第7話「+TSRA〜黒王子様の本性を知る夜は、雷電と強い雨〜」
こんにちは、かぐらゆういです(*´ω`*)
先行きが見えない昨今、
これからどうなっちゃうんだろうな…。
さて、先行きが見えないといえば…ライトシャワースノーも第7話に突入です。今回は背景などが細かかったりしてちょっと挿絵、特に塗りが結構時間かかりましたね。どうなっちゃうんでしょう…では、どうぞ!
久御山町には約44分くらいで到着し、ひなを森藤邸近くのバス停前で降ろした。
「今日はごちそうさまでした。楽しかったです」
お好み焼き店で泣いていたとは思えない程満面の笑みを見せるひなに、吉野は鼻血が出そうなくらいドキドキしていた。
「ほんま?そ、それはよかった」
吉野の様子を見て、稲葉は隣でニヤニヤしていたる。
「あ!」
稲葉は突然声を上げた。
「吉野くん、LINE交換したと?」
「あ…してないっす」
「何やっとっと!天鷲さん、LINE交換しちゃって」
ひなと吉野はLINEを交換した。稲葉がいなければ2人はLINEを交換しないまま別れていたかもしれない。
「これで遠うに離れても繋がれるっじゃろ」
「稲葉さん、ありがとうございます」
「いえいえ。本来なら吉野くんから交換しようって言わんとばってんがな」
「なんで言ってくれないの?」
ひなは車のドアに手をつき、運転席に座る吉野に目線を合わせて困った顔で聞いた。理由を聞かれた吉野は「それは…」と顔を赤らめた。
「吉野くんなちょっと肝心な時に奥手なんばい。僕がおるけんかな?まー、許しちゃって」
ひなはこっくり頷くと、「吉野さんだから許してあげる」と言ってにっこり笑った。ひなの笑顔に、吉野の心臓は何個あっても足りないくらい撃ち抜かれるのだった。
ひなと別れて吉野と稲葉は京都駅近くのビジネスホテル前に車を停めた。稲葉が宿泊するホテルである。
「稲葉さん、今日はありがとうございました」
「いえいえ。僕も世直しするついでにあん子ば助ける手助けがでけたならお安か御用ばい。それに、吉野くんの恋もね。結婚式には絶対呼びんしゃい」
「結婚式って、まだ付き合ってもないっすよ」
2人で楽しく会話していると、運転席側のドアの窓をコンコンと叩かれる音がした。
「ん?…え!」
吉野は急いで窓を開けた。
「な、那智さん!」
窓を叩いたのは那智であった。吉野は那智の冷ややかな目つきに凍りつき、稲葉は鼻の下を伸ばした。
「ちょっと木津屋橋の駐車場に停めてぇ。話があるんやわ」
那智の指示に従い、吉野は木津屋橋通の駐車場に車を停めた。停めた場所からライトアップされた京都タワーが見えている。
「那智さん、話ってなんすか?」
那智は京都タワーを背に仁王立ちすると、「今後の件についてちょっとなぁ」と鋭い眼光をこちらに向けた。
バス停から徒歩数分で帰宅したひなは、玄関で匠臣の革靴を見つけた。
(あら…帰ってきてる)
靴を脱ぎリビングに入ると、食卓で皮を剥いたリンゴを食べながら新聞を読んでいる匠臣がいた。
「…お帰り」
「ただいま、です…」
1ヶ月振りの自宅での会話であった。そもそも20時に匠臣が帰宅していること自体が1ヶ月振りに等しい。
「今日は早いね」
「仕事が早く片付いたんや。早くと都合が悪いんか?」
「いや、そんなわけじゃ…」
食べていたリンゴを皿に置き立ち上がると、匠臣はひなを抱きしめた。
「なんや臭う…何か食べてきたんか?お好み焼きか?」
匠臣はひなの髪や体についた臭いを嗅ぎ、抱き寄せて首筋にキスした。
「ちょっと…」
匠臣は耳元で囁く。
「吉野に会うてたんか…?」
「いや…やめて」
「なんで嫌がるん?吉野とヤったんか?」
「違う…そんなことしてない」
「じゃあなんでなん?しばらく構われんくて寂しかったんとちゃうの?」
匠臣は唇に口づけようとする。
「や…!浮気してる人としたくないの!」
ひなは匠臣から身を離した。
「那智さんと10年間肉体関係持ってるんでしょ?」
「…知っちまったんやなぁ。持っとるよ、ひなちゃんよりええ体しとるからな…ひなちゃんは料理作れても味濃いし、那智ちゃんより背も胸も尻もちっさいし、ただかわいいだけやわ」
