表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/10

第3話「VRB02KT〜白い王子様との出会いは、風向が定まらず風速2kt(風速4m)」

こんにちは、かぐらゆういです(*´∀`*)


第3話です。えー、読者様にも言われましたが、今のところ不穏すぎます( ̄▽ ̄;)ひと言で“色々やばい”ですよね笑

さあ…どうなるかはこの先長いであろうお話を読んでくださるとわかるよ?どうぞ!


挿絵(By みてみん)





2日後、ひなは匠臣と共に森藤航空に出勤した。




「ひなちゃん」


「はい?」


「会社では同居してることは内密にして。変に色々と詮索とかされたら、ひなちゃんかて嫌やろ?」


「嫌です…」


「そやから内密にして。あと、先に入るからひなちゃんちょっと待っといてほしいねん。LINEするわ」


「わかりました」





約10分後、ひなのiPhoneが鳴った。ロックを解除しトークルームを見ると、京都府公式の繭をモチーフにしたキャラが「いいよ」と言っているスタンプが送信されていた。


車を降りて会社に入ると、カウンター内にスーツを着た金髪の派手な女性が立っていた。

挿絵(By みてみん)




「おはようございますぅ。社長から話は聞いとります天鷲あまわしさん、ですよね?」



「はい、はじめまして天鷲ひなです。おはようございます、これからよろしくお願いします」



「履歴書はお持ちで?」



「はい」




ひなは買い物や役所での届け出後、履歴書を書いていた。既に匠臣は内容を知っている。





「お預かりします。申し遅れました私、仲村那智なかむらなちと申します。社長秘書兼経理をしております。よろしゅうお願いします」





那智は派手な見た目に反して礼儀正しく名刺を渡す。しかし、那智は長身でスタイルが良く、ブラウスのの胸元が開いているせいで豊かに育ったものが見えていた。バストサイズは推定Jカップはありそうで、ひなは同性ながら目のやり場に困っている。




「…天鷲さん…京都市内の高校を卒業後、O短大の幼児教育保育科にに進まれたんですね…1年後中退」



「はい」



「どうして中退されたんでしょうか?」



「私の両親は私が15歳の時に離婚しまして母子家庭でした。呉服店経営の祖母とパート勤めの母が学費を出してくれていたんですが、ある日母が過労で亡くなりました。そのあと祖母の店の経営が傾き始め、学費を工面するのが難しくなり中退いたしました」



「ご不幸が続いとったんですね…中退後おばあ様のお店でお仕事されとったんですかね?」



「はい。祖母の持病が悪化してずっと立っているのが辛いということもありましたので、私が代わりに店頭に立って接客しておりました」



「なるほどですね…では、経営状況が思わしくない中ではあったとは思いますが、お店で何かやり甲斐を感じる場面はありましたか?」



「はい。接客したお客様が後日ご来店された際、『あの着物よかったわ』、『娘と孫が褒めてくれはったわ』などと言ってくださった時に、とてもやり甲斐を感じました」



「そうでしたか。そやったら問題なくうちでも接客できますねぇ」





ひなは笑顔で力強く答える。





「はい、できます」



「期待できそうやな…あ、社長から先ほど聞きましたが、お父様の方のおじい様が陸自出身のパイロットやったそうで」



「はい、そうです」



「小学生の時にR44で遊覧されたこともあったそうですね。その時、地上員さんはいらっしゃいましたか?」



「はい、いらっしゃいました」



「今回うちでその仕事をやっていただきます。まず2日間研修を受けていただくんですが、その研修を行うのはうちで地上員を長くやっとる人間です。もう5年はやっとるんちゃうかなぁ。厳しいことも言われると思いますけど、その分ちゃんとした教育が身につくと思いますんでせいだいお気張りやすぅ。では、これで面接は以上です。何か質問などはございますか?」




