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その13「5層と大魔獣」



 クオンの気遣いはありがたい。



 だが、今のディーヴァのモチベーションは高い。



 彼は休まずに、先に進む意欲を見せた。



「ここまで来たなら、


 なるべくダンジョンコアを拝みたいという


 気持ちが有りまして」



(分かった。


 なるべく敵が居ないルートを選ぶよ。


 ……ホームダンジョンだからって、


 敵が弱くなるわけじゃない。


 それを忘れないようにね)



「はい」



 ディーヴァは、さらに先へと進んでいった。



 するとクオンが、こう伝えてきた。



(左に曲がると


 ハイジャンプラビットが3体居るね)



 今回の探索で、ディーヴァはいろんな兎と戦った。



 だが、ハイジャンプラビットというのは、まだ出会ってはいない魔獣だった。



「初見の魔獣が3体ですか……」



 5層の魔獣は、ディーヴァにとっては強敵だ。



 初見の魔獣相手に1対3ともなれば、苦戦は避けられないだろう。



(引き返す?)



「……いえ。挑戦してみます」

 


 ディーヴァは少し悩んだが、先へ進むことに決めた。



 カドを左に曲がると、3体の兎が見えた。



 兎の方も、ディーヴァを認識した。



 魔獣が人を認識するということは、殺意を抱くということだ。



 三つの殺意が、ディーヴァへと向けられた。



 次の瞬間、兎たちは高く飛び跳ねた。



「なっ……!」



 兎たちは、ディーヴァの背丈よりも高く、ぴょんぴょんと跳び回った。



 今までにない変則的な動きに、ディーヴァは翻弄された。



 最善手を指せないディーヴァに対し、兎が先手を取った。



「がっ……!」



 兎の蹴りが、ディーヴァの頭に刺さった。



 レベルの低いディーヴァにとって、その一撃は、安くは無い。



 ディーヴァの脳が、激しく揺さぶられた。



 彼の体がふらりと崩れ、倒れた。



 無防備になった所へ、兎たちが次々と飛び降りてきた。



「ぐっ……がはっ……っ……!」



 大量の跳び蹴りが、ディーヴァを嬲っていった。



 やがて、ディーヴァの心臓が停止した。




 ……。




「はっ……!」



 ディーヴァは目を見開いた。



「お帰り。ディーヴァ。


 どうかな?


 初めてダンジョンで殺された気分は」



 ディーヴァは、クオンのすぐそばに倒れていた。



 魔獣に殺されて、ベイルアウトが発動したらしい。



「……死ぬほど痛かったです」



 ディーヴァは率直な感想を述べた。



「だろうね」



「厄介な相手ですね。


 ハイジャンプラビットは」



「そうみたいだね。


 私には戦いのことは


 良くわからないけど」



「どうやって倒せば……。


 そうだ。罠……。


 あいつらがジャンプしてくる所に……


 罠でも仕掛けられれば……。


 けど……。


 店でトラップアイテムなんて買ったら、


 大赤字ですよね……」



 ガーデナー向けの店に行けば、対魔獣のトラップが、いくらでも手に入る。



 だが、それらのトラップは、決して安価ではない。


 

 5層ていどの魔獣の魔石では、その代金にはつりあわない。



 鯛でイワシを釣るようなものだ。



「だろうね。


 けど、罠なら有るよ」



「えっ?」



「ダンジョンには、


 侵入者を撃退するための


 トラップが有る。


 そしてそれは、魔獣相手にも作用する。


 敵を罠に誘導できるように、


 私が指示を出そうか?」



「お願いします」



 ディーヴァは体を起こした。



 そして足早に、階段の方へと向かっていった。



 クオンはディーヴァを呼び止めた。



「もう行くのかい?


 死んだばっかりなんだから、


 少し休んだ方がよくないかな?」



「休んでる暇なんてありませんよ!


 行ってきます!」



 ディーヴァは元気な声でそう言って、1層から走り去った。



 そして、前に使ったルートを通り、急いで5層へと向かった。



 前にやられた場所の近くまで来ると、ディーヴァは口を開いた。



「クオンさま。


 ここからどう動けば良いですか?」



(そこから少し戻った所に、


 曲がり道が有っただろう?


 そっちに行ってみて欲しい)



 ディーヴァは指示通りに歩いた。



 目的地につくと、クオンは言葉を続けた。



(そこの草むらの辺りが、


 赤く光っているのが見えるかな?)