「そんな風に思ってたの…?」
「浮気のどこがいけないんや。別に女が1人や2人おってもええやろ。ひなちゃんやって吉野と仲ようやっとるやろ…なぁ?!」
___バコッ!!
匠臣は右ストレートでひなの頬を殴った。ひなの口から鮮血が飛び散る。
「吉野は那智ちゃんに始末させといたわ。あと、稲葉もなぁ!今頃2人とも死んどるんちゃうか?!あはははははははははは!!!!!」
匠臣はサイコパスな笑みでひなを見下ろす。
ひなが怯えながら見上げると、「なんやねん、その眼ぇは!」と言って再び殴った。
外では雷電が鳴り響き、強い雨が降り始めていた。
翌朝、リビングで目を覚ましたひなは洗面台の鏡で自分の顔を確認した。左頬が腫れ、唇が切れてて出血したところが固まっていた。
病院に行き診断書を貰ったひなは、近くのカフェで退職届を書いてその足で会社に行った。
「…どないしたん、その顔」
「ちょっと転んで…」
那智にカウンター席に座るよう促され、ひなは座った。
「転んだんちゃうやろ、それ…やったん社長ちゃう?」
「なんでわかるんですか…?」
「付き合うとるんやろ?社長と付き合うた女はみんな青アザ作って辞めていくねん」
ひなは退職届と診断書を突き出した。
「…辞めます」
「その方がええわ。地上員としてかなり優秀やから、惜しいんやけどなぁ」
那智はスマホで検索し、女性相談窓口の電話番号をメモした。
「ここに相談して逃げた方がええと思う。うち、あん人と長い付き合いやから色々知っとるけど、普通の人間とちゃう、サイコパスやねん」
「なのに…那智さんはどうしてずっと一緒に?」
「…あん人、色んな女と付き合うたり同棲したりすんにゃけど、最終的にはうちのとこに戻ってきて甘えてくるんよ。うちがおらんと何にもできひんおぼっちゃまやから」
那智は勝ち誇った様な不敵な笑みを浮かべた。
「あん人はうちのことだけは殴らへん…さ、早くここから出た方がええよ」
ひなは会社を逃げる様に飛び出し、タクシーを呼んだ。
自宅に戻るとひなは荷物をまとめ、女性相談窓口に電話した。しかし、なかなか繋がらない。
(…これ以上、殴られたりしたくないのに)
ひなは患部にそっと触れた。左頬に少し腫れがあり歯科で診てもらったところ、歯に強い力が加わったことにより脱臼し半分ほど歯が飛び出した状態であった。また、歯根の周囲の歯が折れていたために口内出血があったという。
15分、30分経っても相談窓口は繋がらず、電話を切った。
昨夜、匠臣が始末したと言っていた吉野にもタクシー乗車中にLINEでスタンプを送ってみたが、全く既読がつく気配すらなかった。
(まさか、本当に“始末”されちゃったのかなぁ…)
ひなは気がつくと涙を流していた。こんなに心細くて切ない気持ちは、かつて両親と祖母を亡くした時以来だった。
(また、ひとりぼっち…)
ひなの涙がiPhoneの画面に一滴落ちると、LINEの通知音が鳴った。涙を拭って通知を開くと、吉野からメッセージが来ていた。
「吉野さん…!」
『ごめん、稲葉さんと親に電話してたから気づかなかったわ』
__ポン!
メッセージの後に「いまどこ?」というメッセージ付きのテレビ大阪のキャラクタースタンプが届いた。
『家にいます』
ひなはメッセージを返した。
__ポン!
吉野からメッセージが返ってきた。
『了解。迎えに行くわ』
(む、“迎えにいく”…?!)
吉野はひなをどこに連れ出すというのか。
『荷物全部まとめて待っとって』
(“荷物全部まとめて”って…まさか?!)
吉野は完全にひなをこの家から連れ去る気である。
『どこに行くの?』
吉野から返信が途絶えた。ひなは吉野がいつ来てもいいように荷物を玄関まで卸した。