婚約破棄を告げる王太子と絶対にさせない公爵令嬢
19作目です。
よろしくおねがいします。
「公爵令嬢!王太子である俺は貴様との婚約を破棄し、男爵令嬢ちゃんと新たに婚約を結ぶこととする!」
ここは王立学園の卒業パーティーの会場。宴もたけなわというところで男爵令嬢の腰を抱いた王太子が公爵令嬢に婚約破棄を言い渡した。
「お可愛いこと。一応理由を聞いておいて差し上げますわ。」
公爵令嬢が全く顔色を変えず問いただす。
「どこのか○“や様だよ。まあいい。俺は男爵令嬢ちゃんとの真実の愛に目覚めたのだ。すでに閨も共にした。裏切る形になった貴様には悪いが俺は責任をとって廃嫡を受け入れ男爵家の婿になることにする。貴様に瑕疵はないのだから第二王子と結婚して王妃になってくれ。」
清々しい顔をしてそう言う王太子に
「それで本音は?」
公爵令嬢が聞き返す。
「もう王太子とか嫌なんだよ。なんで卒業前から学業と並行して一日10時間労働なの?卒業したら15時間コースじゃん。もう無理なんです。勘弁してください。早く人間になりたーい!はっ?」
何かに気がついたような顔をする王太子。
「残念ながらその発言は10年遅かったですわね。私との婚姻がなくなった程度で王位を継がなくて良いことになると思うなど頭がおめでたいにもほどがありますわ。」
そう宣言する公爵令嬢。
「そうそうおめでたい頭なんだから王位も継承者も無理ですよ。」
抵抗する王太子。
「王太子在位10年で東方聖王国の侵略を撃破し、それに呼応した北方遊牧民の大半を打ち破り半数を支配下に置いた手腕。それに加えて腐敗した官僚組織を立て直し、悪徳商人を追放した殿下がいなければこの国は大混乱ですわ。実績が違うのですよ実績が!」
そう言い放つ公爵令嬢に
「王太子在位ってなんだよ。そんな国聞いたことないよ。っていうか8歳のときから戦争に執務にってこの国どうなっているんだよ。児童虐待だよ。責任者出せよ!」
王太子が叫ぶと
「どーも責任者です。」
そう言って国王夫妻が顔を出す。来賓として出席していたらしい。
「こんのくそオヤジが!なんであんた仕事しないの?あんたのせいで俺が働いているんだよ。少しは息子が可愛そうだと思わないの?あんたがまともに仕事しているところを見たことないんだけど。玉座に座っているだけが国王じゃないよね。というか玉座に座っているのも一日3時間以下なんだけど!」
「残念ながら儂に政治や軍事の才能はない。あるのは人を見る目だけよ。ならばできるものにすべて任せるのが理にかなったやり方であろう。」
そんな感じでもっともらしいことを言う国王。
「8歳の息子に仕事を丸投げする理ってなんですかね。それで本音は?」
ジト目の王太子が尋ねる。
「仕事なんてしてたら王妃とニャンニャンする時間が減るではないか!」
「あなた!」
潤んだ瞳で国王を見つめる王妃。
「愛しているよ。マイハニー!」
見つめ返す国王。若者そっちのけで甘い雰囲気をだすおっさん。はちみつよりも甘い。喉がひりつく。
「もうやだ、この国。出奔してやる。」
王太子が出ていこうとする。
「それは無理ですわ。」
引き止める公爵令嬢。
「東方聖王国は敗戦の原因となった殿下に懸賞金を掛けています。北方に逃げれば国王にならなくて済みますが族長にされるでしょう。しかも多部族の。ハーレムが形成されるので寝る暇なんてできませんわよ。」
「くっ。まだ西方が・・・。」
「西方の商業連合は有閑マダムのイケメン狩りが横行しているそうですわ。殿下のプロマイドを売りさばいておきました。殿下は彼の国でもっとも有名なお方。やっぱり懸賞金が掛けられているので入国次第捕まって多数のマダムの性欲のはけ口に・・・・。イケメンに生まれた自分自身を恨むんですわね。」
淡々と現状を語る公爵令嬢。ちなみに南は海で王太子は船酔いが酷い。国外逃亡の道は完全に絶たれた。
「お前何やってくれてるの?」
「殿下の逃亡阻止に加えて良いお小遣いになりました。写真とは言え殿下の姿を『おかず』にされるのは癪ですが、少年時代とか私しか持っていないものもありますし我慢しますわ。」
笑顔で答える公爵令嬢。
「何が我慢だ!肖像権の侵害だ!許さんぞ!そもそも謀略で俺を手玉に取れるのだからお前が第二王子と結婚して王妃になって実権を握れば良いではないか?」
「そうは言ってもただのジゴロの第二王子殿下なんて好みじゃありませんもの。」
「あっはっは。諦めるんだね兄上。どーもただのジゴロの第二王子です。」
颯爽と現れる第二王子。
「出たな愚弟。俺がひたすら働いている間に女遊びにうつつを抜かす最低最悪野郎。それでいて小遣い一緒。許せねぇ。せめて俺の半分でも仕事をしろ。」
