その11「スキルと供物」
「スキル……ですか?」
「うん。気付いてなかったのかい?」
「すいません……」
「謝ることでも無いけどね」
「いったいどんなスキルなんでしょうか?」
「レベルチェックをしよう。
そうすれば、スキルの詳細も分かるはずだから」
クオンはディーヴァの頭に手をかざした。
クオンの意識が、ディーヴァのレベルやスキルを認識した。
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ディーヴァ=ダッタ(スクネ=タケウチ)
レベル 3
スキル 閻魔灌頂-えんまかんじょう-
効果 ダンジョンに対し強化、オブジェクトの配置などの操作を行う
発動条件 ダンジョンコアに接触した状態でスキル名を唱える
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「え……?」
ディーヴァのスキルを知り、クオンは珍しく、戸惑いの声を上げた。
らしからぬあるじの様子を見て、ディーヴァが尋ねた。
「どうしたんですか?」
「キミのスキル……。
ちょっと凄いかもしれないね」
……。
二人は温泉から出て、身支度を整えた。
そして藁の家に戻った。
ディーヴァと向かい合いながら、クオンはスキルのことを話した。
彼のスキルは、ダンジョンを強くするものだと。
「ダンジョンを強化……。
それが本当なら、前代未聞のスキルですね。
……ヤバくないですか?」
「そうだね。
とはいえ、
本当に卓越したスキルなのか
判明させるには、
スキルによる強化が
どの程度の規模なのか、
強化が永続的なのか、
一時的なものなのか
色々とハッキリさせる必要が有るね」
「あっ……。そうですね。
ほんのちょっぴりしか
強化できないんだったら、
大したスキルとは言えませんよね。
ちゃんと調べないと……。
そうだ。
さっそくクオンさまのダンジョンを
強化してみませんか?」
「それは……」
「クオンさま?」
(私はこの平和なダンジョンを
気に入っているんだけどね。
温泉も有るし。
けど、ディーヴァのスキルは、
簡単に外に漏らして良いモノじゃ無い。
もしこのスキルが強力なモノだと分かれば、
彼は世界中のダンジョンマスターから
狙われることになるだろう。
だったら……
この私が実験台になる他に無いかな)
「うん。試してみようか」
クオンは微笑んだ。
二人は藁の家を出て、再びダンジョンへと入った。
そして、ダンジョンの中央にあるダンジョンコアへと歩いていった。
「クオンさま……。
お体に触りますよ」
ダンジョンコアの前に立つと、ディーヴァはそう言った。
ダンジョンコアは、人の身長ほどもある、縦長のイシだ。
赤く輝いている。
コアはダンジョンマスターの本体だ。
コアが砕ければ、マスターも死ぬ。
アバターと同等以上に、重要な存在だと言えた。
本来であれば、気安く触って良いようなモノでは無い。
今回は、スキルを試すためには、コアに触れることが必須だ。
クオンは無表情で、ディーヴァに許可を出した。
「どうぞ」
ディーヴァは恐る恐ると、コアに手を伸ばした。
ディーヴァの手のひらが、コアに触れた。
クオンの眉がピクリと動いた。
ディーヴァはスキル名を唱えた。
「『閻魔灌頂』」
ディーヴァの体が輝いた。
彼のスキルに応えるように、コアが光をはなった。
「……どうだい?」
それ以外の変化がわからずに、クオンはそう尋ねた。
一方、ディーヴァの意識には、スキルの情報が流れ込んできていた。
ディーヴァはその情報を、クオンに伝えることにした。
「とりあえず、
『ダンジョンレベル』というのを
上げられるみたいですが……」
「うん。それで?」
「『供物』というのが必要になるみたいです。
ダンジョンレベルを
1から5に上げるのに、
ファングラビットの魔石が
100個必要だそうです。
アディスには
ラビット系の魔獣は出ませんよね。
どうしましょうか?」
目当てのファングラビットは、ダンジョンの上層に出現する兎だ。
弱い魔獣であり、ディーヴァでも普通に戦えるレベルだ。
だが、その兎が居るのは、ふだんディーヴァが通うアディスでは無い。
この都市には大勢のダンジョンマスターが居て、多くのダンジョンが存在する。
そんなダンジョンのいくつかに、ファングラビットは出現する。
しかし、他クランのダンジョンに出入りできるようなコネを、ディーヴァは持っていない。
ディーヴァの悩みを受けて、クオンはこう言った。
「ギルドに頼んでみると良いんじゃないかな?
