あっ。クオンさまは


 お休みになられてください」



「いや。私はあまり眠らないタイプの


 ダンジョンマスターだからね。


 構うことは無いよ」



「そうですか?


 それじゃあ行ってきます」



 ディーヴァはダンジョンで、3時間ほど戦闘を続けた。



 そして疲労を感じ始めると、1層まで戻って来た。



「そろそろ眠る?」



「いえ。温泉をキメたらもう1回行きます」



「……………………」



 ディーヴァは眠らなかった。



 不眠で戦いを続けた。



 そして三日後の夕食後……。



「レベルチェックをお願いします」



「良いけど。


 本当にだいじょうぶかい?


 もう四日も寝てないけど」




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