推しがいればそれで良くね?
「私は立花春風。25歳のどこにでもいるOLをしている。周りは結婚しだすし、カップルの動画とか見ちゃうと焦る気持ちにもなるけど、私にはオタ活という趣味があるから、結婚なんて言葉忘れて楽しく生活出来ている。友達も少ない訳じゃないし生活に困らない程度の収入はあるから、下手に恋愛するより自分の楽しみに貢いだ方が人生楽しい気がする!……恋愛っていう恋愛した事ないけど…。」
恋愛に危機感を感じながら、休日はオタ活に明け暮れる25歳の女は一人を割と満喫していた。
春風は、Sunnyという5人組で結成された人気アイドルグループを応援していた。その中でも雨伊都というメンバーのことを推しており、もちろんライブには定期的に足を運び、握手会やサイン会にも顔を出している。
部屋のグッズ達は綺麗に整頓されており、SNSもファンとしての秩序がある発信を心掛け、ポリシーのあるオタ活を行っていた。
ある週末、出勤後に楽しみだったSunnyのライブに行き、目の前には汗をかいていても美しく歌い、踊る雨伊都が居た。
ライブが終わり、帰宅、疲れた体を癒すため湯船に浸かる。
「まじでイケメンすぎ…このまま死んでも悔いないかも……(♡)」
そんな独り言を口に出すと、何かに頭を捕まれ、湯船に強く押し付けられる。もがき抵抗するが力が強く、頭は上がらない。声を出したくても出ず、目を開けても何も見えない。
春風は何も考えられないまま、力尽き、暗闇の中に沈んだ。
目を開けると、家の湯船に浸かっていた。
「あれ?私誰かに押さえつけられていたような…」
立ち上がり、浴槽からでると、風呂の扉を開けた。
すると、春風の目には晴れ渡った空と草原が映っていた。
「は??」(苦笑)
瞬きを繰り返し、一度扉を閉めた。
もう一度扉を開くと、同じ景色が広がっていた。
「……。」
春風は失笑し、素っ裸のまま草原を眺めていた。
すると背後からピコンという音がした。
「なに!?」
春風は驚き一気に後ろを向くと、目の前に雨伊都が立っていた。
(え?まってまってまってまって…意味わかんないんだけど、1回、1回整理しよ…まず私風呂にいたよな?風呂から出たらなんか生い茂った草原があって、眺めてたら…後ろに雨伊都がいた…いや、意味わかるかぁ!)
春風は頭の中で把握しようとするが状況を理解出来ないまま、ただ突っ込んでしまっていた。
そんなことを考えていると、雨伊都が話しかけてきた。
「立花春風様、この度はお悔やみ申し上げます。貴方は何もしていないにも関わらず、死者の魂に嫉妬され、体を奪われてしまいました。
この行いは死者の掟に背きますが、今回限りの特例として貴方を異世界に転生することが認められました。」
雨伊都の話は右耳から左耳に抜け、春風はこう思った。
(…今、私、裸じゃね?…うぇぇぇぇえええええ!?、雨伊都に裸見られてんの?なにそれ嬉しいような嬉しくないような、良かったー全身脱毛行っといて、ガチで神だわ永久脱毛。)
頭の中で驚きながら、ニヤついていた。
「あの、聞いてますか?」
と雨伊都に声をかけられハッとする春風。
「え、あ、はい!!聞いてます!聞いてます!で、私死んだんですっけ?あは、あはは!」
(うわぁ…雨伊都と話してるわぁ、私…凄くね?凄すぎるくね?嬉しすぎてヨダレ垂れてきた、危ね。)
理解してるっぽく話しているが、頭の中ではずっとニヤついていた。
「混乱するのも無理ないですよね…こんな話…」
(え?雨伊都私の事心配してくれてる?ラブいんだが〜(♡))
つづく…。