「はい」




ひなは手を挙げて質問する。





「あの、地上員の研修期間は2日間ですけど、この会社での試用期間というのは?」



「そやね。3ヶ月ですわ」



「3ヶ月ですか」



「うん。地上員の仕事が主であとは外部から来たお客様にお茶を出したり会社内の掃除やったりするくらいやから後は多少の雑用がちょっとくらいかな。覚えることはそんなに多くないけど、3ヶ月間であなたがどれくらい仕事できるかとかどんな人間かっていうのを見せてもらおうとこちらは思っとります」




外で強風が吹き、ガタガタと窓ガラスが震えた。




「ほんで、研修期間中のお給料なんやけど、あなたのご事情が複雑でしょ?そやから社長のポケットマネーで家賃光熱費を負担するので手取りは13万からスタートします。もちろん社会保険も込みでな。あなたの働き次第でどんどん上がっていくねん、それでええかなぁ?」



「はい、大変ありがたいです」



「他の地上員にはこの件は内密でお願いします。他のパイロット以外の地上員はみんな自分で家借りて家賃光熱費払うとるからな。うちもやけど」



「あの、パイロットさんは」



「うちはパイロットは全員寮に入ってもろてんねん。ここは特殊な会社やから数日単位、もしくは月単位で日本全国出張しとるから個人個人で家借りるのはしんどいし、独身しかおらんからな。あ、何か言われても絶対天鷲さんは寮に入ったらあかんよ、“食われるで”」



「わ、わかりました…」



「ま、何人か若いのがおるからご飯くらいは誘われるかもしれんけど、寮には入っちゃあかん。もし仮にそん中にいい人おって、“そういうこと”したくなった場合はラブホやな♫」



「はい…」





ひなは那智の露骨な話に顔を赤らめた。





「何かあったらうちに言うて。この会社、女はうちしかおらんのよ。愚痴でもなんでも窓口になったるからな」



「ありがとうございます」



「この見た目やからわかるかもしれんけど、うち元々祇園のキャバ嬢やねん。親の借金カタつけるために夜の世界に入った人間やからあんたの苦労はわかる。あと5年、10年すれば今の苦労は過去のものになってちゃんと報われるはずやからな。今ここで気張っとけば大丈夫や」





那智は優しく微笑んだ。派手な見た目からは想像できないほど、その微笑みは聖母マリアの様に美しかった。

挿絵(By みてみん)




「さて、社長と地上員呼んで研修始めるかぁ。これからよろしゅう頼むでぇ」





ひなの地上員研修が始まった。大好きなロビンソン機に関わる仕事ができることに、ひなはこの上なく幸せに感じていた。









面接から3ヶ月が経ち試用期間が終わったひなは、すっかり森藤航空での仕事にも慣れて会社に溶け込んでいた。


今日は風向が定まらない日で、最大で風速4m吹いている中、ひなは出勤した。





「おはようございます、天鷲さん」





新人パイロットの武本が出勤してきた。





「おはようございます、武本さん。今日はどちらに?」



「今日は小豆島に行きます。いつもの時間付けです」


「頑張ってくださいね」





ひなは武本に笑顔でエールを送った。




「はい、頑張ります!」



「おはようさんどす〜天鷲さん」





今度は新人パイロットの田辺が出勤してきた。





「おはようございます、田辺さん。今日はどちらに?」



「今日はねぇ、八尾まで社長乗せて行きますわ。社長横に乗せる時はいつもより緊張しとる自分がいるんですわ。はぁ〜しんどぉ」



「肩の力抜いて行きましょうよ。社長は鬼じゃないですから大丈夫ですよ」



「そうかなぁ〜。社長天鷲さんには優しいんでしょうけど、僕らには鬼になるんですわ。もういつ金棒振り回して、積んだ石崩してくるかわからんってヒヤヒヤしとるんです」



「あら、そんなに怖い人だったなんて知らなかったです。でも、それって愛のムチだったりして」



「愛のムチ程度やったらいいんやけどねぇ〜。いずれ天鷲さんも社長の怖いところ見ると思いますよ」



「そうかなぁ…」






若い新人パイロット達と挨拶を交わし、ひなは会社内に入った。始めの頃は匠臣の車で出勤し時間差で入っていたが、2日間の地上員研修を終えてからはひなはバスで出勤していた。




