第8話「FEW030〜雲量1/8〜2/8、雲低の高さ3000ftの日に白王子様は私を連れ出す〜」
こんにちは、かぐらです(*´∀`*)
第8話に突入です。挿絵作業の際、持病で調子が悪かったかぐらでしたが、もはや中毒と化しているダイエットドクターペッパーを飲みまくってなんとか完成させました( ̄▽ ̄;)そんな挿絵も見てやってください…ではどうぞ!
__ピンポーン
ひなはインターホンに確認する。吉野であった。待った時間は僅か15分。
「天鷲さん、迎えに来たで」
「吉野さん…生きてる…!」
「え?」
吉野を見た瞬間、ひなはポロポロと涙を流した。涙を流すひなに吉野は訳がわからなかった。
「僕生きてるけど…って、顔どうしたん?!」
「昨夜、社長に殴られちゃって…」
「酷いことするわ…だったら尚更ここ出た方がええわ!」
荷物を車に運び出し鍵をかけると、ひなは律儀に「お世話になりました」と言って鍵をポストに入れた。
車に乗り込み、2人はシートベルトを締めた。
「忘れ物ないか?大丈夫?」
「大丈夫です」
「ほな行こか、大阪」
「大阪…?!」
「うん、大阪」
ひなは予想だにしない行き先に慌てた。
「あ、あの、お付き合いもしてないからご、ご両親とは…!」
顔を真っ赤にさせ戸惑いをい見せるひなに、吉野はクスッと笑った。
「まさかこの状況で会わへんよ。僕と結婚前提で付き合うてくれるんやったら今度実家に連れて行くけど」
そう言って吉野は大阪に向けて車を発進させた。
「相変わらず道狭いなぁ京都は。対向車来たら出られんやろ…よし、いけた」
馬が一頭通れるほどの道幅しか無い京都の住宅地は、大阪人にとってストレスが溜まるスポットである。
開拓橋に差し掛かったところでひなは吉野に質問した。
「どうして…私を迎えに来てくれたんですか?」
「さっき森藤航空のヘリが一機墜ちたからやわ」
「え…どこで?」
「静岡の山の斜面に…パイロットは心肺停止やって」
「ということは…森藤航空は」
「もう飛べんわ。元々墜ちる30分前くらいに局がさっき警察にガサ入れさせたからもうあの会社は終わりなんよ。
社長が逮捕される前に天鷲さん連れ出さんと、一緒に住んどった天鷲さんの人生まで完全に狂うやろ?」
「どうして…助けてくれるの?」
信号が点滅し、黄色から赤に変わる段階で車を減速させた。
「天鷲さんの人生、僕に預けてほしいから…」
「え…?」
ひなは一瞬でかああと体が熱くなるのを感じた。吉野は“プロポーズ”している。
「僕じゃ…だめやろか?死ぬまでずっと一緒におるんは…?」
ひなは恥ずかしさと色々なこと重なった上での困惑で返事に困っていた。だが、ひとつ言えるのは
ひなも吉野のことが友達以上に好きになりつつあるのということである。
「ごめんなさい…ちょっと待って。色々なことがあり過ぎて困惑してるから…」
「ええよ。僕はいくらでも待てるから。てか、さっきなんで僕見て『生きてる!』って言うたの?」
吉野は先ほど思った疑問を問うた。
信号が青に変わり、車をゆっくり発進させる。
「それは…昨夜社長に吉野さんとご飯に行ったことがバレて殴られた後に、吉野と稲葉は始末した、今頃死んどるんちゃうかって言ってたから…」
「“始末“って…まぁ“始末”されたんはされたんやけど、僕も稲葉さんも死んどらんわ」
吉野はハハハ!と笑い、「ちょっと社長の妄想が過ぎるんちゃうか?」と言った。
「もう心配しちゃったんですよ…吉野さんしばらく既読にならないから泣いちゃった」
「めっちゃかわええやん。すぐに見れんくてごめんな」
「いえ…てか、“始末”ってどんな内容だったんですか?」
「聞きたい?」
「是非」
信号が青から赤に変わり、車を再び減速させた。
「あんなぁ、天鷲さんを送った後に僕は稲葉さんを京都駅近くのホテルまで送ったんよ。でなぁ、すぐに別れずに『今日はありがとうございました』とか話してたわけ。そしたら、いきなり運転席側のドア叩かれて横見たら那智さんがいるんよ」
「那智さんが?」
「そう。ほんでさ、京都タワー近くの駐車場に停めろって言うわけ、話するからってな」
「はい」
信号が青に変わり、ゆっくり発進させる。
「車停めたんよ。そしたらさ、『あんた、天鷲さんとご飯行ったんやろ?』って言うんよ」
___昨夜、駐車場にて。
『行きましたけど、なんですか?』
『社長がごちゃごちゃ言い出しよるねん、なんとかしてぇ?』
『は?そっちでなんとかしてくださいよ、誰とご飯行こうがこっちの勝手だし、僕もう辞める人間ですから。付き合い長いんでしょ?』
