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最悪の異動先

〈最悪の異動先〉


俺は渡された辞令書をみて、絶望のあまり肩を震わせていた。


 終始ニヤケ顔だった課長は、俺に新たな配属先を記した紙を渡すと、そそくさと自分のデスクに戻り、仕事を再開した。


 俺も仕事はたんまりと溜まっていたが、とてもやる気が起きない。


 どうせあと一月も経たないうちに、別の課に異動になるし、俺がいなくった後のことなど知ったことではない。


 問題はその異動先だ・・・。


 課長からもらった紙にはこう記してある。


 ライカ=レヴィンス様


 辞令 白狼暦325年4月1日をもって、現職の任を解き、勇者課への異動を命じる。 今後の活躍を期待しています。


 マーデルスタン市長 影丸♡


「・・・あのくそ市長が!」


 俺は辞令書をぐしゃぐしゃに丸め、床に投げ捨てた。


 市役所に入庁してもう3年が過ぎたが、ここまで怒りを覚えたことがない。


 職員の給与はどこに配属されようと、基本的には変わらない。


 ならば、出来るだけ楽な部署に配属されたいと思うのが、人の心だ。  


 しかし、よりにもよって勇者課・・他の課に比べて圧倒的に多忙である上に、殉職するリスクもある。


 勇者課に行くことを望む奴はとんでもない馬鹿か、自殺願望がある者だけだ。


 よりにもよって、そんなクソみたいな課にエリートである俺を配属させるなど、言語道断。不当な人事だ。


「・・・っぺ!!」


 俺は転がってるゴミに、唾を吐きかけた。  


「おうおう、荒れてるね〜」


 怒り狂う俺に声をかけてきたのは、同期のゴブリン・・ゴブ助だ。


 入庁当初から俺と同じ税務課に配属されていたが、いかんせん仕事ができない。


 驚くことに、こいつは来年度も税務課にいるとのことだった。


 こいつのミスで、大量のオーガが市役所に押し寄せ、危うく、庁舎を粉々にされかけたこともあったんだが・・人事はそのことをお忘れで?


「まあまあライカは仕事はできても、根性が捻くれてるからなぁ〜勇者課で揉まれてこいよ」


「ふざけんな!勇者課なんて、ろくに事務もできない脳筋 の集まりだろうが・・力仕事しか能がないゴブリンの方が適任だ」


「は〜平気で異種族差別するんだもんな・・そんなんだから、課内で嫌われるんだよ」


 ちっ。ゴブリンの分際でまともなことを言いやがる。


 俺は税務課の誰よりも仕事ができる自信はあるが、ことコミュニケーション能力に関しては、ゴブ助以下だ。


 別に職場に友達を作りに来ているわけではないし、仕事で関わる連中にどう思われてもよかった。 

  

 世の風潮として、異種族に対して優しくしようとする動きがある。このマーデルスタン市役所も例外ではなく、人族以外の種族も積極的に採用しているのが現状だ。


 異種族にはゴブリンみたいに頭が弱い奴も多いが、異種族が仕事でやらかしても、なんとなく許されている・・俺はそんな時代の流れに逆行し、人族だろうが異種族だろうが、使えないヤツのことは罵倒したりしていた。


 ゴブ助の言う通り、俺の協調性の無さが問題視され、制裁人事をされた可能性はある。全くもって、腹立たたしい。  


「まあ、勇者課で立派な大人に成長してきなよ。そしたら、エリカもお前のこと見直すかもよ?」


 ゴブ助のその何気ない一言を受け、俺は奴に殴りかかった。


 その後のことはよく覚えていないが、気がついた時には俺は病院のベットの上にいた。


 後で聞いた話によると、ゴブ助は今もなお、市役所に勤務しているらしい。


「懲戒免職だろふつう!」


 俺はベットの上で毒づいたが、その言葉を聞いている者はいなかった。


 ひとつだけ感謝することがあるとすれば、ゴブ助のお陰で、勇者課で働かなくてはならない日が遠のいたことである。


 しかし、その日は必ずやってくる。


「退院したくねぇなー」


 俺は現実から目を背けるように、毛布の中に潜り込んだ。

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