第6話「BCFG〜真実は散在する霧の中に〜」
こんにちは、かぐらゆういです(*´∀`*)
第6話です。折り返しきてますよ〜皆様。
今回もお話と挿絵、頑張ってかきました。
いろんなことが明らかになっちゃう第6話、どうぞ!
夕方、後部座席で眠っていたひなが目を覚ました。
「ん…何時かなぁ…」
左腕に身に付けているBaby-Gを見ようとすると運転席から「17時半やで」と吉野が教えてくれた。
「吉野さん…ごめんなさい、長いこと寝てしまって…」
「ええんよ。天鷲さん、この後大丈夫?」
「大丈夫ですけど…どうしたんですか?」
「これから大阪までドライブせぇへん?」
「大阪?!」
「うん。ちょうど今天鷲さんに紹介したい僕の知り合いが大阪におるんよ」
「私に紹介したい人…?」
「全然変な人やないから安心して。一緒にご飯食べながら話するだけやから」
「なんの人なんですか?」
「元ヘリパイで今は航空局にいる人なんよ。なかなか凄い人やで」
「航空局の人ですか…」
「飛行時間2000時間ないとなかなか入れんで、航空局様は」
「吉野さんは何時間ですか?」
「780時間やわ」
「2000時間って相当ですね…」
まだ眠たげなひなに吉野はくすっと笑った。
「まだ寝足りない感じやな。大阪着くまで寝とってもええよ」
「大丈夫…起きてます。助手席行きますね」
眠い目を擦りながらひなは助手席に移動した。
「大丈夫…?ブラックガムでもいる?」
「いいんですか?いただいて」
「ええよ」
吉野はガムを一粒取り出すと、「あーん」と言ってひなの口に入れてやりニコっと笑った。その行為とかわいい笑顔にひなはドキッとする。
「ほな、行こか」
車は駐車場から大阪方面に向かって走り出した。
大阪市東淀川区にあるとあるお好み焼き店。年季の入った暖簾をくぐって趣のある店内に入っていくと、威勢のいい店員の声と共にお好み焼きのソースの焼けるいい香りが2人を出迎えた。
店の左奥の掘り炬燵席で痩せた男が1人、黙々とお好み焼きを食べている。
「稲葉さん」
吉野に声をかけられた稲葉は箸を止めて口に含んだものを飲み込むと、「おう!久しぶりばい!」と笑った。前歯に青海苔が付いている。
「紹介するわ。森藤航空で3年前までパイロットやっとって、今は航空局に勤めとる稲葉さん。僕が事業用操縦士の免許取ったスクールの先輩でもあるんよ」
「はじめまして稲葉です。よろしゅうお願いします。で、こん子は?」
「天鷲ひなさん。京都ヘリポートで地上員やってるんですよ」
「はじめまして、天鷲ひなです。よろしくお願いします」
「あー!あーたが天鷲さんって言うと?吉野くんから話は聞いとーよ」
「どんな話ですか?」
「綺麗なよか子で、地上員としてんの働きぶりも申し分なかて」
「そ、そうなんですか?」
吉野は顔を赤くしていた。
まだ立っている2人に「ほら座って食べようや」と稲葉は促し座らせた。
稲葉は食べながらも佐賀弁でよく喋るタイプで、爬虫類顔のイケメンにもかかわらず歯に青海苔が付いているのも気にせずよく笑った。
「ひゃははははは!!」
そして、よく食べるのであった。
(あの細い体のどこに収まってるんだろう…)
ひなは稲葉の胃袋事情が気になったがそれは敢えて聞かないことにした。
食事と会話が程よく進んだところで話は森藤航空に移った。
「最近森藤航空はどうと?相変わらずやりまくっとーじゃろ?“例んあれ”」
「やりまくりっすよ」
(“例のあれ”…?)
ひなは“例のあれ”が気になった。
「あの…稲葉さん」
「どがんしたと?」
「“例のあれ”ってなんですか…?」
稲葉は少し残ったウーロン茶を飲み干してから説明した。
「白タクのことばい。森藤航空は他県では正当なフライトしとーばってんが、京都ヘリポートでは事業機登録しとらん自家用機でフライトしてお金儲けしとーばい。あーた、知らんで地上員しとったじゃろ?」
「もしかして、全機“自家用”ですか?」
「京都の一部ん機体は事業機登録しとーばってんが、殆どん機体は自家用機で僕らが乗っとう車と一緒。個人の車でタクシー商売やったら捕まるじゃろ?そがんのば平気でやるとばい、森藤社長は」
「…私も知らずに犯罪に加担してた…?!」
ひなの中でじわじわと罪の意識が出てきて、恐ろしくなってきた。
「あーた、森藤社長と付き合うとーし同棲しとーじゃろ?あがんサイコパスと付き合うとったら、人生終わるばい」
「え…なぜ、知ってるんですか…?」
「稲葉さんの仕事って教育証明(自家用パイロットに事業用操縦士の教育ができる資格)の試験官や事故調査の仕事が主やけど、裏では事業会社の悪事を暴く為に証拠集めとかもしとるんやわ。言っちゃうと半分警察みたいなことしとるから、社長のことはよく知っとるんやで」
「パイロットとして森藤航空におった期間言うんな、今思えばスパイやっとったもんやわ。吉野くん、すごかやつと知り合いじゃろ?社長と僕は敵同士や」