「はい。いくつも有りますね」



 クオンの言葉通り、ディーヴァの目が、赤い複数の光をとらえていた。



(そこに落とし穴のトラップが有る。


 間違って落ちないようにね)



「トラップってこんなふうに


 目で見えるものなんですね」



(ホームダンジョンだとね)



 本来であれば、トラップのありかなど分かるはずもない。



 だがここは、クオンのダンジョンだ。



 トラップの位置ていど、クオンは全て把握している。



 そんなクオンの知覚が、イクサバナを通して、ディーヴァに送られているのだった。



「それじゃ、なんとか連中を


 罠に嵌めてみますよ」



(うん。がんばってね)



 ディーヴァは兎の所へと向かった。



 そしてわざと気付かれるように、兎たちに姿をさらした。



 前回と同様に、兎たちは、ぴょんぴょんと跳びあがった。



「来やがれ……!」



 ディーヴァは兎たちに背を向けた。



 そして、追いつかれないように駆けた。



 罠の密集地の中央まで来ると、ディーヴァは立ち止まった。



 3匹の兎が、ジャンプしながら迫ってきた。



 そして……。



 2匹の兎が、罠の有る地面を踏んだ。



 地面に穴が出現した。



 兎たちは、落とし穴に落ちていった。



 穴底の針が、兎を貫いた。



 残りの1体が、ディーヴァに向かって跳んだ。



 相手が1体だけならば、今のディーヴァでも対処することはできた。



 ディーヴァは跳び蹴りを、剣で受け止めた。



 蹴りを弾かれた兎は、地面に着地した。



 その隙に、ディーヴァは斬りかかった。



 深い一撃が、兎を切り裂いた。



 兎は絶命し、魔石が落ちた。



 戦闘を終えたディーヴァは、兎が落ちた穴の中を見た。



 針だらけの穴の底に、魔石が落ちているのが見えた。



(あれを拾うのは無理だな……)



 ディーヴァは落とし穴の魔石をあきらめた。



 そして、自力で倒した兎の魔石だけを拾った。



 ディーヴァはトラップゾーンを抜け出し、最初に兎が居た通路へと歩いた。



 敵が居なくなった通路を抜けて、さらに先へと進んだ。



 するとクオンが声をかけたきた。



(突き当たりのカドを右に曲がると、


 コアまでもうすぐだね)



「やっとですか……」



(けど、気をつけて。


 コアが有る部屋の手前に、


 大物の反応が有る)



「大物って、『大魔獣』ですか?」



(うん……。


 レベル3のキミが、


 一人で5層の大魔獣を倒すのは


 難しいと思う。


 引き返した方が良いかもしれないね)



 大魔獣とは、その層において別格の強さを持つ魔獣だ。



 ディーヴァはさきほど、5層の通常の魔獣に苦戦した身だ。



 相手が大魔獣では、まず勝ち目は無いだろう。



 クオンはそう判断したようだった。



 だが、ディーヴァはやる気を見せた。



「行きますよ。


 倒せないにしても、


 攻略の糸口くらいは


 掴んでおきたいですからね。


 それに上手くやれば、


 ボスを素通りして


 ダンジョンコアの部屋まで


 抜けられるかもしれませんし」



(それは無理だと思うけど)



「…………?」



 疑問符を浮かべながら、ディーヴァはカドを曲がった。



 そこから少し歩くと、広間に出た。



 ディーヴァの瞳に、大魔獣の姿が映った。



(でかいな……。


 ボスってのは……)



 この階層の大魔獣は、大きく赤い兎だった。



 背丈が2メートルを超える兎が、ディーヴァに気付いた様子を見せた。



 兎の口端に、鋭い牙が見えた。



(あれはレッドファングラビットだね。


 行動パターンは、


 普通のファングラビットと大差無い。


 だけど……)



 兎がぐっと地面を踏んだ。



 そしてディーヴァへと突進してきた。



「ぐうっ!?」



 完全に回避することはできなかった。



 大質量の体当たりが、ディーヴァを吹き飛ばした。



(そのパワーは当然、


 普通のファングラビットとは


 比べ物にならない)



「……みたいですね」



 ディーヴァは立ち上がった。



 攻撃を受けたが、まだ致命傷では無い。



 ディーヴァは冷静に周囲を見た。



 こいつをすり抜けて、奥へ進めるかもしれない。



 そんな思考と共に、広間の奥側を見た。



 だが……。



「通路が塞がれてる……」



 魔術的な障壁が、通路に蓋をしていた。



 振り返ると、ディーヴァが入って来た方の道も、障壁に塞がれていた。



 ディーヴァにはもはや、行き道も帰り道も存在しない。



(『マリスウォール』だね。


 大魔獣を倒すまでは


 そこから脱出することはできない)



「死亡確定かよ。


 けど……タダでやられてたまるか!」



 ディーヴァは闘志を昂ぶらせた。



 兎の突進が来た。



 ディーヴァはなんとか攻撃を回避した。



 そしてその隙に、兎に斬りかかった。



 がぎり。



 硬い音が鳴った。



 剣が毛皮に弾かれていた。



「はぁ……!?」



 予想外の反動に、ディーヴァの体勢が崩れた。



 よろけたディーヴァに、兎がのしかかった。



 兎の重量が、ディーヴァから自由を奪った。



 そして、兎の牙が、ディーヴァへと伸びた。



「あっ……」



 ディーヴァは生命活動を停止。



 死んだのだ。





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