File.1
ぴーピピピピ、
ちょうど気持ちよく熟睡していた総司は携帯の音でやむなく幸福なひと時をシャットアウトされてしまう。
「もしもし、」
「おー、寝てたか?」
それは、会社の同僚からのものであった。
「寝てたよーーー。分かってるだろ!!」
昔から、寝起きのすこぶる悪い総司はかなり不機嫌になっていた。
「まぁー、そう起こるなよ」
「あー?」
「すごいビッグ・ニュースがあるんだよ!聞いてくれよ。」
「はー?それで」
会社では、意外と社交的で愛想のいい方の総司だが電話では別格だった。
電話の相手は会社の同僚かつ近くにすむ同級生の近藤からだった。
「最近、ネットで見つけたんだけど、巌美山に徳川時代の埋蔵金が埋まってるという情報なんだ。巌美山ならここから近いじゃないか!!」
「そんなこと、会社でいえばいいじゃないか、川國浩の探検隊じゃあるまいし・・、」怒ってる時もジョークを飛ばすのは総司の昔からのスタイルであったが、まんざらでもなさそうだった。
「どうせ、ガセだろ?」
「いいや、それがそうでもないんだよ、ネット上の知り合いからもうすでに見つけたという情報をきいている。そして、もうその財宝は換金してひと儲けしたと。」
「おい、じゃーもうないってことだろ?」
「いやいや、その財宝が埋まってる所は実は一箇所だけじゃないみたいなんだ」
「で、?」
カチャ、シュ! 総司はとりあえずベッドから腕を伸ばしてKENT MILD9をとり一服する。
「その場所は巌美山全体に数箇所にわたって埋められてるらしい・・。それも、埋められてからの長い歳月のためにかなり浅い地点で発見されるようになってるみたいなんだ。」
「ほーー」
「明日にでも、簡単に準備して行ってみようぜ!」
「気が早いなー、別に明日じゃなくてもいいだろう?埋蔵金は逃げないよ。」
「それが、もう、そうも言ってられないんだよ。この情報はネット上でだんだん真実味を帯び
てきているんだよ。それに財宝の一部をすでに見つけたネット上での知り合いがいつ仲間内とか周りに吹聴するかわからないだろ?」
「それに、そいつはまた絶対掘りに行くだろう」
タイミングよく今日はゴールデン・ウイークの初日だったこともあり、総司は
「確かに巌美は近いよなー、明日起きれたら行くわ」
今一乗り気のない総司に近藤は言った。
「お前、今年度の競馬の収支は?」
「急になんだよー。」
「ここで、収支をひっくり返そうぜ!」
総司はネットで競馬をしているが今年は大きく負けがこんでいた。
「まぁ、とにかく明日起きたら電話してくれ、昼2時までにこっちに電話がなかったら俺は一人で行くからな。」
「あー、わかったよ」
プツ。
眠るのが大好きな総司だったが一回起こされた場合、なかなかもう一度寝付くことができない性質だった。
「埋蔵金かー、懐かしいなぁ。」(笑)
窓からは、五月のここちよい西日が注ぎ込んでいた。
時計は午後4時半を少しまわっていた・・。
総司は「そろそろひとっ走り行って来ようか」とつぶやきアップライトピアノの上の車のキー
をとるのだった。
ここのところの総司はストレスのせいか休みの午後、窓からの太陽の日差しを浴びながらBEERを飲む癖がついていた。
二階の階段を降りると最近買い始めたシェトランド・シープドッグのJACKが庭でお座りしてこっちをものほしそうに眺めていた。
総司は車庫の愛車にキーを差しバックして車を車庫から出すのだった。
車庫の外周辺はお世辞にも広い余地はなく車を車庫から出すときはあらかじめ前向きに車を止めといた方が楽なのだが、総司はそういうことには無頓着だった。
近くのコンビにでBEER、ウコン、カップヌードルを買い家路に着く総司だった。
総司はこのBEERを買って家路に着くこの時が好きだった。
家に着いた総司は早速お気に入りのやや小さめの専用BEERグラスにビールを注ぎ込む。
少しほろ酔い気分になった総司は自然とレスポール・ジュニアのエレクトリックギターをアンプラグド状態で、ピック弾きするのであった。
曲はお気に入りのUKロックのバラードだった。
総司の外見、雰囲気はどことなくイギリス風ないでたちをかもし出していた。
今日の近藤からの電話の件もあったせいか、いつもより飲み過ぎてしまい総司はいつのまにかソファーベッドの上で眠りについていた・・・。