「やだなぁ。仕事では絶対に兄上にかなわないのは5年も前に理解しているよ。だから王位継承権でももめないし、モラトリアムを満喫しているだけじゃないか!それに俺は花を愛でるのに忙しいからね。この娘達が毎晩寝かせてくれなくて。」
「「きゃぁぁ!第二王子殿下素敵!抱いて!」」
両手に抱えた令嬢たちから黄色い声が上がる。
「ふざけるな。お前は毎日昼寝しているじゃね―か。こっちはまじで睡眠不足なんだよ。てめぇと一緒にするんじゃねぇ。ていうか卒業したらお前の小遣いは全カットだ。歩合給で働かせてやる。」
「ごめんごめん謝るよ。父さんと同じくらいは働くからさぁ。」
さすがの第二王子も小遣い全カットは痛いらしい。
「3時間じゃねーか。絶対に許さない。」
「まあ最悪の場合はヒモになるから良いよ。父さん。母さん。イケメンに産んでくれてありがとう!」
「そうだろう。そうだろう。王妃の美貌に感謝すると良い。」
「まあ、あなたったら。こんな人前で恥ずかしいですわ。」
肌艶の良い第二王子と目の下の隈が消えない王太子。そしていちゃつく両親。まったくもってやっていられない。
「なんでこんなクソ家族のもとに生まれてきてしまったの?神様理不尽です。」
「ほらご覧なさい。あなただって第二王子を認めていないじゃないですか。そんな男に大事な婚約者を差し出さないでくださいませ。」
そう言って王太子に詰め寄る公爵令嬢。
「もういい。お前の結婚相手は好きにしろ。俺は男爵領でスローライフに勤しむんだ。お世話になりました。探さないでください。」
そう言って会場を出ていこうとする王太子。
「そうはいかん!我々夫婦の幸せのためにお前には王太子でいてもらわなくてはならん。おい、お前達!」
国王必殺の指パッチン!
「「ハッ!」」
そこに現れる黒装束の二人組。
「何者だ!」
王太子が誰何する。
「我々は陛下より命を受けた王国の暗部。王太子殿下の見張り兼監視役兼連れ戻し要員、あとちょっとだけ護衛です。」
黒装束の片方が答える。
「見張りと監視役って同じだろ!連れ戻し要員?っていうかなんで護衛がちょっとだけなの?それが本分じゃないの?」
「だってぶっちゃけ殿下には表の護衛がいますし。それに国一番の剣士である殿下には護衛の必要ってほぼないと言うか一回も出番ありませんでしたし。あっ、ご安心を。剣の腕では敵いませんが出奔したりしたら、こっちは人数がいるので眠っている間に無力化して連れ戻しますから。もしくはそこらへんの幼女を人質にして抵抗させませんので!」
「汚い!さすが忍者、汚い!というか幼女を人質にって鬼畜すぎだろ!」
黒装束二人をなじる王太子。
「心外ですな。我々も好きでやっていることではございません。大を生かすためには小の犠牲は仕方ないと心を鬼にしてやっているのです。」
神妙な顔をして答える黒装束。
「それで本音は?」
「どうせ殿下は幼女の泣き顔には勝てないですし楽でいいなと。」
一見完璧に見える王太子も実は欠陥だらけのポンコツなのである。
「もうやだ。この建前社会。」
泣き崩れる王太子。
「気はお済みになりました?というか諦めは付きました?」
公爵令嬢が王太子の前に来て尋ねる。
「絶望した!俺の人望の無さに絶望した!まわりは全部敵じゃねーか。なんで俺こんな国のために働いているの?可愛い幼女だって成長すれば公爵令嬢じゃないか!なんで俺は幼女の涙に勝てないんだよ!」
それというのも幼少期に公爵令嬢をあやしていた事でパブロフの犬状態になっているからである。長年の洗脳恐るべし。というか公爵令嬢の長期に渡る謀略恐るべし。
「仕方がありません。それだけ王太子殿下の力が必要とされているということですわ。ところで男爵令嬢ちゃんと結婚した場合、当然男爵家は養子をとって殿下は王位継承するわけです。この場合私の試算だと執務が一日16時間、閨の時間が1時間、その他食事や入浴、身だしなみを整えたりに2時間として、月に2日の休日になりますね。当然緊急の要件があれば休日は返上です。」
涼しい顔をして鬼畜な未来を告げる公爵令嬢。
「無理です。ホント無理です。っていうかMAXで一日5時間睡眠とか過労死まっしぐら。」
「ですが、ここで殿下に嬉しいお知らせ。なんとこの王妃教育を完璧に終えた私と結婚すれば執務の手助けができますので一日13時間労働で済みます。」
「おお!」
「さらに、宰相である私の父とその息子であり私の兄である公爵令息をこき使うことでさらに2時間の短縮。学業がなくなって労働時間が1時間しか増えない天国のような生活をお約束できます。」
「なんと!」