稲葉は黒のビジネスバックから数枚のL判の写真と報告書を取り出し、ファイルの上に置かれた写真ひとつひとつに指を指して「これもこれもみ〜んな白タクばい」と説明する。そして、その中から1枚ひなと匠臣の写真が出てきた。
「ある意味航空の警察屋さんだけんね、あーたのことも知っとったと。ごめんね隠し撮りしとって。たまたま京都で見てしもうたけん、2人でおるところ」
写真にはショッピングモールで手を繋いで歩いている匠臣とひなが写っていた。出会った頃にひなの必要なものを買い出しに来た時のものだ。
「いやー、びっくりしたわ。森藤ん那智さん以外ん女ん子と手を繋いで歩きよーとけん、思わず連写ばい」
ひなは写真を見ながら手を震わせた。もしかしたら、ひな以外の女との写真も稲葉は持っているかもしれない。
「もしかして…私以外の女性といるところも…?」
「あん…ショックかもしれんばってんが、あーた以外ん写真もある…見っ?(見ます?)」
ひなは小声で「見ます」と答えた。稲葉は再びビジネスバッグに手を伸ばし、写真を見せた。
「実は那智さんな秘書兼経理以外にもお仕事ば与えられとりまして…社長と伽ばやなぁ過ごすばい」
稲葉の息は妙に荒くなっている。
「稲葉さん、今は那智さんの情事を想像したらだめっすよ…」
「あ、すまん…!那智さんのナイスバディば10年貪っておきながら新しゅう出会った天鷲さんと付き合うたばい、森藤は。ばってんが、最近は飽きたんかまた那智さんとホテル入っていくんば僕は京都来るたびに見るごとなったんや!」
__ザクッ!!ザクッ!!ザクッ!!ジュー!!
稲葉は鼻血を出しながら焼いたお好み焼きを切り分けた。
「ジャンルん違う美女2人も食い散らかす男は僕は好かん!悪かこと言わんけん、早う別れて森藤航空とは綺麗さっぱり縁ば切るべきばい天鷲さん!!最近森藤構うてこんじゃろ?!」
「はい…一切話しかけてこなくなって、スキンシップもありません。遅くまで家に帰ってこないし…」
ひなはポロポロと涙をこぼす。
「浮気してるのかなって思うこともあったけど、忙しいだけかなって思い直して忘れようとしてた…でもやっぱりそう言うことしてたんだって…今知りました。
相手が那智さんって言うのが私ショックです…身近な人だけに…」
止めどなく溢れる涙を必死でこらえようとするひなに、吉野は隣から優しくティッシュを差し出す。
「…ありがとうございます…」
「森藤はバツイチなんやばってんが、知っとー?」
「…はい」
「離婚した理由は?」
「知らないです…」
切り分けたお好み焼きを3人の皿に盛りながら稲葉は話す。
「離婚ん理由は、森藤ん不倫や。奥さんが妊娠ばしたくらいに那智さんと祇園のキャバクラで知り合うて、それだけでん奥さんからしたら酷なんに体ん関係ば持った。それが5年続いて発覚したとたい。それが森藤ん離婚理由」
「…酷すぎるやろ」
思わず吉野は心の声が漏れる。
「そがんことがあったせいもあると思うばってんが、森藤は婚姻ん法律に賛同しとらん。あん人の中で独自ん法律があって、結婚も航空も法律ば平気で犯すったい」
稲葉はお好み焼きをひとくちで放り込むと、咀嚼しながら話す。
「スーパーで商品ばレジに通さず持って出たらいかんじゃろ?こりゃあ例えだけど、そればあん人は『俺が手に持ったけん、こりゃあ俺んもん』って言うわけ。つまりそがん“俺独自ん法律”があん人の中にようけあるわけだ。もし局んガサ入って何かで京都府警が動いたら、あん人は逮捕されっじゃろ?そん時に森藤は独自ん航空法ば大声で唱え出すよ、だってサイコパスやけん」
「サイコパス…」
「そう。天鷲さんの前では出さんんかしれんばってんが、あの男は相当なサイコパスばい。ほら、お好み焼き食べて力つけよう?男女ん別るっときは付き合う時よりもがばいカロリ消費すっけん」
「…はい」
ひなは最後の1枚に箸をつけて食べ始めた。まだ頭の中が混乱しているが、匠臣があまりよくない男であることは理解できた。
会計をして3人は店を出た。駐車場で吉野の車の前に来ると、3人は立ち止まり互いの方を見た。
「天鷲さん」
「はい」
「とにかく色々な事情があるとは思うばってんが、あん男とは早う別れて森藤航空ともおさらばしたらよかばい。そして次はひとりで強う生きっか、よか男見つくっかのどっちかを選んで欲しか」
「はい、是非ともそうします」
「あ、もしよか男見つけんないば吉野くんよか物件ばい。吉野くんならよかパイロットやけん、安定の大手に入れるっじゃろうし、数年後にはお爺さんの遺産が入るごたっけん候補に入れて損はなか!僕が保証すっばい!」
稲葉は吉野の肩をポンポンと叩いた。吉野の顔は恥ずかしさで真っ赤である。
「稲葉さん…こんなところで恥ずかしいっすよ…ここ、僕の地元…」
「わかっとーばい!ばってんが候補に入りたかじゃろ?」
「入りたいっす…あ、いや、あのべ、別に変な意味はないから気にせんで」
「ひゃーはははっ!わかりやすか男ばい!」
ひなは吉野が微笑ましくてくすっと笑った。