あそこなら、大抵の物は手に入るはずだよ。
お金さえ有ればね」
「お金……」
自分たちには最も縁の無いものだ。
そう思って、ディーヴァは難しい顔をした。
すると……。
「これを使うと良い」
クオンがそう言って、紙幣を差し出してきた。
そこには1万シーズ紙幣が、10まい束ねられていた。
「これは……」
「ソラテラスたちが置いていったモノさ。
せっかくだから使ってしまおう」
ユピトたちとの面会の前、ソラテラスはディーヴァにお金を渡してきた。
ディーヴァはそれを、拒否しようとした。
だが結局、ソラテラスはお金を置いていったらしい。
あれから酷い目にあった。
それを思えば、10万シーズくらい、貰っておいても良いのではないか。
そう思ったディーヴァは、紙幣を受け取ることに決めた。
「わかりました。
けど、いま外に出たら危ないですかね?」
今のディーヴァは、ユピトに目をつけられている。
ここはソラテラスの庇護下に有るので、まだ安全だと言える。
だが、クランハウスの敷地から出てしまったら、いったいどうなるのか。
ユピトクランが牙をむくのではないか。
ディーヴァはそれを危惧していた。
「どうかな……。
ソラテラスに相談してみよう」
二人はダンジョンの階段を上っていった。
「ディーヴァ=ダッタ」
庭に出ると、チヨメが声をかけてきた。
「おまえは……ソラテラスさまの……」
「受け取りなさい」
チヨメはディーヴァに、長剣を差し出してきた。
「これは……?」
「あなたの未熟なイクサバナよりは
役に立つと思いますが」
「どうして?」
「今回の事は、我々にも責任が有る。
ソラテラスさまは、
そうお考えです。
慰謝料だと思って受け取ってください」
「どうも」
ディーヴァはその剣を、素直に受け取ることに決めた。
「貰える物は貰っておくよ。
今の俺は、
手段を選べるほど強くないからな」
次にクオンがチヨメにこう尋ねた。
「ソラテラスは今どこに?」
「私室だと思いますが、
何か御用でしょうか?」
「うん。少し相談したくてね」
……。
「何じゃこりゃあ……」
クオンダンジョンの1層。
ディーヴァは真っ白な全身鎧を、身にまとっていた。
顔はすっぽりと兜に覆われ、正体がわからないようになっていた。
「仕方がないでしょう」
困惑した様子のディーヴァに、ソラテラスがそう言った。
今ディーヴァが着ている鎧は、彼女が用意したものだ。
「今うかつに外に出れば、
ユピトたちに何をされるか
分からないですし」
「そうですけど……」
「その鎧は、しばらく貸してあげます。
返す時は、
きちんとクリーニングして返してくださいね」
「はい……」
全身から金属音を鳴らしながら、ディーヴァは庭から出た。
ディーヴァの足は、ギルドへと向けられた。
ディーヴァはカウンターに向かい、コマネに声をかけた。
「あのー」
「はい。何でしょう?」
「欲しい魔石が有るんですが」
「はい。何の魔石を……って、
その声もしかして、
ディーヴァさんですか?」
「しっ……! そのことは内密にお願いします……!」
言いふらされては、変装の意味が無くなってしまう。
ディーヴァは慌ててコマネに口止めをした。
「何か事情がおありのようですね。
それでは、
何の魔石をご所望ですか?」
「ファングラビットです」
「個数は?」
「100個お願いします」