「社長、おはようございます」

挿絵(By みてみん)



社内に入るとカウンター席で見慣れない男性といつもより早出だった匠臣が何やら話し込んでいた。男性は黒のフライトジャケットと思われる上着を着ているため、パイロットかもしれなかった。





「おはようさん。紹介するわ、うちのパイロットの吉野」





匠臣に紹介された男性はひなの方に体を向けると自己紹介した。





「はじめまして、吉野春雪よしのはるきと申します」



「こちらこそはじめまして、天鷲ひなです。よろしくお願いします」



「吉野は夏場は北海道遊覧専門でやっとるんやけど、冬になったら関東で東京遊覧やっとるんやわ。今回は人手不足やから急遽京都に来てもらったってわけやねん。天鷲さんが小学生の時遊覧したっていう知床もやっとったんやで」



「知床も?!」





ひなは目を輝かせて食いついた。





「はい、7月から11月までやってました。…え?小学生の時に遊覧って」



「お父さんの方のおじいさんが陸自出身のパイロットやったんやて」



「そうなんすか!それで小学生の時に知床遊覧っすか」



「北海道の札幌出身やねん。なぁ、天鷲さん」



「はい、15歳までいました」



「どうりで…綺麗やわ…」




吉野の顔がほんのり赤く染まり、銀縁眼鏡の向こう側で少し瞳孔が開いていた。そして、小声だが彼の出身の大阪弁が出てしまう始末だ。ひなは気づいた、吉野が自分に熱視線を向けているのは明らかであると。

挿絵(By みてみん)



(吉野さん、社長よりもわかりやすいかも…)




ひなは内心困った。吉野は悪い人ではなさそうだし、真面目そうな吉野の見た目はひなにとって好みのタイプである。しかし、今は秘密で匠臣と付き合い同棲しているのだ。吉野の気持ちに応えることはできない。


助けを求める様にひなは匠臣に目線を送ると匠臣は吉野に対して不気味に微笑みながら、




「吉野、天鷲さんに手出したらあかんで?」




と言った。その言葉に我に返った吉野は、




「何言ってんすか。会社でそんなことしませんよ」




と、にこやかに答えて眼鏡をくいっと中指で持ち上げた。





「なら、ええんやけど」




挿絵(By みてみん)

そういうと匠臣はひなにちらりと目線を送った。切れ長の目が刃の様に鋭く光っていて、ひなは恐怖で悪寒を走らせた。側から見てもわかりやすく恋に落ちた吉野に相当な怒りを覚えたのかもしれなかった。





(初めて社長の怖いところ見たかも…)





外で風が吹いて窓ガラスが大きく唸った。掃除用のバケツが大きな音を立てて転がっていくのが見える。




「吉野、今日これ飛べるん?」


「僕ひとりだったら余裕で飛びますけど、遊覧向きではないっすね」


「お前は群馬で訓練した言うてたから平気かもしらんな…俺は乗りたないな…」


「社長今日どっか行くんすか?」


「田辺の操縦で八尾行く予定なんやけど、この風やったらグラングラン揺れて吐くかもわからんやろ…車で行こかな」





ひなは2階の個人ロッカーに行き、バッグを置いた。


それから1日ひなは匠臣に話しかけることができなかった。家に帰っても深夜まで匠臣は帰ってこなかったので、朝以外言葉を交わさなかったことになる。





(この頃出張が多かったり帰りが遅かったりして休みの日と仕事後のデートも減ったし、やっと勇気が出せて関係が結べたと思ったのに一緒にいても全然迫ってこなくなった…)





思えばキスなどのスキンシップは初めの1、2ヶ月だけだった。不意打ちのキスやバックハグは当たり前のように行われていたはずなのに、3ヶ月目でパタリと無くなってしまった。





(どうしたんだろう…私飽きられちゃったの…?)





身も心も匠臣のものになった途端に居なくなってしまうなんて想像すらしてなかった。仕事で疲れているだけとかならいいのに…と思う。


ひなは明日に備えて匠臣を待たずに眠ることにした。2人が出会った頃を思い出しながら…。








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