一日11時間労働でも十分鬼畜ということがわかっていない王太子。環境って大事だよね。
「そして私達の間に子供が出来た暁には、お互い魔力も多いことですし優秀な子供が生まれることは確実。ある程度育ったら仕事を丸投げすればよいのです!どうですこのお得感。私と結婚したくなってきませんか?結婚したくなったら今すぐお電話を!」
「すばらしい!ってお得感で結婚させようとするなよ。というか○ネットとテレビショッピングを合わせたような勧誘は何ナノ?っていうか、目の前にいるのにどこに電話するの?」
「細かいことは良いじゃないですか。で、どうなんです?」
「そうは言っても、1週間前に男爵令嬢ちゃんと結ばれてしまったし・・・・。お金でなかったことなどには出来ないし、責任を取らないと・・・。」
「そのことでしたら問題ありませんわ。男爵令嬢さん!」
そう言って公爵令嬢が男爵令嬢を呼ぶ。
「はい。あの日は殿下と寝室に二人で向かったあと明かりを消して・・・そして潜んでいた公爵令嬢さんと入れ替わったんです。大丈夫です部屋の片隅でそこの黒装束さん二人と一緒にじっくりねっとり見物していましたから公爵令嬢さんと結ばれたのは確定的に明らかです!いやーエロかった。いい勉強になりました。彼氏との生活に役立てさせていただきますね。」
そう言って頷いている男爵令嬢。
「男爵令嬢お前もか・・・。って三人揃って出歯亀か。もうやだこの国。って覗かれるのを承知でとか公爵令嬢は変態かよ。」
「変態ではありませんわ。たとえ変態だったとしても私は変態という名の淑女です。それに殿下と結ばれるためなら多少のことはしょうがないかなって。きゃっ♡」
そう言って口元に両手を当て恥ずかしそうな素振りを見せる公爵令嬢。
「きゃっ♡じゃねーよ。何かあったらどうするつもりだったんだ!」
「殿下がきちんと責任をとってくれる殿方で本当に良かったですわ。」
最高に嬉しそうな公爵令嬢。
「それじゃ約束どおりお願いしますね。公爵令嬢さん。」
公爵令嬢に確認を取る男爵令嬢。
「もちろんです。すでに了承をもらっていますし、約束通り騎士見習いさんとの間は確実にとりもちますわ。」
そう言ってがっちり握手をする令嬢二人。
「え?約束通りって男爵令嬢ちゃんと俺と交わした愛の言葉は何だったの?」
「ぶっちゃけ男爵家に王子様、しかも第一王子って持て余すだけなんですよね。殿下も現実を見ましょうよ。ハニトラってやつですかね。うまく行ってよかったです。」
「俺を売ったのか・・・。」
うなだれる王太子。
「いや~いい条件で売れました。お買い上げ本当にありがとうございます。」
いい笑顔で答える男爵令嬢。
「あまり彼女を責めないであげてくださいね。国王陛下から国民一同たっての望みなのですから。」
そう言ってなだめる公爵令嬢。王太子に逃げ道などどこにもなかった。
「しかし国母となるものが婚前交渉は駄目だろう。結婚式は半年後だ。万が一があった場合、式を大きな腹で迎えるわけにも行かないはずだ。」
「そのことならご心配なく。先週殿下と結ばれたので結婚式の予定は来週に繰り上げました。結ばれた翌日には式場の手配や教皇猊下の日程調整、引き出物の準備、招待状の送付まで全て終わらせてあります。数年前に殿下が制定された有事法制をありがたく活用させていただきました。」
「優秀すぎだろ。もう全部政務はお前一人で良いんじゃないかな?」
「そんな事はありませんわ。殿下あっての王国ですから。それに貴族から商人そのた国民一同の協力があってのことですわ。これもひとえに殿下の人徳あってのこと。これから末永くよろしくおねがいしますね。」
「「「「「おめでとう(ございます)!」」」」」
こうして会場は祝福ムード一色になった。
「これで心置きなく殿下とニャンニャン出来ますわ。今夜は寝かせませんわよ♡」
「結局俺は寝られないのか・・・(ガクリ)」
意識が朦朧としている一人を除いて・・・・。
ちなみに数年後国王に即位し子宝にも恵まれ、ある程度執務を息子やまわりの人間に譲ったあとも王妃となった公爵令嬢は視察先や外遊先までついてまわったため王太子改め国王の睡眠時間はさほど増えなかったと言われている。
「うふふふふ。寝かせませんわよ。」
王太子&作者「安西先生・・・。休みが・・・欲しいです。」
公爵令嬢「おーほっほっほっほ・・・。眠ったらそこで試合終了ですよ。王国の栄光、私の誇り、寝かせはせん!寝かせはしませんことよお!」
「「ぎやああああああああああああぁぁぁぁ!」」
若いうちの過労と不摂生は年をとってからダメージが出たりするので皆さん気をつけましょうね。