吉野はなぜバレたのか内心気になりながら、ひなと匠臣が付き合ってることは知らないフリをした。
『そやから、こっちも色々宥めとるんやけどどうにもならん、もう限界やねん。お願い、社長の命によって●んだことにしてぇ!』
那智の発言はさすがに普段あまり感情的にならない吉野でも感情的にならずにはいられなかった。
『何言うてんっすか!僕はそんなん知らん!もう遅いんで帰らせてください!』
『お願いやからここにサインして命落としたことにしてぇな!』
那智は吉野に「誓約書」と書かれた紙を見せる。
『「私は天鷲さんとご飯行きました。社長の命ににより命を落とします」って誓約してくれたらええねん!』
『あほらし!そんなん後でバレるやろ!航空業界広いようでめちゃくちゃ狭いんやから、風の噂で僕が生きとるってわかるやんか!』
『そやけど!ここで“始末”せな社長が黙らんし、うちの首が飛ぶかもわからん…』
那智は涙を滲ませながら訴えた。さすがにここで泣かれても困るので、吉野はあまり強く言えなくなった。
『…いや、それ以前に森藤航空は既に終わっとる会社やで?数年前にも航空法違反やって勧告出されたんに懲りずにまた堂々と違反しとるんやから、今回ガサ入ったら場合によっては完全に終わりなんすわ。
那智さん、会社の発足時から社長と長いこと一緒にやってきてるんでしょ?わからん…?』
長いこと会話していると、助手席から稲葉が出てきた。
『え…大丈夫…?』
『稲葉さん、すいませんホテルまで送るんで待っててもらってもいいですか?』
『いや、ここはおとなしゅう誓約書サインしてあげるかと』
『え…?』
『吉野くんの字ばよく覚えとるけん。僕が書くわ』
『いやいや、こんなもん書いたら…』
『これさ、どうせ森藤のことやから勢いで作らせたただのままごとの紙だと僕は思うばい。ばってん、こっちも適当に書いて渡しとけば多動のサイコパスは黙るんやなかと?後でなんか言われても多動のサイコパスやけんめんどくさいよー』
『…確かに』
吉野は妙に“多動のサイコパス”に納得してしまった。匠臣は機嫌がいい時社員とのグループLINE上に遊覧の新しいアイデアを垂れ流しで延々と送ってきてはそれをいくらか有限実行する癖があり、それを誰も止められない一面があった。また、思いつきでどこかに行ってしまい、社員が必要な時にいないことが多々あるのである。
『ストーカーとかされても困るな…』
日本全国行く先々で某ゲームの様な『どこでも森藤』を発動されても困るので、吉野はサインすることにした。稲葉には悪いので自分のサインである。
車からログブックを出しその上でサインすると、吉野は那智に渡した。
『おおきに。これでうちの首が飛ばずに済むわ』
『いや、そもそも那智さんのことは社長はクビにしないんじゃないっすか?』
『そんなんわからんわ。…稲葉、もっとちゃんと舐めなさい』
『え…!』
那智は170㎝の長い脚をアスファルトの上に投げ出していた。
稲葉は吉野がサインしている間に那智にハイヒールを舐めるよう命令されたようである。
『あかんあかんあかん!稲葉さん!そんなん舐めたら体に毒っすよ!』
吉野は必死で止めさせようとする。しかし、稲葉はやめようとしない。
『止めんでくれ吉野くん!僕は那智様の命令に背くことはできんばい!』
稲葉は必死で舐め続けた。このままでは朝まで舐め続けているかもしれない。
『那智さん、やめさせてあげてくださいよ!このままじゃあ延々と稲葉さん舐め続けちゃいますって!』
『しゃあないな…稲葉、もう充分やわ。ようやったからもうやめ』
『那智様、僕ご褒美が欲しかです!』
目を爛々と輝かせる稲葉だったが、那智はそれを一蹴した。
『ご褒美やと?!そな世の中甘いもんちゃうわ!罰としてうちんことおんぶして京都駅まで走れ!あほ!|ボケ!カス!』
『はぁぁぁあああい!!那智様ぁぁぁぁ!』
稲葉は那智の命令に従い、那智を背負って終電差し迫る京都駅まで走って行ってしまった。
『え…ちょっ、稲葉さん荷物!!』
完全に1人置いてかれた吉野を京都タワーがただ優しく見守るのだった。
___
「というわけなんよ」
「なんか…急に話があらぬ方向に行ってどう返していいかわからないんだけど…その後、稲葉さんは帰ってきたんですか?」
「ちゃんと無事帰ってきたわ…鼻血出しながら。わかるやろ、話さんでも理由は」
「はい…何となく察しました」
「せやから、僕も稲葉さんも生きてますって話。社長はもうたいがいにせぇやっていうな」
車はナビの「この先、大阪府です」という案内と共に大阪の街に入っていった。